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side. kentarou





(わわっ…ちょ…!)



チラ見して様子を窺えば、バッチリ目が合って。



…と言うか、すっげぇ見てる、見られてる…!




コレには流石に驚いて。

思わず吹き出してしまった。







「なななっ…んスか…?」


「いや…」


“いつもより良く喋るなと思って。”




ああ、ホント…今日の先輩はおかしい。



…いや、オレの方が遥かにおかしいし、

危険かもしれない。


だって、しょうがないじゃんか…。







「そ…そッスか…?」



形勢逆転。


まさか先輩に翻弄される日が来るとは…

無自覚って恐ろしい。



なにも知らない先輩は、「変なヤツだな」と真顔で笑ってるし。


いちいち可愛いなぁ~もうっ…。






「……………」


「……っ……」



ヤバイ…。


危惧してた事態に陥ってしまった。






(どうすんだ、この沈黙…)



嗚呼…このまま甘い雰囲気とかに発展しちゃったら、オレは…





独り悶々と脳内で闘っていたら。

意外にも先輩の方から、助け舟がきた。






「そろそろ10時か…眠くないか?芝崎。」


「ハイッ、ものスゴく…!!!」



寝よう、それしかない。


寝てしまえば、この果てしなき欲望も。

先輩の無自覚な誘惑だってへっちゃらなハズだ!






「そ、そう…か…」


勢いよく即答したオレに、

一瞬先輩が寂しげに見えたのは…


きっとオレの邪な心の目が、そう見せただけであって。


寝ることをあっさり了承された事については、別にヘコんでなんかないよ!…うん。












カチ、カチ、カチ……



(ねっ…眠れるわけないじゃんッ…!)



先輩のベッドに男ふたり。

特にオレが幅取ってんだけど…。



互いに背を向けてるが、距離はほぼゼロ。


じんわりと体温が伝わり、ほんのり香る石鹸の良い匂いに。オレの理性はパンク寸前だ。



ちょっとでも動いたら、


オレ、先輩を泣かせちゃうかもしんない…。






布団に入って30分。

薄暗い部屋に夜の静けさ。でもやけにうるさい。



心臓、先輩の呼吸、それらに時計の音が重なり。



長い長い月夜、

オレの中の獣がザワザワと目覚め出す。







(そうだよな…やっぱ無いよなぁ…)



どちらかと言えば、先輩は性欲とは無縁だと思う。


先輩からキスしてくれたのだって、後にも先にもあの時だけだし…。



スキンシップは専らオレの役目だった。





拒まないから、求められてるんだと信じたいけど。

もしかしたらこれも独りよがりな気がして。



どんだけヤりてぇんだって…思われるかもしんないけど、



好きなんだから、心も身体も欲しくなるのが。

動物の本能なんだからしょーがない。







正直、期待はしてた。

流石に我慢してる事に、先輩も気付いてただろうし。


もしかしたら、誘われてんのかなってさ…。



ぬか喜びは辛いから。

建て前で否定しながらも、根底ではすっげえ浮かれまくってたんだけど。







(今夜は徹夜、かなぁ…)



それも悪くない。


こうして一緒に、先輩を感じながら。

夜を明かせるだけでも、かなりの進展じゃないか。





まだ付き合って1ヶ月。

最近だと付き合う前からベッドイン…なんてのもザラだけど。



オレは先輩を大事にしたいと思う。


妥協は…してるんだろうけど。

元々オレってそういうスタンスの人間だし。



大丈夫…



先輩に関しては、欲が尽きなくて困るんだけどね…。







(寝たかな…先輩…)



先輩が確実に眠ったら、あっち向いちゃおうかな。

寝顔くらいなら…見てもいいよね?


起きてたら、色々しちゃいそうだし…。




そう思って、先輩の寝息に耳をすませていたんだけれど…

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