第2話 雨音と日常
6月になり季節は本格的な梅雨入りを迎えた。ジメジメとした湿度となんとも言えない生暖かい温度がワイシャツに張りついて不快感が生まれる。この時期の雨は大雨だったり小雨だったりで傘を差しても洋服が濡れるのが、なんとも言えないものだ。
登校してくる生徒はそんなジメジメとした湿度をなんとも言わずに友人と話し笑いながら登校しているが、各自不快感は感じているだろう。女子の中では手持ち扇風機を顔付近に当てて、少しでも涼しい風を送っていた。
そして、自分もワイシャツの第一ボタンをあけてパタパタを煽り、少しでも風がくるように最低限の工夫はしている。この季節は、しょうがないものでボタンに関しては正門が見えた段階で付ければいいのでそれぐらいは許してほしい
「うぃーす、おはよ。裕介」
気怠げに話しかけ後ろを向く。そこにはびしょ濡れの沢田貴志が立っていた
「…沢田か?なんかこう、もう少し髪の毛落ち着いてたよな?」
「痛いところを突くね。ちょうど30分前までは綺麗な天パだったよ」
若干の苛立ちを含ませて俺への軽口の返答をするのは、天パが自慢の沢田貴志で毎回、6月〜8月にかけて彼のイライラは上限値を超える。天パであるが故に怒ったとしても「自業自得」と言われるのが関の山でフラストレーションを溜めてしまうのが2年も一緒にいると恒例に感じてきた。雨のせいかその天然物はまるで海藻のように見える。普段、自転車通学の彼はこんな雨の日ぐらいはバスか徒歩で来るのはどうか?なんて提案してみたい
「裕介はいいよな、綺麗な短髪でよ。お前も一度天パを入れろよ、人生変わるぞ」
「不幸になりそうだからやめとくわ」
軽口を叩いて3階にある教室へと足を運ぶ。8時10分という微妙な時間帯で雨という悪天候があったおかげか、クラスの人の数はまばらな状態だった。
「あれ、綾瀬まだ来てないの?」
「あいつは電車だろ、毎回雨の日は遅刻ギリギリで登校してくるじゃん」
綾瀬の自宅は学校から1時間ほどあり、通勤通学で朝の時間帯はかなり混雑している。よく登校してすぐにトイレに行き髪を直しているのをよく見かけているので、どうせいつもの事だろう。今日も登校したらすぐに「朝、サラリーマンに靴踏まれた」「改札で押された」なんて愚痴を言ってくるだろう。
「まぁぼちぼちしたら来るでしょ、それよりも沢田は髪の毛何とかすれば?」
「乾かないと意味がないんだよ〜、、、まぁ少し髪の毛纏めてくるわ」
そう伝えると、彼は鞄からワックスを取り出して急いでトイレに向かった。朝、慌ただしく登校しているつもりだが彼らを見ると自分は割と余裕を持って登校出来ているな、と笑えてくる。
⭐︎⭐︎⭐︎
「おはよー!いやー、ギリギリだわ!」
8:25 普段と同じような朝のHRギリギリの時間に綾瀬は登校してきた
「優香ちゃん、遅〜い!」
「髪の毛ヤバイよー!古賀先生が来る前に少し直してきなよ!」
これも恒例となっているクラスの女子たちとの会話を繰り返し、鞄だけを机に置いて登校している事をアピールした後、トイレに行く。男性教員である古賀康樹(やすき)は女子トイレには入れないため、他の女子に頼むが女子同士の仲良さか上手い言い訳を見繕って難を逃れる。
(あいつら大人になったら集団で詐欺とかできるんじゃね?)
こんな事を言えば即標的にされるだろうから何も言わない。綾瀬すら敵に回るだろう
「おはよー、みんな集まって…ないな。綾瀬はまた髪を直しているのね」
担任の古賀先生が教室に現れて朝は始まる。クラス内の暖かい声に合わせて雨音と強く鳴り始めていた。
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