過夏の匂い
Rod-ルーズ
第1話 定期試験
高校生活で1番自由なのは2年生なのではないかと話し合ったことがある。
1年生の時は全てが始まりで覚えることで精一杯、3年生はきっと進学や就活などで忙しくなるから、2年生が実質、一番自由だよね?なんて言ったらみんな笑った。
(そんな生活をずっーと続けていきたいな…)
そうやって馬鹿みたいに腹を抱えて話し合えるのはこの一年間なのかな
⭐︎⭐︎⭐︎
「はーい、みんな静かに。この前の中間テスト返却していくぞ」
5月23日、この日の朝の数学の授業はこの前おこなわれた中間テストの返却からの復習で自信の無かった授業から始まるという憂鬱な気分と
『きっと赤ペンで答案用紙に書き直さないといけないんだろうな』なんて思いが募る。
先生が一人一人名前呼び上げて教壇の前に行く、いい点数の人は喜びのあまり声を上げたり悪い点数の人は、落ち込んだ表情で持ち帰るから見ていて楽しい。
「次、西川!」
名前が呼ばれて立ち上がり教壇に向かう。受け取った答案用紙にはとっても微妙な店数で64点と書かれていた。自信がなかった割にいい点数だったのはありがたいが、このなんとも言えない弄りがいのない点数にため息が出る。
「裕介〜何点だった?64点…微妙だね」
「綾瀬、お前こそいくつだったんだよ。確か唯一自信があったのが数学だったじゃないか」
「ふふふ!75点!どーよ、凄いでしょ〜!」
ドヤ顔でテストの点数を見せるのは、綾瀬優香というクラスで1番仲がよい女子高生で基本的におバカな分類なだけあって、75点という点数にさっきから小躍りして喜んでいた。
「お前も微妙な点数だなぁ…ドヤるならもう少しいい点数であってくれよ」
「いやいや、裕介の点数の方が低いから。事実だからね。今日なんか奢ってよ」
「お前テストの点数と関係なく、俺に飯とかたかってないか?いい加減、自分の財布からお金出せよ」
テストの点数なんてある種きっかけにすぎないのが普通だと思うのだが、彼女の場合そんなこと関係なく、俺のことを見れば財布を出させる。
自販機に行った時や映画を見に行った時、軽く外でご飯を食べに行った時などにわざと財布を出さない、忘れたと話して伝票を渡してくる。ここまで聞いて付き合っているなんて思うかもしれないが付き合っていない。ただ、クラスで1番仲の良い女子というカテゴリーに分類されているだけだ、それに彼女と付き合うとなると今の比じゃないほどの出費が待っているだろう。それを知っているせいか恋愛感情など湧くことがなかった。
「そういえば本田は90点いったらしいぞ、アイツ勉強教えてくれてて時間もなかったはずなのにすごいよな」
「彼方…そんな点数をとったんだ、、、なんか75点しか取れない私が無償に悲しくなってきたよ」
隣のクラスでは、俺たちの第二の先生と言っていい女子生徒である本田彼方が90点という高得点をとった事に誇らしさが湧く一方、俺たちが聞いていなければもっといい点数なんじゃないかと申し訳なさが募る。勉強ができないものを持つと頭がいい人にとっては損しかないのに、未だに付き合ってくれているのは彼女の良心だろう。
(綾瀬じゃなくて本田に何か奢ってやろう…ドーナツでいいか)
「そういえば貴ちゃんは?あいつ、赤点を取ったら外出が〜って言ってなかったっけ?」
「あー、それは…あの顔見ろ。なんとか回避したっぽい」
答案用紙をしわくちゃにするほど喜んでいるのは沢田貴志、バスケ部の所謂脳筋族でテスト期間になればなるほど顔から生気が抜ける面白いやつだ。
「ねぇ、今日も終わったらさ。イツメンで駅前で新作飲みに行かない?絶対映えるからさ!」
いつもの4人、だからこそ天才からポンコツという幅が違うのに仲良くいられるのだ。
「今度は金払えよ」
夏も始まるつつある5月、普通の高校生は止まることがなかった。
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