第9話 料理への興味

 お料理と言うのを、このお家に来てから……あまり覗いて見ていませんでしたが。


 国綱くつなさんは材料を揃えられると、『よし』と細長い紐で袖などを整えられました。



「活力も大事だ。今日は揚げ物にしよう」


『あ……げもの?』


翠羽みはねも食べれるようになったら、気に入ると思うよ。僕は大好物なんだ」


『……国綱さんのお好きな?』



 そのようなものを知れる。


 少しばかり、嬉しく思えました。


 ですが、お手伝いは出来ませんので……近くで調理と言うものを拝見させていただきます。


 まずは、茶色の……国綱さんの手くらいの大きさの塊を、水で洗い……刃物で切ると内側は黄色の何か。国綱さんは、それを不思議な形に切っていきます。



「完全に油物だけだと胃もたれするから……これは揚げ焼きにしよう」


『……これは?』


「じゃがいもと言う野菜。けど、米の代わりにもなる栄養の高いものなんだ。主食にすることも可能。これに火を通すと柔らかくて美味しいものになるんだ」


『……じゃがいも』



 名称を聞いても、記憶が朧げである私にはよくわかりません。


 ですが……先ほどとは違って、国綱さんは少し楽しそうにしていらっしゃいます。そのお邪魔をしてはいけません。


 国綱さんは、底の深く透明な器にじゃがいもを入れ……黒い大きな箱の中に入れ、閉じた扉の横にある何かを触って動かされました。



「今は便利なものが多い。これもそのひとつだ」


『……なん、ですか?』


「電子オーブンさ。目に見えない力を利用して、食材に火を通すことが出来る機械。翠羽や僕の力よりは、一般的に使われているものさ」


『……べんり、ですか?』


「ああ。ある意味、術……魔法と同じ扱いだと思っていい」


『……まほう』



 国綱さんの手を治せた私のように……あのおーぶんと言う箱が、役に立つと言うこと。


 これは観察せねば、と近いたのですが……音が少し聞こえるだけで、覗いても変化とやらがわかりません。


 国綱さんは、他の作業をされていましたが……おーぶんが高い音を立てると、私に一言声をかけてから……開けて、器を取り出しました。



「……うん。まあ、大丈夫か」



 覗かせてもらいましたが……入れる前よりも、じゃがいもの色が少し薄くなっているような?


 国綱さんは、それに細長い棒のようなものを刺しました。すーっと、突き抜けて!



『……柔らかい?』


「これをさらに、表面を焼いて岩塩をかけるだけでも……充分に美味いんだ」


『……美味しい、料理』



 楽しそうです。


 ですが……お手伝いも出来ない幽霊のままでは、食事も出来ません。


 国綱さんの手がけるお料理は……とても美味しそうに見えますが、触ろうとしても……私はすり抜ける存在。


 共有したいことが出来ないのを……こんなにも歯痒く思ったことがありません。


 私は……欲張りになってしまったのでしょうか?



「……大丈夫。翠羽も身体が戻れば、一緒に食べられるよ」



 そんな私に……国綱さんは、欲しい言葉をくださいます。


 数日前とは違い……得た感情をこんなにも嬉しく思ったことがありません!

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