第20話 何もないことに

 触れていただいています。


 足だけですが、とても嬉しいことです。


 むーちゃんさんに、たくさん触っていただいています。



『……綺麗、綺麗』


『ありがとうございます』



 細長い手足のようなもので、ペタペタと触っていただいています。


 冷たくて、プルプルしたような感触で。


 とても気持ちがいいです。嫌だとは思いません。



『……他も、早く……見つかるといい』


『はい。私もお手伝いします』


『? 翠羽みはねは、依頼者?』


『お願い……したとは思うんですが』



 お仕事……になっているのでしょうか?


 お金……などは、何も持っていませんが。


 そこで、気づきました。


『私』は何も持っていないことに!!



『……翠羽?』


『……わ、私……何もないです!』


『? 何も?』


『お……お金、とか』



 居候させていただいてもいますが……こう言うのを、『只働き』と言うはずです。自覚すると、ないはずですのに頭の中がぐるぐるしてしまいそうでした。


 どうすれば良いのでしょう!!?



『……心配、ないと思う』


『むーちゃん、さん?』



 私が慌てていますと、むーちゃんさんはゆっくりと足を撫でてくださいました。



国綱くつなが……無条件に、力を使おうとしないと思う』


『……国綱さんが?』


『あの子は、ああ見えて……利己主義だから』


『りこ?』


『自分にとって、よくないものに……手を貸さない。翠羽には、なんて言ってくれた?』


『……見つけてくださる、と』



 ご自分の力……『蘇芳すおう』に誓うとおっしゃってくださいました。


 あの時は、ただ自分の身体を戻すために……力を貸してくださるためだと思っていたのですが。


 すーちゃんさんがおっしゃることを踏まえますと……国綱さんは、ただお優しい方だけではないようです。



『関わる者……関わらない者。あの子は、その線引きが極端だから』


『……私、はいいのですか?』


『うん。ここまで……親身になるあの子は、珍しい』



 今、少し外へと出られていらっしゃる……国綱さん。


 電柱あたりで、私を見つけてくださったのは。


 偶然ではなかったのでしょうか?


 そうではなかったとしたら。


 国綱さんはもしや……『私』を知っていらっしゃる?


 だから……助けてくださった?


 それを聞いていいのか……わかりません。


 また、幽霊なのにぎゅっとしてしまう感じがしました。


 苦しい……です。



『お聞きして……いいのでしょうか?』


『……今は良そう。せめて、翠羽の身体、もう少し……戻ってから』


『……私、お役に立ちたいです』



 自分のことであるなら……なおさら。


 だから……国綱さん達のところには行かず、むーちゃんさんともっと『存在』と言うのを学ぶことになりました。

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