第25話 透明の知己

 許しがたいことです。


 あのように……まだ十代の女の子を巻き込むとは。


 しかしながら……『魍魎もうりょう』、奴らの落ち度は……きちんとありましたとも。



「……私より若いですが、『蘇芳すおう』を敵に回してしまった」



 国綱くつなさんの御宅から出た後……私は、彼の家の外を久しぶりに眺めました。


 まだ私が青二歳だった頃、彼のご両親が事故で亡くなる前……蘇芳の擁護もあり、警察にも保護要請を受けた時です。


 私が透明人間と言うこともあり、担当の一人として上司と訪問しましたが……まだ、国綱さんが小さな子供の頃でした。蘇芳と言う寄生型の能力を持つ人間を初めてみた瞬間でしたが……実際は可愛らしい少年で、国綱さんは人見知りせず、透明人間である私にも懐いてくださいました。


 実は、翠羽みはねさんとも初対面ではありません。


 記憶と幽体化以前に……国綱さんの許嫁と言うことで、紹介され、私のことも知っていたはずなのに。


『なにも覚えていなかった』。


 常識についても、随分と希薄。


 行方不明になる前に、国綱さんからも捜索願いは出されていましたが……あのような形で彼の元にいるとは。



「……隠してはいますが、胸中では相当複雑でしょう」



 事故で、お互いの両親を失ってしまった。


 あの時は、国綱さんも蘇芳としての能力が未熟で……車でのよくある事故だったとは言え、彼は両親を助けることは出来ませんでした。


 葬儀で、二人が泣くのを堪えていた記憶は……私の見えない瞼にも焼きついていますとも。


 だからこそ……私が後見として、彼とは接点を増やすことにしました。


 彼が進学しても、就職はせずに彼の両親の家業であった『何でも屋』を再開したいと提案があった時は……よく話し合いました。死に急いではいないかなどと色々。


 ですから……翠羽さんの現状は、彼の負担を大きく増やしてしまっているのに。


 彼女自身も……特殊な能力をあの状態で目覚めてしまった。


 私と国綱さんは、少しばかり彼女に嘘をつきましたが。


 彼女の能力も、また……国綱さんのと同じ、奇声型なのです。



「『時蟲ときむし』……ですか」



 蘇芳と同じく、宿主を選ぶのは気まぐれだとされていますが。


 いつ、どこで。どのタイミングで宿主を決めるのは、本当に気まぐれ。


 文献程度ですが、彼女の母親も同じ宿主だったので……事故を機に娘を選んだのでしょう。ただ、開花したのは、嗅ぎつけた魍魎らを危惧して……幽体化にされた時でしょうが。


 時間流を操作して、傷などを治すのはまだまだ序の口。



「守りましょう。助けますよ、お二人とも」



 警察としてもですが、知己でもある一個人としても。


 彼らの生活を……元の平穏に取り戻して差し上げたい。


 だからこそ……署に戻り、あの幹部らしき奴をさらに絞り上げましょう。


 ですが。



乃亜のあ課長!! 大変です!!」



 戻ってきてすぐさま取り掛かろうとしたのですが。


 一度聴取した彼は……牢屋の中で、いきなり爆音を轟かせ、身体を粉々にしたとの部下からの報告がありました。


 牢屋に行くと……能力防止の柵の向こう側では、潰れた肉があちこち壁や床に散り散りになっていて。


 絶対……若い者には見せたくない、悲惨な光景となっていました。



「……魍魎の、やり方か!」



 考えられるとしたらその程度。


 下っ端の時はありませんでしたが……幹部間近だと呪いを施していたのか。


 これでは……足が辿れない。普通なら。


 出来れば呼びたくはありませんが……見通す能力を持つ、国綱さんの蘇芳を借りるしかないでしょう。

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