王家陥落RTA
「準備ができ次第お呼びいたしますので、それまで客間でお待ち下さい。」
そう言うと、王女様は部屋を出ていった。
「しかし、さすが王城だな。俺みたいな庶民でも見て分かるほどの高級品ばかりだ。一個の値段どれくらいするんだろ?……触らんとこ。」
にしても、ゲーム開始初日とは思えないな。信じられるか?俺今、城でメチャウマクッキー食べてるんだぜ?
「そういえば今何時だ?うわもう5時か。昼飯は抜くとしても、夕飯は食べときたいからな。」
いくら一人暮らしで気楽だとはいえ、夕飯くらいは食べないとね。体が持たんよ。健康なゲーマーライフは健康な食生活から生まれるのだ。
コンコン
ノックの音がしてメイドさんが入ってきた。
「お待たせいたしました。陛下の準備が整いましたので謁見の間までお連れいたします。」
「おっ、意外と早かったな。」
謁見の間まで少し気になっていたことをメイドさんに聞いてみた。
「俺、あんまり敬語得意じゃないんですけど大丈夫ですかね?」
するとメイドさんが少し笑いながら、
「陛下はお忍びで冒険者もされていたので、大丈夫だと思いますよ!」
いや陛下アグレッシブすぎるだろ。死んだらどうするつもりだったんだ…
それから少し歩くと、高さ3メートルほどのでかい扉が見えてきた。
「お客様がいらっしゃいました。」
すると扉は音も立てずにすっと開いた。俺は緊張しながらもゆっくりと歩き出した。
数段程登った所の玉座に王らしき人が居て、隣には王妃様らしき人が居た。顔を見たことがないので合ってるかどうかは分からないが。
俺は段差の少し手前で止まり、跪いた。
「そなたは余の臣下ではない故、礼は不要である。面を上げよ。」
「ハッ」
「まずは、一人の親として礼を言わせていただく。娘を救っていただき感謝する。名も知らぬ旅人よ。」
そう言うと、王は頭を下げた。
俺はというと、王の纏う目に見えないオーラに気圧され、挙げ句にはその人に頭を下げられたことで、ガッチガチに緊張していた。しかたねぇじゃん。俺一般市民なんだよ?あー、なにか言わなきゃ何か言わなきゃ
「いやー、ぜんぜん大丈夫っすよ!はい!」
Oh,worst comunication.
「そう言ってくれて、安心したよ。」
おや?なんかホッとした顔されてらっしゃる?
「あの子は、なかなかにお転婆でね。親ながら情けないことに彼女を止めることができなかったのだよ。今回のことで少しは懲りてくれただろう。本当に、ありがとう。褒美は何がいいかな?大抵のことは叶えてあげられるけど?」
それどころかなんかフランクになってる?あっ、そういえばメイドさんが陛下は元冒険者だって言ってたな。
それはそうと、褒美か。んー、ちょっと気になることがあるんだよねぇ。
「それならば陛下、一つ質問を許していただけますか?」
「一つと言わず何個でもいいよ!」
「ありがとうございます。それでは、王妃様、近頃体調が優れないのでは?」
俺がこんなことを聞いたのは、王妃様からネックレスと同じ性質の黒いオーラが出ていたからである。
十中八九侯爵家の仕業だろうが……
「……なぜそのことを?」
謁見の間が一気に殺気立った。見れば近衛兵も剣に手を置いていつでも抜剣できるようにしている。返答次第では殺されるか、捕縛されるだろう。この質問はそれだけ知られるとまずいものなのだ。まぁ抜剣されても勝てるだろうし、なんなら傷一つつかない気はするが。
「私、旅人の身ながら運命神をやっておりまして。種族柄、悪意や不運には敏感なのですが、王女殿下が着けていらしたネックレスから呪いを感じ取りましてね。それと同じものを王妃様から感じたので、こうして質問させていただいた次第です。」
すると、王は期待と諦念がないまぜになったような顔で言った。
「そうか……あなたを見込んで頼みたいことがある。日に日に悪くなっていく体調。妻は大丈夫だと言っていたがどうにもおかしいとは思い、国一番の医者を呼んで診てもらった。すると、風邪だと言うではないか。これは絶対にありえないのだ。妻はスキルの影響で病気にかからない。だが、そうか…。それが呪いの影響だというならば、色々と納得がいく。どうか、妻を救ってはいただけないだろうか。礼なら必ずする。だからどうか…」
「その願い、確かに承った。丁度いい、王女のネックレスも持ってきてくれ。」
さぁ。ここからは俺の仕事だ。
メイドがネックレスを持ってきたことを確認してスキルを行使する。
「…対象『ストロファスト王国王妃』『王家の首飾り』付与『運命神の加護』!!!」
すると、俺から出た虹色の光が王妃様とネックレスを包んでいく。なんか大聖堂のときよりも派手な気がするけど、まぁ悪いことにはならないだろう。
光が収まり、王妃様が不思議そうに自分の体を見回した。
「あぁ、体が軽い!今なら冒険者だった頃よりも早く動けそうよ!」
よかったー。人相手にかけるの初めてだったから、ちょっと心配だったんだよな。俺の勘が大丈夫だって言ってたからやったけど。てか王妃様も冒険者だったのか。身分差とか気にしなくてよかったんかな?
「良かった…!マリーゼルが死んでしまったら僕は正気では居られなかっただろうよ!」
そう言うと王様は泣き出してしまった。今は王妃様にヨシヨシされている。羨まけしからん。しかし二人ともまだ若いし、こりゃあ近々第二王子か第三王女が生まれるかな?
「ふぅ……みっともないところを見せてしまったね。さて、礼は何がいいかな。僕ができる限りのすべてを叶えるよ。」
「それはありがたいが、まだ仕事は終わっちゃいない。」
「仕事?」
「王妃様を呪った犯人がまだだろ?」
そう言うと、王様はハッとした顔になった。
「今回は俺が居たから助かったけど、原因を断ち切らないと近いうちに今回のようなことがまた起こるぞ。」
「確かに…しかしどうやって犯人をさがせば…」
「実を言うと、犯人はもうわかってる。」
「!?本当か!?一体誰がこんなことを…?」
「それより、一つ聞きたいことがあるんだが、貴族からの贈り物があったときはどのように王様のもとまで行くんだ?」
「それなら貴族の使者が運んできたものを、門の所の『透心の水晶』に引っかからなかった場合はそのまま僕たちに運ばせているが…」
あの水晶、『透心の水晶』っていうのか…。
「間違いなくそこに付け込まれたな。」
「どういうことだ?」
これはそんなに難しい問題ではない。
「簡単だよ。呪いの品だってことを使者に伝えずに持って行かせればいい。」
「あ……」
王も気づいたようだな。そう、これは実に簡単な話なのだ。悪意があったらだめならば、悪意を持たせなければいい。使者には普通の贈り物だと言っておけば喜んで城まで運ぶだろう。なにせ本人はいいことをしているつもりなのだ。そこには、悪意や害意は欠片も存在しないだろう。
「ッ…!すぐにすべての贈り物を鑑定士のもとまで持って行け!誰だか知らんが余の大切な妻を殺そうとするとは…!絶対に許さぬ!即刻見つけ、余に知らせよ!」
この分だと俺が言わなくても犯人は見つかりそうだが、恐らくさっさと逃げるだろうな。そうなってしまうと、俺としても後味が悪い。一度引き受けたクエストは完遂する主義なのだ。
「陛下。このままでは犯人は逃げるだろうから、この際俺が犯人を言いましょう。」
「頼む!一体誰なんだそのクソ野郎は!?」
「その呪いをかけた人は…侯爵家の呪術師です。」
「すぐに其奴と侯爵を捕縛せよ!邪魔立てするものは殺s…」
判断が速いところはこの王の美徳なのだろうが、今回は少し待ってもらおう。
「話を最後まで聞いてくれ。確かに呪術をかけたのは侯爵家の呪術師だが、主犯は侯爵ではない。むしろ侯爵は被害者だ。今こうして、罪を被せられそうになってるんだからな。」
「どういうことだ?実行犯は侯爵家の手の者なのに、主犯は侯爵ではない?僕にも分かるように説明してくれ。」
「主犯は、セレナーデ教会の幹部だ。」
「なんだって!?教会が僕たちを殺そうとしているのか?だが一体なぜ…」
そう、そうなのだ。俺も最初は侯爵が犯人だと決めつけていた。だって侯爵家の呪術師だぞ?これ以上ない証拠だと思うじゃないか。だが違った。それがわかったのは、俺の運命神としての純粋な力によるものだ。スキルに拠らない力。人間は無限の可能性を持っているし、獣人は高い身体能力を持っている。他にも魔族が高い魔力を持っていたりと、普通はこれを鑑みて種族を選ぶのだが、俺の運命神としての力は かなり破格だった。仮にも上級神ではあるがそれにしても強すぎると思う。まじでBANされるかもしれない。その力というのが…
俺がこの企みに参加していた幹部たちの名前を王様に言ったら、王様はすぐに部隊を編成して自ら捕縛に向かった。行動力お化けか。だからこそこの国をまとめられてるんだろう。幹部たちはすぐに捕まった。まさか自分たちの行動がバレるとは思わなかったんだろう。上級鑑定士でも呪いを込めた人物までしかわからないからな。指示しかしていない自分たちが捕まるはずがないと完全に無防備な状態だったらしい。ちなみに呪術師は熱心な信者で幹部たちから王族は悪魔だと言われて、ためらいなく犯行に及んだそうだ。もちろん王族が悪魔ではないことは確認済みだ。教会幹部たちは国家転覆を企んでいたので死刑が確定した。王様は帰還したあと、夕食会に俺を呼んだ。第一王子は別の町に訪問中で第一王女は帝国の姫様とお出かけ中らしく出られないそうだが、俺はお呼ばれすることにした。
「今回は、妻も娘も、もちろん僕も君に随分と助けられてしまったね。どうか、これからは友として歩んでくれないだろうか。種族が種族だし無理強いはしないけどね。」
「こちらこそ、願ったり叶ったりだよ。王族の友人を得るのが子供の時からの夢だったんだ。」
俺は冗談めかして言った。
「よかった!バタバタしていてまだ名乗ってなかったね。私の名前は、アグラノア。アグラノア・ストロファストだ。気軽にアグって呼んでくれ。」
「俺の名前はラックブレイドだ。姓はない。ラックと呼んでくれ。アグとはいい友達になりそうだ。俺の勘がそう言ってる。」
「それは頼りになるね!なんせラックは運命神だもの!」
すると、すっかり元気になった王妃様が俺に質問してきた。
「ラックは神様なのよね?ならあなたを崇めている宗教とかもあるの?」
俺は、めちゃくちゃに困った。だってあなたの国の大司教様はすでに俺の信者ですとか言えなくない?いや隠してバレた時の方がダメージでかそうだな…
「あー…その、ライエ大司教って分かるか?」
「もちろんさ!次期教皇に最も近いと言われている方だよね!彼は物腰も柔らかくて、僕たちが気兼ねなく接することができる数少ない一人なんだ!いつも本当にお世話になってるんだよ。で、彼がどうかしたの?」
じいちゃんそんなにすごい人だったのかぁ…はははははは
「俺の信者です…」
「へ?」
「ライエさん、俺の一人目の信者です。」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!!??!!??」
「ちなみに大教会も俺の支配下にあります…加護授けちゃったから…」
「ラックは、僕たちの想像を遥かに超えていくね……でも、これはいい機会かもしれないね。」
「いい機会?」
なんか、嫌な予感がビンビンするぞ?
「うん!この国の国教をラックの宗教にする!」
「何言ってんの!?!?!?宗教戦争まっしぐらのルートだろそれ!」
「ラックさん。」
よかった!王妃様が優しい笑顔でこっちを見ている!これはアグを止めてくれるに違いない!(確信)
「こうなったアグは誰に何を言われても止まらないので諦めてください!」
「わぁ満面の笑み。」
「大丈夫だよ、ラック!少しずつ、国民を洗n……国民にラックの良さを伝えてクソ宗教から完全に離れさせてみせるから!」
「何も大丈夫じゃねぇ!!!」
こうして、夕食会はにぎやかになっていくのだった。ちなみに国教変更はガチらしい。おいおい、死んだわ俺。
ラビューティフル「私の出番は???????」
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