8


side. kentarou





「…なぁ…」




(え…────こっち、向いてる…?)



コツンと背中に、先輩のおでこの感触。

シャツ越しに髪が触れ…擽ったさに身体が跳ねる。






(どっ…し…て…?)


ギュッとシャツを握ってくる先輩。


こういう展開は初めてで。

想定外の事に思考が定まらず、ヘンな汗が流れ出した。







(ゆっ…夢?そうだ…そうに違いない…!)



しかし、背を伝う先輩の吐息はリアルを語る。


熱くそこから溶かされてしまいそうなくらい、

オレの心を揺さぶり締め付けるから、堪らない。




極め付きに先輩は、耳を疑うような信じらんない問いを…



オレに向け、豪速球で投げつけてきた。







「…今日は、何も…してこない、のか…?」


「えっ…」



心臓ってどんくらいの衝撃まで耐えれるんだろ?


バクバクとそれは、断末魔の叫びが如く昂り。

呼吸すら儘ならなくなってくる。





「…男の僕では…やはり、その気にはなれないんだ、なっ…」



今更、気付いた。



先輩…震えてる。



今日はやけに強気だなって思ってたのに、な…。






(ずっと、緊張してたんだ…)



─────ああ、ヤバい…キたかも。




パチンとオレの中で何かが弾け飛んだ瞬間、



先輩はもう、オレの腕の中に収まっていた。








「あっ……!」



久し振りに直視した先輩は、

頬を赤く染め、涙を堪えていて…


不謹慎にも、色っぽいなとか思ってしまう。







「そんなわけ、ないでしょ…?」



ずっとガマンしてたんだから───…

そう、耳元で囁くと。



それだけで先輩は、ふるりと肩を揺らした。







「どうして、オレを泊めてくれたの?先輩…」



教えて?と目を見つめてねだれば、困った顔されてしまい…それでも先輩はおずおずと口を開き。


キス以上を求めないオレに、不安を抱いたコト。


オレが我慢している事に気付いてしまったコト。

それらの原因が、男同士だからじゃないのか…と。



ずっと悩んでいたのだと、辿々しい口調で包み隠さず全てを打ち明けてくれたから。






(なんだコレ、可愛すぎる…!!)



ギュウッと抱き締める腕を、強める。



遠慮なんていらなかった。

ホントに嫌なら、先輩だってそう言うだろうし。







(好きなら突っ走れ、てことか…)



どんな時も先輩はオレを拒まず、受け入れてくれたんだから。







「しっ…調べたんだ…男同士の、そういうのを…。かなりショックだったけど、お前が望むならって───…でも、お前は何もしてこない、から…!」


「ッ…してるよ、オレ…。先輩に欲情してる…」


「ッ…────!!」



「…先輩は、知らないって思ってたから。いきなりセックスしよとか、迫っても困るだけだろうし…でも、キスしちゃうと止まんないし…。オレもすっげぇ悩んでたんだけど…。」



いいんだよね?…ガマン、しなくても。






「あっ…!」



先輩を押し倒して、見下ろす。

不安そうにしてるけど…拒むような素振りはなかった。






(ここまできたら、止まんないよ…先輩…?)



アナタが、オレを惑わせるから。





「オレのモノになって…綾兎先輩…」



全部、ちょうだい。

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