第2話魔眼を宿す少年〜2〜
ゼルファー王国にあるイルシェンと呼ばれる街にある宿屋を後にして約5日間が過ぎた。
それまでの道のりは特に何かがあった訳ではなく、平和な馬車の旅を満喫していたハジメはゆっくりと流れる馬車からの景色を地面を走る車輪の音を聞きながら眺めていた。
そんな馬車に5日間揺られ、ようやく目的地へと辿り着いた。
そこはゼルファー王国のイルシェンの遥か西に存在する小さな街で、ナハルと呼ばれている。
都会と比べると田舎街と呼ばれる程の規模の街である。
門を馬車で潜り、宿屋の前で五日間を共にした馬車に別れを告げ、ハジメはナハルの大地に降り立つ。
「……気は進まないが……嫌な用事はさっさと済ませるか」
心底嫌そうな表情と共に荷物片手に手紙の主である師匠の元へと歩き出す。
大通りを抜け、ナハルの街の端にある一軒の家屋がハジメの視界に入る。
ハジメは扉をトントンと軽くノックする。
するとカツカツ、ペタペタと音の違う足音が聞こえてくる。
「……(なんだ?師匠とは違う足音が混じっている?)」
疑問に思っているとハジメの目の前にある扉がギィィっと音を立てながらゆっくりと開く。
「待ってたよハジメ。わざわざ来てもらって済まないな。ほら、褒美だ。私の胸に飛び込んでおいで!」
金色に輝く長い髪。
目は透き通る様な青色。
身長は170センチ程もあり、スレンダーな体型をしている女性が両手を広げてハジメを迎えいれようとしていた。
「…いや、いかないから。いい加減、そういうのは辞めて下さいと言っ……て……って、その子供は誰ですか?ま、まさか…師匠の娘ですか?」
師匠の対応の仕方に呆れながら文句を言っていると、ハジメの視界の端に見たこともない少女の姿が視界に入る。
その少女は師匠の背に隠れながら、師匠の履いているスカートを弱々しい手でギュッと握りながらチラチラとハジメに視線を向けていた。
「…何を言ってるんだハジメ?お前と私の娘だぞ。まさか知らないと言うはずはないよね?」
「知りませんよ。師匠とそんな関係になった覚えもありません。馬鹿な事を言ってないで本当の事を話して下さいよ」
「…つまらん奴だ。昔はあんなに可愛かった私のハジメが一体何があってこんな可愛げのない少年へと成長したのだ。師匠は悲しいぞ」
腕を目元に運び、ゴシゴシと流してもいない涙を拭う仕草をする師匠。
その仕草が嘘だと理解しているハジメはそれを無視するかの様に話を進める。
「…もう一度言いますけど、その少女は誰なんですか?もしかして今回の頼み事に関係してるとか言わないですよね?」
「……感がいいなハジメ。まぁ、詳しい話は奥でしよう。入ってくれ」
ハジメの真剣な表情に気づいた師匠は先程とは正反対の真面目な表情、声色で返答し、ハジメを家屋へと招き入れた。
その師匠の足元に弱々しく縋り付いている少女は不安な表情を浮かべながら今一度ギュッと師匠のスカートを握った。
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