Re:アースガルズ

第86話 ナイモノネダリノココロ

「それじゃあ、ヘラ叔母様行ってきます」


「まだ回復しきれていないのに、危険なのだわ」


「でも、あの様子じゃ、恐らくオーディンさま達の軍勢に勝ち目がないと思うの。それに、アタシ達はミョルニルを返しに行くだけだから大丈夫よ!無理はしないわ、信じてヘラ叔母様」


「言い出したら聞かない所なんて、ホンっとに昔のヘスティア姉さんそっくりなのだわ」


「えへへ」


 少女は完全に回復しておらず、疲れも取れていないが早々に「ヴァーラスキャールヴ」に乗り込む事を決めた。それは、イズンが権能を使い「アースガルズ」周辺の戦況を見せてくれたからである。



「これを持って行きなよーッ!それは全部あげるから遠慮なく使い切っちゃっていいからねー」


「わっ。こんなに貰っていいの?イズン、ありがとう」


 イズンは「林檎クインスコード」を少女に渡す事にした。少女が渡された「林檎クインスコード」は全部で6つあった。

 「アースガルズ」に行くメンバーは少女とスサノオ、サリエルであり、当初から居たメンバーの中でヘルモーズは最後まで逃げ腰だった事から今回は見送られた。

 拠って渡された林檎クインスコードは1人当たり2個の計算になる。


 ヘルモーズ自体、戦闘力がそこまで高く無い事から戦場で足手まといになる事や、それこそ人質にでもされる事を恐れた様子だった。拠ってヘルモーズの名誉の為に言っておくと、臆病風に吹かれたワケではないのだ。

 まぁ、それ以外にはフレイヤが死んでも、バルドルが回復していなかったのも大きな理由の1つだった。

 魔術遊戯セイズの影響力が解かれ、家畜となっていた者達が徐々に自分を取り戻していったにも拘わらず、バルドルだけが戻らない事から余計に心配になっていたのだ。



 少女達が今から「ヘスペリデス」を出て「アースガルズ」へ向かえば、到着する頃には必ず夜になる。そうなれば様々なリスクがあるが、それを覚悟の上で「アースガルズ」の「ヴァーラスキャールヴ」に、たった3人で攻め込む事を主とした奇襲の策だった。

 「ヴァナヘイム」の軍勢と合流する事も、幾つか立てられた策の中にあった事はあったが、何となく嫌だったのだ。少なくとも、これから「アースガルズ」に向かおうとしている3人が3人ともに、操られていた事を差っ引いても「アースガルズ」の神族ガディアを、その手に掛けてしまった事を引け目に感じていたのである。


 だから、「禍根かこんを残さない為にも自分達だけで終わらせる」と、それが少女の出した結論であり、スサノオとサリエルはそれに納得していた。

 それも踏まえた結果として、3人で向かうことになったのだった。




 少女達は陽の光が完全に沈む間際、昼でも夜でもない儚げな頃合いに「アースガルズ」を見渡せる小高い丘の上にやって来ていた。

 最初にオーディンに連れて来てもらった、あの丘の上から見える「ヴァーラスキャールヴ」は悲しみに覆われているかのように昏くひっそりとしていた。短いマジックアワーは終わりを告げ、夜の帳が降り始めた事で周囲は暗くなっており、その事が余計に悲しみを助長している様子だった。

 だからこそ昼間に見たあの絶景は今はもう見ることが叶わない。


 今、分かる事は城の中に灯るオレンジの光が、そこに名も知らない誰かがいる事を教えてくれるだけだ。


 少女は少しだけセンチメントな気分になりつつも、今となってはそんな虚しい感傷に浸るより、敵の情勢を入念に調べる事に注力していった。


 少女はバイザーに光点を映し出し、敵の情勢を探っていく。フレイヤの宮殿フォールクヴァングでバイザーの反応がおかしかった事から心配していたのだが、どうやら故障ではなかった事が判明し少女は「ホッ」と息を漏らしていた。



「それにしても結構な軍勢ね。あの数を全部叩いてたら先にバテるわね。かと言って、一撃で城ごと破壊するワケにはいかないし……。はぁ……。ねぇ、2人は何か策がある?」


「ある程度の破壊は免れないだろう?それに、もう既にある程度は破壊されているようだしな。再建出来ない程、完膚無きまでに破壊するのは駄目だろうが、ある程度の破壊は許容されるんじゃないのか?」


「とは言ってもよ、あの魔獣の数をいちいち相手にはしてらんねぇだろ?こっちはたった3人だぜ?いくらオレサマが強過ぎるって言っても、おめぇ達がやられちまったら意味ねぇだろ」


「じゃあ、2人の意見を纏めると、「陽動」と「潜入」ってコトかしらね?」


 サリエルもスサノオも至極真っ当なコトを言っていた。スサノオの自慢気な言い方に少女はイラっとしていたし、スサノオには敵に操られた過去があるので掘り返してみたくなった少女だったが、そんなコトをして後々大変になりそうなので止めておいた。

 拠って纏めた考えだけ伝えたが、2人はそれに頷いていた。



「城の中にいる敵の親玉は最低でも2人。イズンが見せてくれた戦況に映っていた2人、確かイズンは「セック」と「スカジ」って言ってたっけ?」


「下着みてぇな奇妙な鎧のヤツが「セック」とかっていってたっけか?」


「変な服を着ていたのが「スカジ」と教えてくれていたな」


 少女はイズンが見せてくれた映像に映る2人を見た時、正直なところ頭が痛くなったのを思い出していた。流石に戦場に出るような格好に見えなかったからだ。

 そして、2人の官能的なあの身体付きに少女は心底イライラさせられたのを改めて思い出してしまい、思い出すだけで額に青筋が浮かぶ思いだった。



「他にも敵の「将」はいそうだけど、アイツらが黒幕の一翼いちよくで間違い無さそうだから、今回の討伐対象はあの2人だけでいいわよね?スサノオか、サリエルのどっちかに片方を任せてもいい?」


「何言ってやがる」 / 「何を言っているんだ?」


「へっ?」


「おめぇが」 / 「そなたが」

「「陽動でも」」

「構わねぇぞ?」 / 「構わないぞ?」


 少女の意見に真っ向から反対した2人の声は、見事に内容まで同じだった様子でハモっていた。



「ぷっふははッ、ねぇ、ちょっとヤメてよ。2人とも、いつからそんなに気の合う関係になったのよ?」


「まぁ、オレサマはサリエルの力を見て、コイツなら背中を預けられるって思っただけさッ」


「スサノオ殿、か、揶揄からかうのは止めてもらいたい」


「2人とも、何かあった?怪しいわよ?にひひ」


「そなたまで、か、揶揄うのは……」


「よしッ、決めたわッ!それなら3人で仲良く潜入しましょッ!」


「お、おい、それで大丈夫なのか?陽動はどうすんだよ?」


「まぁ、なんとかなるでしょッ!もしならなかったら――」


「根の国でおめぇのお守りはゴメンだぜ」


 少女は手のひらを返すように作戦を変更していった。少女としては最初から、と言ってしまえば元も子もないが2人と共闘出来る機会もそうそうあるワケではないので、それを楽しみたくなったのが事実だ。

 要するに、「陽動」と「潜入」の2つに別れて行動する気は最初からさらさら無かったのである。最初から決めていたのにワザワザ他の意見を取り入れたフリして、結束力を見た上で後から手のひらを返す……そんな悪知恵であった。

 そんな思惑を知らない2人は見事に少女の作戦にハマったワケだが、スサノオと少女のやり取りを見たサリエルは正直な感想を漏らしていた。



「2人の方が意思疎通がちゃんとぴったし合ってる気がするんだがなぁ」



-・-・-・-・-・-・-



「ねぇ?あのグルヴェイグが本当に死んだの?」


ぎしッ


 スカジはセックと共に部屋の中で言の葉を紡いでいた。ヴァーラスキャールヴの中で一番大きいベッドが置いてある部屋の、そのベッドの上で2人は語らっている。

 付け加えるならばスカジはセックの腕の中で寄り添い、セックの胸の上に頭を乗せて紡いでいるのだった。



「グルヴェイグにはマーカーを取り付け、アタイの意識を一方的に共有化していたんだ。ま、グルヴェイグはそんな事、知らなかったハズだが」


「ふふふ、人を信用しない貴女らしいわ」


「アイツをフレイヤの身体に乗り移らせた時点で、寝返る事も想定していたし、その可能性もゼロでない以上、視野に入れていた。だが、グルヴェイグのマーカーは消えたし共有も途絶えた。それは即ち、あのグルヴェイグが消されたってコトだ。あの、「完全パーフェクトア不死ンチモータル」を打ち破る何かをあのネズミ共は持っていたってコトになる」


「あっ、あん///もう、今は真面目な話しをしてるのね。まだ早いの……あぁん」


 セックはスカジの着ている戦闘用の物とは、明らかに肌色度合いが違うベビードールの中に手を入れると、スカジのたわわな果実の先端を摘んでいった。


 更には語気に拠ってその握る力も摘む力も強くなるテクニックに、スカジは甘い声と共に桃色に染まった吐息を漏らして肌を上気させ、身体を痙攣させていく。



「で、でも、グルヴェイグを倒し切る程の力なんて、あのネズミ達にはあり得ないのね。そんな力、あのオーディンでも無理だったのね。それをネズミが出来るなんて、スカジには思えないのね」


「確かに封印された可能性はある。だが、封印されたなら、それでもオーディンと力量は同じってコトだ。警戒する必要はあるだろ?」


こりッ


「あぁん♡も、もうちょっと優しくして欲しいのね。スカジはセックよりも、敏感なのね♡はぁ……はぁ。でも、これだけ焦らされたから、スカジが今度は攻める番なのね。覚悟するのね、セック」


 スカジは豊満な双丘を自ら揉みしだき始めると、そのまま上体を起こしてセックの上にまたがっていく。



 セックの可愛らしいベビードールを捲り、露わになったスカジより少し控えめな双丘の先端に口を付けると優しく舐め回していった。

 セックは敏感な部分を攻められ身体を小刻みに痙攣させ、息遣いが荒くなった頃を見計らって、スカジは自身の顔に妖艶さを纏わせセックの唇に自分の唇を近付け囁くように紡いでいった。



「多分、何かの間違いなのね。スカジの知ってる限り、この世界でアレを殺せるのはいないし、封印出来るのはオーディン以外に3人くらいなのね。多分、セックの仕掛けに気付いて、それを剥がしただけなのね。だから、ひょっこり現れたら、それを問い詰めてスカジが凍らせてあげるのね。うふふふふ」

「んっ……ちゅぱ。ふふッ♡♡可愛いのね、セック」


つーっ


「はぁ……はぁ……今日は随分と積極的だな、スカジ」


 スカジは物騒な事を言いながらも妖艶な表情を更にみだらに歪めて、セックの唇に唇を重ねていく。

 絡んだ舌と離れた唇が糸を引くくらいに愉しんだ後で、2人は更なる快楽に溺れていった。




「はぁはぁ……はぁはぁ。もっと足を上げてもっとよく見せて、もっと声を挙げてスカジをもっと興奮させて気持ちよくして欲しいなの」

「あぁん♡♡♡とてもいい気持ちなの、もっと擦り合わせてスカジはもっと気持ち良くなるなの」


「スカジ……アタイ、もう我慢が……」


 2人は快楽に溺れ、何度も絶頂を繰り返し身体を痙攣させていく。スカジは甘くとろけるような表情でセックに甘え、セックもまた妖艶な瞳をスカジせ、お互いが淫らさを増して淫靡に声を紡いでいった。

 周囲を全く気にする事なく喘いだ2人の声は共鳴していた。



「はぁ……はぁ……フレイヤはとんでもない淫乱いんらんだけど、グルヴェイグを宿したあの女は、誰よりも強くて淫乱で手に負えないハズなの。それが、死ぬだなんて、あんッ♡想像がッ♡♡あうぅッ♡♡付かない、あぁッん♡♡♡だけどッ、あぁん♡♡スカジ、イッちゃうのぉぉ♡♡♡それ以上はオカシクなっちゃうのぉ♡♡♡」




「あ、あのさぁ、なんか、っげぇ場違い感があるんだけど……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る