ウトガルザ

第64話 ヌバタマノ ヨノフケユケバ ヒサキオフル キヨキカワラニ チドリシバナク

 それは蒼色そうしょくの巨人だった。蒼色の巨人が50体近く、雄叫びを上げながら少女に向かって来ていたのだ。



「大層な歓迎ね?でもま、シンモラよりは苦戦しないでしょッ。そんじゃここは1つ……やってやろうじゃんかぁぁぁぁぁッ」

「たあぁぁぁぁぁありゃあッ」


ざしゅッ

 しゅぱんッ

  ざんッ

   ざざざばッ


 少女は巨人の拳を躱し、空中で回転しながら一体目を斬り、斬った巨人を足場にすると勢いをつけて次の巨人へ斬り掛かっていく。

 連撃に続く連撃で、瞬く間に巨人達は少女の大剣グレートソードディオルゲートの餌食になっていった。


 それでもまだ少女の眼前には蒼い草原が迫って来ている。少女はこれでもかと複数体の巨人を斬り伏せ、乱舞し無双していく。

 次々に仲間が倒されていく現状であっても、巨人達は恐れを知らずに向かって来ていたのだった。

 しかしこの地で戦闘が始まり、数が減った凍巨人族フリームスルシア達の勢いが徐々に消え掛けた頃、少女の視界の端っこに無数の氷の槍が映り込み、こっちを狙っているのが見えたのだ。



「ちょッ?!仲間ごとアタシを狙う気なの?」

黒宙石アダマス真絶神盾アイギス完全魔術防御マジックキャンセラーの力、甘くみるんじゃないわよッ!」

「でやあぁぁぁぁぁあぁぁ!」


 少女の前方に盾の円環えんかんが展開されていく。少女は展開した盾に全ての防御を任せて、眼前に迫る氷の槍目掛けて疾走はしっていくのだった。



ひゅんひゅひゅひゅんッ

ぎんッ、がぎんッがががッ


ちゅんッきぃんッががぎんッ


「とは言っても多勢に無勢ね。こうなったらしゃーない!女は度胸!わッ!」

爆裂炎槍フレア・ランス爆裂炎弾フレアボム業炎円陣フレイムサークル


 少女に向かって来る氷の槍は盾に拠って阻まれ、少女には届かない。然しながらその完全魔術防御マジックキャンセラーと言えども、全方位を守ってくれているワケではない。

 だからこそ打てる対策は多少のキズを負う事になっても打つ必要があった。


 少女が放った火属性魔術は氷属性の槍と触れ合う事で斥力を発生させる。発生した斥力は随所で大小様々な爆発を起こし、爆風と熱風が少女の肌をジリジリと焼いていた。


 しかしその甲斐あって、向かって来ている氷の槍は明らかに減っていき、爆発に拠って発生した煙幕は凍巨人族フリームスルシアから更なる追撃を遅らせる事にも繋がった。

 こうして少女はその煙幕の中を駆け抜け、氷の槍を放っていた凍巨人族フリームスルシア達に速攻を仕掛ける事に成功したのである。




「ほう?あれが、主の話していた「敵」か?」


「父上、如何が致しますか?」


「親父殿の手をわざわざ煩わせる訳にはいかない。ここは我ら兄弟が!」


 フォルニョートは城壁の上から少女を見ていた。その横にはカーリとロギの姿がある。


 余談ながら、「ウトガルザ」の城壁は幻術の効果に因って、侵入しようとする者には天をくような高さに見える。しかし城壁から離れたり、一度中に入ってしまえば、幻術の効果は失くなりそこまで高いと言う事はなく、普通の高さになる。

 要するに普通の城壁でしかない。



「カーリ、ロギ、お前達は城壁の上から凍巨人族フリームスルシア達の援護をしてやれ。アイツらじゃ、全然歯が立つ気配がないからな」


「畏まりました、父上」


「しかし親父殿はどうするつもりだ?」


「見ておけ、ロギ。ワシはヤツの後ろから、凍巨人族フリームスルシア達と挟撃じゃあ!」


 フォルニョートは城壁の上から飛び降りていった。目標は少女の背後であり、少女は上空から誰かが降ってくるとは思ってもいなかったのだった。



どぉんッ


「うぇあ?えっ?大砲?誰かがぶっ放してるっていうの?」

「違う。このデバイスの反応。アタシの背後に敵がいる。敵が上から降ってきたってコト?ええぃ、鬱陶うっとおしいわねッ!」


ざしゅッ


「アタシが考え事してる時はザコは大人しくしてなさいよッ!」


“ここは戦場なのだぞ?それは無理と言うものだ”


「そんなの分かってるわよッ」


ざじゅぱんッ


“後ろに現れたのがこっちに来るぞ”


 少女は完全に乱戦の中にいた。一対多数の乱戦であり、考えるよりも早く手を動かさなければ、次から次へと襲ってくる攻撃を捌き切れない。

 それでいてもと言う事はやはり相手が強敵とは言えないからだろう。


 少女は状況をいち早く確認し、自身に迫って来ている巨人に刃を立てる。氷の槍を盾の配置を変えて弾きその槍すらも有効活用した挙句に、背後に突如として降って湧いた敵とも刃を交えると言う、獅子奮迅の活躍振りで大立ち回りを演じていた。



ガキンッ


「中々に、強い「をなご」だなッ!だが、これ以上はやらせん。我が斧の錆にしてくれる」


「いい加減、アタシは「ロキ」と話しをしたいんだけど?えっと、今は「ウトガルザ」だっけ?そいつを出してくれないかしら?」


ギリリギリッ


 少女はフォルニョートと「鍔迫り合い」と言う名の力比べをしている。2人の行き場の無い力の波動は周囲にだだ漏れていき、衝撃波を巻き起こしそれによって凍巨人族フリームスルシアは近付けない様子だ。



「そう言われて、主をホイホイと差し出すワケにはイカンだろッ!ふんッ」


「おわあぁ。なんてバカ力なの」


 力比べはフォルニョートが勝った。少女は斬撃こそ貰わなかったものの、地面の上を「ずざざざざざッ」と滑らされてしまい、体勢を崩される事になった。そこにすかさず、氷の槍が降り注いで来る。

 更に上空からは先程までは見られなかった真空刃しんくうばと、炎の塊が向かって来ているのが見えていた。



「デバイスオン、シールドメイデン!持ち堪えてよ、お願いだから!」

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