第12話 戻す魔法

 直に、触れることは出来ませんが。


 手をかざして。


 幽霊に意味がないとは言え……深呼吸をしてみて。


 国綱くつなさんの手を治した時のように……この砕けた欠片達を元に戻したいと意識してみます。


 すると……幽霊ですのに、身体が熱くなり……口に何かが込み上がってきました。



【戻れ】



 同じでした。


 昨日と同じ……国綱さんの手を治したいと思った時と同じ声です。


 女の声ですが、少し低い……けれど、耳通りの良い真剣な声。


 たったひと言……その言葉を紡いだだけですが。


 欠片達が、カタカタと動き出しました。



「……これは」


「ほー?」



 国綱さん達は驚いていらっしゃいましたが、私ももちろん驚いていました。


 欠片が……少しずつ、動き始めました。


 その動きは……水晶があった、紫色の座布団の上に。


 動いて動いて……集まっていって。


 形が作られ……まあるい、元の綺麗な水晶へと戻っていきます!!


 これは、『出来た』と言うことでしょうか!?



『……で、出来、ました』



 私の声も……戻りました。


 いつもの、少しほわんとした声に。


 国綱さん達もこちらへ来られると……元に戻った水晶を見てくださいました。



「……うん。完璧だ」


「ほーんと、元に戻った戻った! それと」



 琥珀こはくさんは、私の方に振り返って……じーっと私を見てきました。


 お顔は、何故かとても楽しそうです。



『……あの?』


「んー。君のは、『治癒魔法』とも違うようだ」


『え?』


「僕もだいたい予想出来たよ、琥珀」


「国綱もわかってんなら、言うぜ? 翠羽みはね、君の魔法は『時間』を司るものだ」


『……じかん?』



 どう言うことなのか……記憶のない私では、よくわかりませんでした。


 しかし、国綱さんは少し困ったお顔をされていらっしゃいましたが。



「今は、『戻す』しか出来ねぇが……コントロールさえ可能になったら。とんでもねぇ魔法が使えるようになっちまう」


『……とんでも?』


「国綱以上に、すんげぇ魔法使えちゃうわけ。やな連中がこぞって欲しがるやべーもんだ」


「……それは、絶対させない」



 説明してくださる琥珀さんの言葉に、国綱さんはしっかりと言ってくださいました。


 どうやら……私の身体は思っている以上に、危険な状態かもしれません。


 ですが……何故、幽霊の私は『私』でいるのでしょうか?


 それに……魔法は、このままで扱えるのも。どうしてでしょう?


 わからないことだらけですが……私は国綱さんの言葉を信じます。昨日言っていただけたのも、今の言葉も。


 記憶が無くとも……私も『私』を取り戻したいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る