第87話 Desire for various things

「あ、あぁ、そ、そうだな……。だがそれにしても、あの2人は何をしているのだ?」


「ねぇ、サリエル……それ本気で言ってるの?ま、まぁ、ききき、キスで子供が出来るって思ってたんだから、う、うん、分からなくもないけど……」


「お、おう。正直、不肖わたしには、わ、分からない……な。排泄器官を擦り合わせて、一体何をしているのか、そなたが教えてくれるか?」


「それは、女同士で、まぐわっ……」


ごすッ


 少女は2人が行っている情事に顔を耳まで真っ赤にして手で顔を覆い隠しながらも指の隙間から覗いていたが、余りにもピュアで天然なサリエルの返答に苦慮していた。

 それに対して真面目にデリカシーが無い返答しようとしたスサノオに対して、強烈な打撃エルボーを入れると少女は怒った表情で「ふんすッ」とだけ荒げた鼻息を漏らしていた。

 その光景を見たサリエルは何も言えなくなってしまったのだった。


 ちなみに、3人はセックとスカジの情事の真っ最中の、2人の様子を観察している差し詰め「出歯亀」と言えるだろう。



「で、コレ、どうする?取り敢えず、この状況だがっとくか?まぐわっ――」


ごすッ


「最後まで言わせろよ」


「デリカシーの無い言い方しないでッ!ただでさえ、アタシだって人がヤってるのを見るのが初めてで変な気分になりかけてるんだからッ///」


 スサノオは呆れ顔である。サリエルは覗き込むように2人が快楽に耽ける様子をまじまじと間近で食い入るように観察している。

 少女は全身を真っ赤に染めながらも興味がある様子で、喘ぎ声が挙がる度にチラチラと視線を投げているので考えが纏まる気配は無かった。



「一体、何で、こんなコトに……はぁ」



-・-・-・-・-・-・-



「ところで「なんとかなる」って、どうやってあの城の中に侵入はいろうってんだ?流石に陽動もナシじゃ辛ぇだろ?」


「普通に城門から侵入るんだけど、スサノオは空を飛翔べる?」


「オレサマに空を飛翔ぶ力は無ぇが、それが城門から侵入るのとどんな関係があるってんだ?」


「それじゃあサリエル、アタシ1人じゃスサノオを抱えて空を駆けるのは難しいから、2人で抱えて運びましょ?いいかしら?」


「了解した」


「おーい、なんかりぃ予感しかしねぇんだが、質問に答えてくれるか?」


 スサノオの頭にはたくさんの「?」が浮かんでおり、少女は悪っるい顔を何やらしていた。だから肝心のスサノオの質問が解答を得る気配は無かった。



「ねぇ、ママ、フィオも手伝うッ!」


「ありがとう、フィオ。良い子ね。よしよし」


「えへへへへ」


「準備はいいかしら?」


「だから何の準備?」 / 「あぁ大丈夫だ」


「じゃあまずは、コレ持ってて貰える?絶対に手放しちゃダメよ。だから服とか装備に結んでおいてもいいわ」


 少女は細い紐のような物をスサノオとサリエルに渡し、フィオには予め付けておいたタグに紐を結んだ。2人が自分の衣服に紐を結び終えるともう片方の端を自分の装備へと結んだ少女は魔術の詠唱を始めていった。



「おっ?何だコレ?身体が消えていくぞ?おい、どうなってんだッ?」


「おぉ確かに消えていくな、感覚はあるのに見る事だけが出来ないとは不思議な感じだ」


 スサノオは少女の魔術に因り消えて行く自分の身体に対して焦っている様子で、自分の身体を手の感覚だけで確かめていた。



「終わったわよ。取り敢えず、術式のここをこうしてっと」


「おっ?見える。それに消えたおめぇ達も見える。一体こりゃ、どんなカラクリだ?」


不可視化インビジブルが使えれば良かったんだけど、アタシに出来るのはこれで精一杯。でも、この感覚阻害アンチセンスでもよっぽどじゃなければ気付かれないわ」


感覚阻害アンチセンス?相手から自分達に向けられる感覚を遮断する魔術か?」


「えぇ、でも正確にはこの魔術の使用者の事を認識する感覚を、麻痺させるって感じね。だから本来、この魔術は使用者のアタシにしか掛からないけど、使用者の所有物にも自動的に付与されるから、装備とかも見えなくなるって寸法よ」


「だから、あの紐か」


「オレサマ達はおめぇの所有物になっちまったのか」


「言い方ぁ。はぁ……。あと、ちょっと術式を弄ったから、紐で繋がってる全員が見えるようになったでしょ?だから絶対に紐は離さないでね。戦闘になって姿を見せる時になってから外してね」


 少女が放った魔術「感覚阻害アンチセンス」の効果で、3人+1匹は見事に消えていた。そして軽く注意事項を伝えた少女は本題に入るべく顔を1回「ぱんッ」と叩いて気合いを入れると、サリエルに視線を流していった。



「じゃあ、サリエル、行くわよッ!スサノオは大人しくしててね。うんしょっと」


「そういう体勢だな、理解した」


「フィオもフィオも~」


 少女はスサノオの右腕を自分の肩に回し、サリエルはスサノオの左腕を同じく自分の肩に回し、フィオはスサノオの腰紐を口でくわえていた。

 2人は視線を交わすと1回頷き、呼吸を合わせて宙に舞い上がっていったのである。



「おッ?おぉッ!おおぉッ!!これが、空を飛ぶってコトか?凄ぇなッ!足が地面から本当に離れていやがるッ」


「ちょっと静かにしてッ!2人掛かりでやってるんだから、集中しないとバランス崩して皆して真っ逆さまよ?」


「ところで、この状況は周りから本当に見えて無ぇのか?」


「えぇ、そうよ。でも――」


「へーいへい、黙って景色でも眺めてるさ」


 片やブーツ、片や翼なので出力や揚力などは全然違う。少女はブーツの出力を微調整しながらサリエルに合わせていたので、それは思ったより集中力を使う行為だった。

 こうして夜の帳が完全に降りた星明かりの元、3人+1匹は「ヴァーラスキャールヴ」に向けて空の散歩をしていったワケだが、元よりスサノオだけがそれを楽しめる状況だったのは、言うまでもないだろう。




 一行は多少時間が掛かったが戦闘に陥るような状況にもならず、無事に「ヴァーラスキャールヴ」へと降り立つ事が出来たのである。

 「ヴァーラスキャールヴ」に降り立った少女はバイザーを使って、セック達がいる場所にアタリを付けると、そこに全員で向かって行ったのだった。



 セック達がいると思われる部屋の扉は幸運な事に開け放たれていた。拠って奇襲を仕掛けるべく中に侵入はいって行ったのだが、その中で盛り上がっている真っ最中の行為に、可愛らしく「キャっ」と短い悲鳴を上げると言葉を失ったのである。

 スサノオとサリエルの2人は先程までの緊張感がどこかに行ってしまった様子だった。

 フィオは少女の肩の上で暢気に欠伸をしていた。




「で、どうするんだ?手っ取り早く、とっととっちまうか?今ならオレサマ達は認識されて無いんだろ?それとも、コイツらが果てるまで見続けるのか?」


「わわわ、分かってるわよッ!何で、平時ならともかく、有事にこんなトコでヤってんのよッ!頭いてるんじゃないの?シンモラといい、フレイヤといい、何でこの世界にいるのって頭の中がピンク一色ばっかりなの?」


「そんなこたぁ知らねぇよッ。それともなんなら魔術解いて聞いてみるか?」

「全く、おめぇ抵抗無さ過ぎだろ?」


 喘ぎ声が少女の集中力を乱し、混乱の極みにある少女は話している内容がとっ散らかっており、スサノオは要領を得ない少女のうぶ過ぎる言動に少しばかり苛立ち始めていた事から、喧嘩腰になっていた。

 拠って、仲睦まじくイチャコラして喘いでいる真横で、喧嘩が始まるという修羅場が巻き起こったのである。



「やれやれ。2人とも痴話喧嘩は他所よそでやってくれ。今はそんな――」


「痴話喧嘩じゃねぇッ!」 / 「痴話喧嘩じゃないわッ!」


「やっぱり、息がピッタリ合ってるじゃないか」


 そんなこんなで時は流れていく。そしてベッドの上の2人は絶頂を繰り返し、その淫らな肢体の随所で痙攣を起こしていた。

 しかし、1回や2回で終わる事はなく次から次へと耽けっていたので、夜はまだまだ長そうだった。




「さてと、気を取り直して、っちまっていいんだろ?」

「まぁ、そろそろ見飽きたからな、止められてもる事に代わりは無ぇがな」


 スサノオは腰の「十束剣トツカノツルギ」を抜き放つと少女の方を向き、目配せしていった。少女は少しばかり躊躇っている様子だが意を決した表情になると「お願い」とだけ紡いだ。


 スサノオの前には淫靡に悶え、今尚情事にふけっている2人がいる。仰向けの体勢のセックの片足を持ち上げて跨るスカジが、よだれを垂らし甘い吐息を漏らしながら天井を見詰めて腰を振っていた。そして2人の淫らな声はより一層部屋の中に響いていた。

 もしかしたら、その声は城中に聞こえているかもしれない。


 この部屋の扉が開いていたのは、もしかしたらそれは余談でしかない。



「――――ッ!?う、あぁぁぁ」


「ッ?!」


 セックは自分の上に跨りヨガっているスカジの胸から、のが視界に映っていた。その胸に生えた刃からは、スカジの鮮血が滴りセックのお腹の上に温かさを齎していく。

 スカジは完全に絶頂に達した様子で、「ビクッビクッ」と今までに無いほどの痙攣で身体を小刻みに震わせていたが、その口からは泡を吹きその紫紺の瞳は完全に白目をいていた。


 セックは突如として起きた事態に動揺したが、自分の上にスカジが跨っている事や足を掴まれて耽っていたので身動きが取れず、スカジを貫いた刃を避ける事が出来るハズもなく、そのままスカジ同様に胸を突き刺されたのである。


 セックは朦朧もうろうとする意識の中で、自分達の目の前に侵入者がいつの間にか当然の事のようにいて、自分達が観察されていた事を知ったのだった。



「な……ぜ?いつか……ら」


どさっ


 セックは薄く声を発すると、目を閉じる事なく抑えている力を失った頭が揺れた。更には自分の上にもたれ掛かってくる、既に冷たくなりつつあるスカジの重さを一身に受け止めていったが、2人の意識はもうそこには無かった。



「納得のいかねぇ終わらせ方だが、これが一番、オレサマらしい殺り方か」


びゅッ

 ぴちゃ


「終わった……の?」


「あぁ、確実に心臓を一突きで仕留めたハズだぜ?」


ぽんッ


「こんな悪党共の死を、おめぇが背負う必要は無ぇさ」


「スサノオ……」


 少女の為にスサノオは2人を殺した。こんな暗殺滲みた方法だったからこそ、スサノオは少女にやらせたくなかったのだ。

 「フォールクヴァングでの殺戮」に「妖精界の消滅」この2つだけでも充分過ぎるほど、か弱い少女の心はすり減らされていると考えていたからだ。

 これが正々堂々とした決闘のような闘いなら構わなかったが、暗殺では話しが違う。どうしても割り切れないモノが残ってしまうだろう。

 だから、少女をおもんぱかってスサノオが手を下したのである。




どくんッ




どくんッ



どくんッ


どくんッ


 心臓の音が微かに木霊こだまし始めていた。止まった心臓が微かに動き出す音が、この場にいる者達には聞こえないひっそりとした音で確かにそこにあった。



 スサノオの「十束剣トツカノツルギ」に拠って確かに心臓を貫かれ生命の灯火ともしびは奪われたのだが、その者は数日前にシンモラが散った場所に刺さったまま放置されていたレーヴァテインを大地から抜き去り、持ち帰っていた。



 「勝利の剣レーヴァテイン」の因果は、敗北の因果を切り裂く為に敗北は認められない。

 拠って「死」は敗北であり、敗北を認めないレーヴァテインに因って、その止まった心臓は強制的に再始動させられ、目を開けた者がいたのである。


 だがそんな事、本来ならばただの神造エンシェントユニ兵器ーク・アイテムに出来るハズがあるワケもなかった。

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