第23話 見えない視えない

 打ち上げと言うのも、無事に終わり。


 私と国綱くつなさんとの、二人での生活も戻っていきます。


 とは言っても、国綱さんのお仕事である『何でも屋』さんは再開されるようです。



「いや〜、国綱さん。昨日はお疲れ様でした!」



 お家に来られたのは、エルフの琥珀こはくさんではありませんでした。


 私と違い、完全に見えない存在のようです。


 ただし……服だけはちゃんと着ていましたが。あと、声は男性でした。



乃亜のあさんこそ、お疲れ様です」


「いえいえ。国綱さんこそ! 我々警察が捕縛出来なかった連中のひとりをああもあっさりと!」



 どうやら、乃亜……さんとおっしゃる方は『けーさつ』の方のようです。服装で思い出しましたが、紺色のかっちりした服装を着ていました。昨日、あの黒い布の存在を渡した彼らも同じ服どうでしたしね。



「……得たいものを辿ったついでです」


「ほう? 私が聞いても?」


「……その前に、ここにいる彼女は視えますか?」



 国綱さんが私に振り返ると、お優しい笑顔を見せてくださいました。身体の真ん中が、またきゅっとなります。嫌ではありませんが。



「? ああ……今やっと。やはり、霊力が低いと時間が掛かりますねぇ?」



 どうやら、乃亜さんにも私が見えるようです。



『……はじめまして。翠羽みはねと申します』


「これはこれはご丁寧に。まだら町警察の課長をしています、乃亜です。国綱さんにはいつも仕事でお世話になっている者なんですよ」


「翠羽、彼は透明人間と言う種族なんだ。優しい方だよ」


『……とーめーにんげん?』


「おや? 記憶がお有りでない? しかし……右足だけははっきり存在していますね?」


「……昨夜引き渡した連中が、彼女の身体をバラバラにして。力を得ようとしています」


「……これはこれは。奴にも聴取しましたが、やはり『魍魎もうりょう』が関係しているのでしょうね?」


「……やはり」



 もーりょーと言うのはよくわかりませんが。


 おふたりのご様子ですと、良くない存在なのでしょう。


 私の身体を……バラバラにして、昨日何をしようとしていたあの黒い布の目的はわかりませんが。


 絶対……良くないものとだけは、私でも理解出来ます。



『……国綱さん。私、聞いていて……いいんですか?』



 最初は同席をお願いされましたが、これ以上お仕事の内容を深く聞いていいのか気になりました。私の魔法は、今使っても意味がないでしょうから。


 だから、お聞きしたのですが……国綱さんは、困ったような微笑みを浮かべていらっしゃいました。



「君が辛くなければ……いて欲しい」


『……わかりました』



 その微笑みがあるのであれば……私はここに居ます。


 居ることでお役に立てるのであれば……ここに居ましょう。


 記憶がなくとも、身体にひとつ程度が戻っても。


 特に役に立たない存在であれど、居る事で意味があるのならそうしますとも。



「ふむ。魍魎と翠羽さんの散り散りになった身体のパーツ。それが深く関係しているようなのですね?」



 乃亜さんがそう口にされた言葉に……国綱さんは彼を見て、こくりと頷きました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る