第4話 みんなでお食事

秋田先輩と村瀬先輩は私たちのことは空気くらいにしか思っていないようで、秋田先輩が村瀬先輩の長い髪を撫でたり、村瀬先輩が秋田先輩の手をいじったりしてる。二人でつつきあってクスクス笑ったり、顔を近づけて見つめ合ったり。もうラブラブ。


雅美:「私たち、完全に邪魔な存在よね」雅美が横目で見ながら小声で言う。

マリ:「なんか、居づらいです」マリがちょっと悲しそうに言う。

私:「そうね。ここは気をきかせて二人だけにしてあげようか?」

雅美:「まあ、私たちがいてもいなくてもイチャイチャだろうけど」

マリ:「でも、キスはできないでしょう?」


と、思ったら、村瀬先輩が秋田先輩のホッペにチュッとキスした。

ニッコリ笑って秋田先輩がお返しに村瀬先輩のオデコにチュッ。


私:「うわっ、してるじゃない。キス」


私は思わず大きな声を出してしまった。

二人のほうを見ると私たちのことなんてまるで気にしてない様子。

ホッとした。

でも、ここはやはり居づらい。

マリの言うとおりだ。


私:「あの、私たち、そのへんちょっと散歩してきます。」先輩に声をかけた。

秋田:「そう。いってらっしゃい。3人は仲いいね」秋田先輩が言った。


秋田先輩はさわやかなイケメン。

もとい、男前女子だ。

女にしとくのがもったいないくらい。


村瀬先輩が振り返ってニッコリ笑った。

村瀬先輩の笑顔はあでやか。

女の私もドキッとした。




さいわい陽がちょっと陰って日差しが弱くなってきた。

私たち3人は夕食時間までそのへんをブラブラすることにした。


雅美が歩きながら話を続ける。


雅美:「あんなの、キスじゃないよ。二人はベロチューだもん」

マリ:「フレンチキスです」上を向いてそっと目を閉じるマリ。

私:「マリ。あなた、したいの。ディープキス」

マリ:「みゆきさんは嫌いですか?」首をかしげたマリはカワイさ2割増し。


私:「いや、好きとか嫌いとかじゃなくて。その舌をからませ・・・」

雅美:「ベロチューはハートにズキューンとくるよー」私を無視して続ける雅美。

マリ:「ハートにズキューン。ですか?」

雅美:「そうそう。全身に電気が走るみたいにビビっとくる」

マリ:「全身にビビっと?」

雅美:「ホラ、しびれるような快感って言うじゃない? そんな感じ」

マリ:「しびれるような快感。かあ」マリが夢みるように遠い目をしてる。


すぐに反応するマリの大きな目は文句なしにカワイイ。

が、それはさておき。


私:「雅美。あんたさあ。知ったふうなこと言ってるけど、したことあんの?」

雅美:「あるよ。ベロチュー」

マリ:「しびれるような快感。そのあとはどうなるんですか?」

雅美:「そのあと? そうね。なんかこう、カラダが熱くなってくる」

マリ:「カラダのどのあたりが?」マリは興味津々。子供みたいに純真だ。

雅美:「知りたいの? マリはエッチな子だなあ。そうだね。股間のあたりかな」

マリ:「コカン? コカンってどこですか?」


私:「ちょっと、マリ。 『誰と?』って質問はしないワケ?」

マリ:「え? あ、そうか。雅美さん。誰とですか?」

雅美:「ふふん。秘密だよー」

私:「ウソばっかし」

雅美:「ほんとだよ! ベロチューくらい当たり前でしょ」

マリ:「当たり前かあ。フレンチキス」マリは夢みる夢子だ。

私:「マリ。ディープキスは当たり前じゃないから」

雅美:「ふふん。これだからバージンはヤだね。オンナの喜びも知らないなんて」

マリ:「え? え、え? 雅美さん、やっぱり経験者なんですか?」

私:「だから。マリ。雅美はウソつきなんだって」


ぐるっと庭を歩いてるうちに先輩たちがいた東屋に来ていた。


マリ:「わ。ここって。先輩たちがいたとこです」マリが両手で口をおおった。

私:「そうだねー。こっちから見ると縁側は見えにくいんだね」

雅美:「向こうからはよく見えたけどな。イスの方向が違うからか?」

マリ:「ここで秋田先輩と村瀬先輩は」マリは東屋のイスをガン見してる。

雅美:「そ。激しいベロチュー」

マリ:「フレンチキスです!」マリの顔が赤くなってる。

私:「ね。いいかげん、その話やめようよ」




そんなこんなでようやく日が沈み始めた。そろそろ夕食の時間。

私たちは離れに一旦帰ってから夕食のために母屋に行くことにした。


私:「ただい・・・」雅美が私の口をサッと押さえた。

私:「・・・」(ちょ、ちょっとナニするの?)


雅美は私の口を押さえたまま廊下の先の居間のほうをうかがってる。

マリは自分で口をおおって雅美と一緒に前かがみでのぞいている。


私:「ちょっと、ナニしてるの?」声をひそめて言うと、

雅美:「先輩たちに気をきかしてるんだけど」しれっと言う。

マリ:「そうですよ。だって」

雅美:「二人がイイコトしてたら、気まずいでしょ」

私:「まさか。昼間からそんなことする?」

マリ:「どんなことですか?」

雅美:「マリ」質問に答えず、雅美が目配せで居間のほう指した。


(行って見てこい!)雅美の目は司令官の目つきだ。

(わかりました!)マリはコクリとうなずいて目礼した。


マリは大胆にも廊下を這って居間を覗きにいった。

玄関からほんの数メートル。

それが今はすごく長く感じる。


マリの元々大きな目が、めいっぱい大きく開くのが見えた。

しばらく居間に釘付けになったあと、あとずさりで戻ってきた。


マリ:「どうしよう。わたし、見ちゃいました」顔が真っ赤。息切れしてる。


雅美:「だろ?」

私:「ナニ?」


雅美がナゼか勝ち誇ったように私を見下ろしている。


私:「え? え? ナニ?」

雅美:「せんぱーい! 私たち、直接食事に行きますねー!」大声で叫んだ。



マリは黙ってうつむいて歩いてるが、顔は真っ赤。でもナゼか嬉しそう。


私:「ね、マリ。で、先輩たちはどうだったの?」

雅美:「みゆきは野暮だねー。本気できいてんの?」

マリ:「とても口では説明できません」

私:「口で説明できないなら、他の方法で教えてよ」


マリが口を押さえて雅美の顔をうかがうように見る。


雅美:「女子レス」

私:「は?」

マリ:「へ?」

雅美:「女子のレスリング。オリンピックで見たことあるでしょ」

私:「吉田さんとか、伊調さんとか?」


マリがコクコクと頷いている。私は秋田先輩と村瀬先輩がレスリングをしてるところを想像しようとしたが、まったく思い浮かべることができなかった。あの村瀬先輩がレスリング?ありえない。私はブンブンと頭を振った。




12畳ほどの和室に大きな楕円形のデーブルがあり夕食が用意されていた。

昼間のおばさんが愛想よく小走りに出てきて挨拶した。


「まあ、まあ、どうぞ、こちらにお座りになってください。」


まだ7時前だった。

昼間は見かけなかった30代の女性も出てきて愛想よく挨拶をした。


「みなさんお若いし、山菜料理じゃ物足りないでしょう。ソーセージをどうぞ」

「ウチの自家製なんですよ。食べ放題ですのでたくさん召し上がってくださいネ」

雅美:「わお。ソーセージ大好き。食べ放題だってよ」

マリ:「わたしもです」

私:「お野菜もたくさん。おいしそう」


おばさんがニコニコ顔で言う。


「みんなウチの自家製。無農薬の有機栽培野菜なんですよ」

「ビールになさいますか?それとも美味しい地酒をお持ちしましょうか?」


私:「あ、私たちはジュースを。あとで2人来ますから、きいてみてからに」

雅美:「先輩たち、そろそろ来るかな」

マリ:「お風呂で汗流してからだから。ちょっと遅れるかも」

私:「汗? なんで汗かくの?」私は首をかしげた。

雅美:「では、お先にいただきま~す」雅美はさっさと食べ始める。

マリ:「わたしたちもいただきましょう」マリも食べ始めた。


私だけナニか置いていかれてる感じがした。

ま、いいか、食事をいただくことにした。


先輩たち二人は、マリの予想通り30分ほど遅れてきた。

二人とも頬が火照っていて、お風呂に入ってきたばかりという感じ。


私:「すみません。お先にいただいてます。」

秋田:「ああ、いいのよ。時間に遅れたのは私たちだから。」

村瀬:「あら、これが自家製ソーセージ? おいしそう。」

雅美:「どぞどぞ。食べ放題だそうですよー。とーってもおいしいです。」

マリ:「野菜サラダもおいしいです。」


先輩たちはおばさんに地酒をお願いして二人で飲み始めた。


雅美:「あたしたちもチョットだけお酒飲もうか?」

マリ:「でも、まだ未成年ですよ?」

雅美:「あたしはあと3ヶ月でハタチだぞ」雅美が胸を張る。

私:「やめときなよ。マリは半年前まで女子高生だったのよ」

マリ:「今は違いますよ」

雅美:「そうだぞ。大人の階段をのぼらなきゃ。ね。マリ」

マリ:「アルコールはやっぱりやめときます」

私:「いい子だねー。マリは。不良のお姉ちゃんに汚されるなよー」

雅美:「誰が不良だー。汚されるってなんだよー」

マリ:「雅美さんは経験者だから」

私:「そうそう。ヤラしい不良娘」


ということで、未成年の私たち3人は地元のグレープジュースで乾杯した。




食事をゆっくりいただいて、私たちはデザートに自家製アイスクリームを食べた。『夕焼け荘』なんて、昭和の漫画に出てくるボロアパートみたいな名前だけど、出てくる食材がみんな自家製なのには驚いた。牛も豚も鶏も飼ってるらしい。秋田犬もいるし茶トラの子猫もいる。


マリは先輩たちがお酒を飲んでる間、ずっと子猫と遊んでる。

子猫を撫でてるマリの頭を、秋田先輩がやさしく撫でてる。

村瀬先輩からは「マリちゃんて、カワイイわね。」とか言われてる。

嬉しそうにマリが笑ってる。マリは誰にでもなつくカワイイ子だ。

先輩たちから見れば、マリは子猫みたいなものかもしれない。


そんなことを思いながら時間をつぶしていると雅美が顔を寄せてきた。


雅美:「ね、若いほうの女の人さ。スキンヘッドの奥さんかな」

私:「ああ、ミワさんのこと? 妹さんみたいよ」

雅美:「へー。オヤジはいないの?」

私:「いるけど、今日はいないみたい」

雅美:「そうだよねー。牛も豚も飼ってるんだもんねー」

私:「旅館は奥さんの道楽みたいなものじゃないかな」

雅美:「やっぱり? 本業は旅館じゃないんだ」

私:「自家製ソーセージはネット販売もしてるみたいだし」

雅美:「そうなんだ。ここのソーセージはおいしいもんねえ」

私:「地酒や地ビールも海外向けにネット販売してるって」

雅美:「そーかー。やるなー、ここの一家は」

私:「ミワさんは外大出で英語と中国語とフランス語が話せるらしいよ」

雅美:「そーなんだ。才女ってヤツか。で、スキンヘッドは?」

私:「ちょっとアンタ。その言い方やめなさいよ。あの人タカシさんて言うのよ」

雅美:「そのタカシはナニ大出なのよ?」

私:「は? 呼び捨て? よく知らないけど無農薬有機栽培農法の専門家だって」

雅美:「ちょっと、みゆき。いつの間にそんな情報仕入れたの?」

私:「アンタがソーセージむさぼり食ってる間におばさんと話したのよ」

雅美:「さすがだねー。どこにでもアミはってるねー。情報局は」

私:「まーね。アンタみたくボーッと生きてないからね」


夕食は9時前に終わり、先輩たちと5人で離れに戻ることにした。先輩二人はほろ酔いかげんでいい感じに出来上がっちゃってる。けっこう飲んでたと思うんだけど、二人ともアルコールに強いらしい。


カランコロンと下駄の音を響かせながら、私たち5人は星空の下を歩いた。






つづく。

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