第9話 男っぽさと中身のギャップ
普通の人なら、調子が狂うだろう。私には、偏見とか差別とか、そう言う類のやつは無駄だと言う考えしかない。そこは、あの自由な両親に育てられたからだ。両親は、私に女らしさなんて求めなかった。健康で、元気で、私が好きな事をして生きていてくれればいいって、日常会話で言ってくれていた。
母方の実家の方は、結構男尊女卑が強かった。世間体もやたら気にする家系で、母はやりたい事も出来ずに大学に行かされたと言っていた。だから、私が共学の進学校に行くと言った時、母方の方には色々言われたが、母が一蹴してくれた。
『私の娘が選んだ道。あなた達に、指図される筋合いはない。私の娘の選択に、一切口を挟まないで。』
母は、凄く強かった。だから、母は私にやりたい事をやらせてくれた。自由に選択させてくれた。父も、いつも母の横で、ニコニコと私を見守ってくれた。お見合い写真を送り付けて来るけれど、実家の手前、ちゃんとやってます風を装っているだけなのは、私にも気付いていた。孫の顔が見たい、ってのは本心だろうけど。それは、許してやろう。
『両親は、厳格でね。男らしくって育てられた。やりたくもない習い事も沢山してきたし、大学もここじゃなきゃいけないと。その後、留学もさせられた。親の敷いたレールをひたすら走ってきたんだ。でも、疲れたよ。自分が、自分で居られない。毎時間、瞬間瞬間を役者として生きている様で窮屈なんだ。』
『好きな男、居ないの?』
『やだぁ、それ聞くぅ?はずかしいんだけどぉ!』
『…居るのな(笑)分かりやすっっ!』
赤くなってる。しかも、耳まで。オドオドしてる。てか、挙動不審過ぎる。
『相手は知らないんだ。僕が…トランスジェンダーだって事。言えないよ。相手は、普通の男性だ。好きなんて言えない。隣で、男として、上司として居る事で幸せなんだ。』
『部下なのか。』
『あー!何でぇ?言っちゃったよぉ!真由には、恐ろしい程ペラペラ喋ってしまう。』
『写真とかないの?』
『…この人なんだけど…。』
萌ダーリンが見せてくれた写真。スマホに保存された写真。こ、こいつ…。
『何で、好きな男まで無駄にイケメンなんだよ!どう言う基準で集めてんの?』
『いや、集めては居ないけどぉ。』
その写真には、イケメン二人が並んで写っていた。片方は、大型犬のシベリアンハスキー。もう片方は、中型犬のボーダーコリーと言った所だろうか。
『この人に、彼女は居ないの?』
『モテる筈なんだけど居ないんだ♡』
『ワンチャン、いけるんじゃね?』
『えー!ダメだったらどうするの?気まずくて仕方ないじゃん!』
『なら!暫く様子見だな。』
こんな風に、女子って色々考えるんだな。フラれたらとか。今まで、そんな事考えた事すらなかった。去るもの追わず、な私は誰かを繋ぎ止めて置きたいって感情すら持たなかった。だから、私から告るなんて事は無かった。
『出来たよォん、朝食!』
『お?朝からパンケーキなの?』
『ベーコンとたまごだから、お食事パンケーキだよぉん!』
『なにこれ!美味いんだけど。パンケーキって、甘いイメージしか無かった!』
いつも通り、ニコニコと私を見ている。
『女の子って、こんな風にニコニコして食べるんだね。僕には、出来ないよ…。』
『女の子って年齢でもないけど…。』
『友達として、ギュッてしていい?』
『親友としてならいいぞ。でも、食べ終わってからにして!』
『…ありがとう。』
だぁから、涙ぐむな。可愛くて仕方ないだろ。
食事の後、ギュッてされた。凄く優しい、暖かいハグだった。あれ?こいつ、生物学的男だよね?中身女子だけど、抱き締められた感じは男を感じる。微かに香る香水と、筋肉質の腕と、手首にしているゴツイ時計。背中に感じるやつの身体。顔の横に感じる呼吸と。私は、抱き締められている腕に何となくしがみついていた。
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