第10話 試すものの

 触れてみようとします。


 すり抜けます。


 もう一度、試しても……また同じです。


 花に触れようにも……やはり、幽霊の私には……触れられないですね。



『……触れて、みたいです』



 私は……少しばかり、おかしいです。


 国綱くつなさんに、身体を取り戻す事を言ってくださってから。


 何故か、いつも以上に……何かに触れたいと思うようになりました。


 今目の前にある花は……アイリスと言う花だそうです。紫がお綺麗で、柔らかそうな。


 葉にも触れようとしましたが……相変わらずすり抜けるばかりです。全然ダメです。



『……以前の、私なら出来たでしょうに』



 私は……『私』を知らない事が多過ぎます。


翠羽みはね』と言う名前も、国綱さんに名付けていただかなければ……何も名の無い存在でした。


 道を歩く……様々な姿の『存在』と比較すれば。幽霊と言う部分を除くと、私は『人間』と言う種類らしく。


 琥珀こはくさんのお家で見せていただいた水晶でも……国綱さんと同じ『人間』の姿が写りました。


 国綱さんと同じ……その事実がわかると、嬉しさが込み上げてくるのです。


 この感情は……なんなのでしょうか?



『……もう一度』



 ゆっくり、透けた手を伸ばし……花の部分に重ねます。


 しかし……するっと、なにも感じずにすり抜けてしまい。私は……やはり、何も出来ないと落胆してしまいます。



「……翠羽?」



 国綱さんの声が聞こえてきました。


 振り返ると、お家の廊下の方で……洋服に着替えられた国綱さんがいらっしゃいました。



『……おはようございます、国綱さん』


「……おはよう。花を眺めて、いただけではないね?」


『……はい』



 ふわっと、国綱さんのところへ飛んでも……彼には何をしていたかお分かりでしょう。



「……触ってみたい、とか?」



 私が隣に立つと、国綱さんはすぐに当ててくださいました。



『……なにも、お役に立てないので』


「そんな事ない。昨日君にも言ったじゃないか? 僕の目を綺麗と言ってくれたし、何より僕をひとりにしてくれない存在だって」


『……けど、それじゃ居候ですし』


「いいんだ。今後の事は、身体を見つけてから考えよう。大丈夫だから」



 と、すり抜けるのに頭の部分を軽く撫でてくださいました。


 それだけで……落ちた気分が浮いてしまうような。


 嬉しい感情が……私の中に満ちていきます。



『……ありがとうございます』


「ふふ。さ、今日も探しに行こう。琥珀にも、水晶の弁償代払わなきゃだし」


『……壊れて、しまいましたしね?』


「結構高いけど……まあ、一応僕も仕事してるしね」


『? お仕事? あ』



 最初にお会いした時に……何でも屋とおっしゃっていたような。


 そのお仕事……私は何かお役に立てるのでしょうか?


 身体探し以外にも……私には、魔法と言うのがあります。


 国綱さんのためにも! 何かしたいです!!

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