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「へへへ…。」


「何だ、気持ち悪い…。」



キッチンのテーブルに頬杖をつき、

僕の背を眺めながら。


顔を緩ませる芝崎は、明らかに浮かれていた。








「だって~一週間以上会えなかったんスよ?…しかも初めて先輩から誘って貰えるだなんて…チョー夢みたいっス!!」



…夢ではない、これは現実問題だ。



切羽詰まっていたとはいえ、

我ながら勇み足過ぎた感は否めない。




後悔したところで今更。


僕は内心、久方振りのコイツを意識し過ぎて、

台所に立ち、背を向けてはいるものの…。



つい恋人を盗み見ては、心拍数を上げていた。







黒のランニングと白のシンプルなTシャツを重ね着し。下は紺地にチェック柄のハーフパンツという、ラフなスタイルの芝崎。



いつもならそこまで気にならないのに。




会わない間に一層焼けた肌とか、

頬から首筋を伝い、鎖骨に流れる汗だとか───…



やけに目についてしまい、夕食を作る手は覚束ない。





そんな僕の心情などつゆも知らず。

芝崎は至って普段通り、自分ばかりが舞い上がっているのかと思うと…


ちょっと腹立たしかった。








「…ねえ、先輩…?」


「…ん?」


時刻は19時前。


かれこれ1時間位は調理場に立っているというのに、焦りを感じる。


早く作らなきゃ、コイツは感が鋭いから…

僕の異変に気付き兼ねないじゃないか。



そう思って作業に集中しようとしたのに───…







「ホントにいいの?…泊まっても…。」



それはどういう意味を持っているのか。



姿は見れなくとも、発した声に。

いつもの陽気な響きが…含まれていなかったから。



心臓が破裂せんばかりに、うるさくなった。






あくまで今は平常心を装って、簡潔に。




「別に…。」


構わない。

それだけ告げて、僕は夕食の支度を急いだ。











「はぁ~幸せッス…。」


ひとくち、ひとくち味わって噛み締める度に、

感嘆と涙を漏らす芝崎。




大袈裟な反応は、恥ずかしくて見ていられないが…


自分が作った物を美味しいと褒められる分には、

素直に嬉しかった。







「こんな美味い味噌汁初めてッス!先輩をお嫁さんに貰ったらオレ、太っちゃうかも~。」


…だからさり気なく、そういう事言うの止めてくれないだろうか。





「せっかく夏休みだってのに、なんだかんだ会えないしさ…オレ、先輩に会いたくて仕方なかったんスよ?でも、先輩は受験生だし…我慢しなきゃなあって───…」


ホント嬉しいッスと、照れ笑う芝崎。




確かに芝崎の言う通りなんだか…。


まさか僕が、お前の事ばかり考えてしまって。

勉強に身が入らないだなんて事は…



口が裂けても言えそうにない。

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