第8話 独りの家

 このお家は……とても広く、国綱くつなさんと私以外、どなたもいらっしゃいませんが。


 私がご厄介になるまで……ここに、『独り』で?


 それは……あまりにも、寂しくてお辛かったことでしょう。寂れていると言うよりも……お庭の綺麗なここは、いつも静かですから。



『ここで……お独りで?』


「まあ、完全ではなかったけれど。成人してからは、基本独りだ。琥珀こはくや同業者も来なくはないし……今は、翠羽みはねがいる」



 最後の言葉の時に……私を、何故か『愛おしむ』ように見つめてくださるのが……嬉しいのですが、とてもときめいてしまいます。お美しい男性に見つめられて、そう思わない女がいないわけもありません。


 記憶がなくとも、私もその一人だったのでしょう。


 綺麗な、赤紫の蘇芳すおうの瞳に見つめられ……逸らすことが出来ませんでした。



『……お役に、立てているのなら。こ、光栄……です』


「ふふ。君なら、そう答えると思ったよ」



 目を逸らしてはくださいませんでしたが……優しく微笑まれ、さらに私をときめかせてくださいます。こう言うのを、罪づくりな方と言うのでしょうね。



『……今日は、もう……探すのは、終わりですか?』



 話題を変えるために、私は身体の事を聞きました。


 ですが、その話題はあまりよろしくなかったのか……国綱さんは、少し悲しげな表情になられました。



「……あんなことになっていたら、僕ひとりだけじゃ……集めるのが困難だ」


『こんなん?』


「難しいんだよ。近くにあると言うことは……バラケさせた張本人も近いと言うことなんだ」


『……難しい、です?』


「すごく……ね」



 簡単……ではないと言うことなのでしょうね。


 私の身体は、『バラバラ』と言うものになっているようですが。


 それが……どう言うことなのか、よくわかりません。


 国綱さんが、悩まれると言うことは……良くないと言うものなのでしょう。


 私自身は……落ち込んだり、困ったりするのがわからず。『そうか』と思うしか出来ませんでした。



『……ですが。見つけて、くださるん……ですよね?』



 だけど、この質問は。どうしても聞きたかったので……しっかり、瞳を見て告げました。


 国綱さんは……少し目を丸くされましたが、すぐに目元を緩め、頷いてくださいました。



「蘇芳の宿主として……翠羽の身体を必ず見つける」



 そう、はっきりと言ってくださいました。



『……ありがとうございます』



 その言葉をいただけて……幽霊なのに、内側が熱くなってくるような気がしました。


 そんな気がしただけかもしれませんが……素直に、嬉しかったです。


 お話はひとまず、これで終わりとなり……国綱さんは、ご飯を作るからとお家の中へ入られました。


 私は、食べることは出来ませんが……何もしないのは、少し気が引けましたので。


 国綱さんと一緒にいても良いか聞きますと……国綱さんは、『いいよ』と承諾してくださいました。


 ひとりより、ふたりなら。


 この方を、寂しく思わせないだろうと言う……勝手な思い込みでも。


 お役に立てれば……と、思ったのです。

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