3
「へへへ…。」
「何だ、気持ち悪い…。」
キッチンのテーブルに頬杖をつき、
僕の背を眺めながら。
顔を緩ませる芝崎は、明らかに浮かれていた。
「だって~一週間以上会えなかったんスよ?…しかも初めて先輩から誘って貰えるだなんて…チョー夢みたいっス!!」
…夢ではない、これは現実問題だ。
切羽詰まっていたとはいえ、
我ながら勇み足過ぎた感は否めない。
後悔したところで今更。
僕は内心、久方振りのコイツを意識し過ぎて、
台所に立ち、背を向けてはいるものの…。
つい恋人を盗み見ては、心拍数を上げていた。
黒のランニングと白のシンプルなTシャツを重ね着し。下は紺地にチェック柄のハーフパンツという、ラフなスタイルの芝崎。
いつもならそこまで気にならないのに。
会わない間に一層焼けた肌とか、
頬から首筋を伝い、鎖骨に流れる汗だとか───…
やけに目についてしまい、夕食を作る手は覚束ない。
そんな僕の心情などつゆも知らず。
芝崎は至って普段通り、自分ばかりが舞い上がっているのかと思うと…
ちょっと腹立たしかった。
「…ねえ、先輩…?」
「…ん?」
時刻は19時前。
かれこれ1時間位は調理場に立っているというのに、焦りを感じる。
早く作らなきゃ、コイツは感が鋭いから…
僕の異変に気付き兼ねないじゃないか。
そう思って作業に集中しようとしたのに───…
「ホントにいいの?…泊まっても…。」
それはどういう意味を持っているのか。
姿は見れなくとも、発した声に。
いつもの陽気な響きが…含まれていなかったから。
心臓が破裂せんばかりに、うるさくなった。
あくまで今は平常心を装って、簡潔に。
「別に…。」
構わない。
それだけ告げて、僕は夕食の支度を急いだ。
「はぁ~幸せッス…。」
ひとくち、ひとくち味わって噛み締める度に、
感嘆と涙を漏らす芝崎。
大袈裟な反応は、恥ずかしくて見ていられないが…
自分が作った物を美味しいと褒められる分には、
素直に嬉しかった。
「こんな美味い味噌汁初めてッス!先輩をお嫁さんに貰ったらオレ、太っちゃうかも~。」
…だからさり気なく、そういう事言うの止めてくれないだろうか。
「せっかく夏休みだってのに、なんだかんだ会えないしさ…オレ、先輩に会いたくて仕方なかったんスよ?でも、先輩は受験生だし…我慢しなきゃなあって───…」
ホント嬉しいッスと、照れ笑う芝崎。
確かに芝崎の言う通りなんだか…。
まさか僕が、お前の事ばかり考えてしまって。
勉強に身が入らないだなんて事は…
口が裂けても言えそうにない。
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