第8話 二人の休日

休日、六時きっかりにお迎えが来た。私は、こんな感じだけど、時間にはうるさい人間だ。だから、女子の出掛ける時刻に準備を始めるとか、化粧するのに一時間とかは耐えられない。

『おはよう!』

 めっちゃニコニコした萌ダーリンが立っている。スーツじゃないが故に違和感。

『おはょ。さぁ、行こうか!』

私服、意外と普通。敢えて言えば、センスはいいな。キレイめだけど、かっちりしすぎず、ゆるすぎず。もっと、ハイブランドの服をきているのかと思った。てか、顔小さっっ!

『私服に違和感しかないんだけどぉ。』

『スーツの方が好き?』

『いや、見慣れてるだけだよ。』

『今日、何を着るか悩んだよぉ。楽しみで、朝の四時に起きちゃって。』

いつもの時間だろ、それ。

『本当に、私より中身は女子だね(笑)』

『だろ?女子力高いからな!』

 この、誰もが振り返る位のイケメンの口から、女子力と言う単語が出るとか…。

『料理の時にエプロンとかする?』

『何で?』

『何となく。』

 やたら可愛いエプロンしてそうで、勝手に想像してニヤッとしてしまった。だって、似合ってるし。最初は、めっちゃ噛み付いて来たくせに。私、珍獣扱うの得意なんかな?転職しようか…サーカス団とかに。


『着いたよ。』

 言葉を失った。都市部一等地に建つタワーマンション。

『ここの何階?』

『最上階。うちの所有物だから、ここ。』

 言ってみたいな、所有物♪エントランスまで、かなり遠いんだが。お腹が痛い時には不向きだな、うん。マンションの中に入ると…むしろ、異世界。どこ?ここ?日本?ドバイとかじゃね?無駄に広いロビー。当たり前に居るコンシェルジュ。てか、セキュリティ何重になってんの?全てが異次元すぎてパニック。そ、想像はしてたよ。こんな感じかと。でも、想像を軽く超えてきたんだよ。エレベーター八基とか普通なの?タワマンって。エレベーターの前に立つ。

『そこじゃないよォ、こっち。』

 最上階専用のエレベーター。待て待て!

『最上階って、一部屋なの?』

『うん、そうだよ。無駄に広くて、スペース余ってるんだよ。』

 住まわせてくれ、その余ったスペースに。私のアパートは、四部屋あるんだぞ。そこより広いんだろ?

『どうぞ。』

 エレベーターの扉を抑えて、私を先に下ろしてくれた。んー、ジェントルマン!てか、下りた所が玄関なんだろうか…?目の前には、廊下は続くよ、どこまでも!の世界だ。廊下に住めると思う。

『靴、どこで脱ぐの?』

『どこでもいいよ。その辺で。』

 いや、逆に靴を脱ぐの難しい。こんな事ある?靴を脱ぐ場所に困るとか。シューズクローゼットがある。案の定、黒い革靴。綺麗に磨かれている。その隣に…スニーカーだ。なんか親近感沸く。

 部屋を案内してくれた。お風呂もトイレも、三つもあって、客室にしていると言っていた部屋にも普通にあった。客室って、私の部屋より広いんですけど、ここ住んでいい?最上階から眺める下界の様子。小さすぎて何も見えん!

『私、死んでないよね?』

『はい?俺、殺人犯じゃないよ!』

『ねぇ。』

『はぁい。』

『私と居る時位は、俺とか無理しなくていいよ。』

『…うん。』

 いや、泣くなや。それだけで泣かれたら、何も言えなくなるだろう。でも、それだけ女である自分に蓋をしてきたんだな。ギチギチに、どこかに押し込んで、男のフリしてたんだ。

『泣かないで、朝ご飯食べさせてよ。』

『うん!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る