第31話 役に立てるのなら②



「こちらです」



 乃亜のあさんに、螺子ねじさんの後ろを……国綱くつなさんと一緒についていきます。


 暗くて……少し居心地の悪い廊下でしたが、だんだんと壁が変わっていきます。細長いものが壁代わりになっていましたが、その向こうでは。



「……出せ」


「…………出してくれぇ」


「出せよ出せよ出せよ!!」


「だ……せ!」



 などと、様々な存在が……同じ言葉を口にしました。


 どうやら……彼らは、簡単には出られないようです。きっと、悪い事をしたから出られないのでしょう。ちょっとびっくりしましたが……国綱さんが気にされていませんでしたので、私も出来るだけ気にせずに乃亜さん達について行きます。



「……ここです」



 そして、存在の声も聞こえなくなったあたりで……乃亜さんは止まりました。


 見るように言われた場所は……たしかに、螺子さんや国綱さんが私に見せたくなかった光景でした。


 赤い。


 黒い。


 欠片がたくさん。


 壁や床に、溜まった赤い水のような場所。


 記憶が無い状態の私だから……耐えられるのかもしれません。


 たしかに、何も感じないわけではありませんが……気持ち悪い、と思ったくらいです。目を逸らすとか逃げ出したいなどの気持ちは……出てきませんでした。



翠羽みはね、大丈夫?」


『……はい』



 意外と、冷静でいられるのが不思議です。記憶のない幽霊だからでしょうか?



「……であれば。翠羽さんにお願いしたいことは……ここを『戻す』ことです」


『……戻せばいいんですか?』


「……何かしらの結果が出ると思いますので」


『……わかりました』



 触らなくても……『戻す』ことは可能だと。まだ数回程度の魔法ですが……わかりましたので。


 気持ち悪いここを……どのように戻るかは、私もやってみないとわかりませんが。


 両手を前に出し……ここを『戻す』ことを考えてみました。


 元のように。


 元あった状態に。


 壊れる前に。


 元通りに。


 それを考え……手に力を込めてみました。



【戻れ】



 あの声です。


 魔法を使う時の、あの声です。


 聞こえたと同時に……『目の前』が動いていきました。


 赤い水……血の溜まりが集まっていき。


 固まっていた何かが、少しずつ動いてひとつになり。


 血は消え、服を着た『何か』。


 何も考えていなさそうな……細い手足の『男性』が出来上がりました。



「「「これは……!!」」」



 私もですが……皆さんも驚いていらっしゃいました。


 私は……もしや。


 死んだ『存在』まで元に戻してしまったのでしょうか??


 乃亜さんが、ゆっくりと……中央で座っている男の人に近づきましたが。その存在は、乃亜さんが前に来ても……何も話したりしませんでした。

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