第59話 Bloody Ruthlessness

「ね、ねぇ!ちょっと……はぁ、はぁ。あ、アタシの身体に、な、何をしたの?」


 ヴォルと額を重ねた少女の身体は火照っていく。その肢体の至るところから汗が滲み、顔付きは妖艶ようえんになって上気した顔は桃色の吐息を漏らしていった。

 もしも鏡でその顔を見たら、そのまま手で覆い隠して、「恥ずか死」しそうな程に色っぽかったコトだろう。

 更にその声はどこまでもなまめかしくなり、その声が本当に自分の口から漏れているのかと耳を疑ったほどだった。だから両手で口を必死に塞ぎ、声を必死に殺して耐えていた。


 少女の色白い肢体したいは桃色に染まり、その肢体の随所ずいしょは勝手に「ビクっビクっ」と痙攣けいれんしていく。足はガクガクと立っているのがやっとな様子でありながらも、「何か」に対して必死に耐えている姿を醸し出していた。


 傍目に見れば少女は淫らに乱れて大変な事になっているが、そんな状態になっていても意に介さず放ったらかしで、ヴォルは頭の中に探りを入れていくのだった。




「はぁ……はぁ……はぁ……い、一体、今のは、なんだったのよぉ」


「存外気持ち良さそうだったのです。ヒト種に試した事は初めてでしたが、ヒト種は快楽が強く出るようなのです。ですがそれならば快楽に身を委ねて、もっと気持ちよくなられてもよかったのです。無理に抵抗しなければ、絶頂出来たかもしれないのです」


「今日初めて会ったのに、そんなイヂワル言わないでよぉ。もう、アタシ恥ずかしくて死んじゃうよぉ」


 少女は深く荒い息遣いで、上気して妖艶な顔付きのままだ。少女はヴォルに向かってジト目で抗議の視線を送っているが、既にヴォルの額は少女からは離れていった後だった。

 従って当然の事ながら抗議の視線は無視されている。



「はぁ……ヴォルよ、そのお嬢さんをそんなに虐めてくれるな。それで何が分かった?」


「この方の頭の中を拝見させて頂き、「ロキ」に関する情報は得る事が出来たのです」

「「真神征鎚ミョルニル」の在り処については情報はありませんでしたが「ロキ」は今、「ウトガルザ」なのです」


 ヴォルが紡いだその言の葉に、少女を除く全ての一同は驚愕の表情へと変わっていった。



「それって……誰?」




「どうやら、「アースガルズ」に獲物が来たようだな?色々と種蒔きは大変だったが……、そして大事な戦力も幾らか削がれてしまったが……。だがッ!遂に時は来た。これからのお前達の働き、頼りにしているぞ。ふふふはは、はーっはっはっはっ」


 「神界」のとある城の中で1人の男が事態を察し呟き、高らかに笑い声を上げていた。

 その眼下には複数人おり、その者達はその光景を見て「はッ」とだけ返していたが、この者達の正体は今の所、謎に包まれている。




「ねぇ、「ウトガルザ」って何?神族ガディアなのかしら?」


「ヴォル、それは「ウトガルザ」だ?」


 少女は先程までの艶っポイ様子は失くなっており、真剣な表情で紡いでいるが、その質問に返答してくれる相手はいない様子だった。拠ってオーディンは少女の質問を取り敢えず無視し、ヴォルに対して言の葉を投げていく。

 少女はその態度にちょっとだけ「いらッ」と来たが、皆の表情が自分の質問を許していない事を察したので黙っている事にした。



「恐らくは両方なのかもしれないのです」


「フレイヤ!真神征鎚ミョルニルの場所は分かりそうか?」


「恐らく、「スリュムヘイム」なのですわね。わちきの「魔術遊戯セイズ」が示しているのは、「スィアチの館」なのですわ。「ロキ」はさっきヴォルが言った場所で間違いがなさそうなのですわ」


「イズン、「林檎」はいつ届く?」


「あっはーい、直に届くと思いまーす」

「あ、来ました来ましたー。届きましたよー」


 緊張感の欠片もないイズンの無邪気な声が玉座の間に響いた丁度その時に、籠を加えた鷹が一羽舞い踊り、鷹はイズンに林檎クインスコードが入った籠を渡してどこかへと飛び去っていった。



 オーディンは暫くの間、頭を抱えていた。各々が奔放に行動しているとか、言葉遣いが日頃から変だとかそう言う意味ではなく、事態が急を要するコトを理解した故の悩みだった。

 拠って、その場にいた四柱の女神達は何も言わず、オーディンをただ見ていた。恐らくはオーディンの考えが纏まって次の命令が下るのを待っているのかもしれない。

 だから少女も取り敢えず、声を発せられる空気じゃないと考え黙っていた。



「どうやら最悪な事態になろうとしているようだな」




 先ず、状況を整理するとしよう。ヴォルが少女の頭の中から「視た」のは少女を襲った男の顔であって、それは「ウトガルザ」と呼ばれる1人の男だ。

 「ウトガルザ」は「ロキ」の別の姿であり、「ウトガルザ」と言う国の王でもある。

 そして、「ウトガルザ」は「アースガルズ」と敵対している者達の国なのだ。


 また、「スリュムヘイム」も「アースガルズ」と敵対している国であり「ミョルニルがある」とフレイヤが話していた館の主とトールは並々ならぬ因縁がある。



 追記しておくと、オーディンはイズンから受け取った「林檎クインスコード」を皆に配っており、四柱の女神は大事そうに懐に納めていた。

 少女はその様子を見ていたので、「食べ物じゃないのかな?ここで食べる為に配ったのかと思ってた」と自身の考えを改め、仕舞っておく事にするのだった。




「さて、事態はかなり逼迫している様相だ。フリッグ、闘える者達を早急に集めてくれ」


「承ったでござりんす」


「お嬢さんの持ってるブレスレットをヴォルに渡してくれないか?ヴォルはそこから視られた内容を教えて欲しい」


「えぇ、分かったわ。はい、これよ」


「これは?先程、視せて貰った記憶の中に同じ物はなかったのです」


「これはまた別の時に、アタシはオーディンさまから貰ったと思ってたんだけど、どうやら違ったみたいで」


「ふむふむなのです。「ウトガルザ」の気配が残っているのです。それと、「ヘルヘイム」に関連する「術式」が中に組み込まれているようなのです」


「そうか……これで決まったな。本日、この時を以て「全てのロキ」を敵と見做みなすものとする」


 オーディンが高らかに宣言した後、程無くして続々と「アースガルズ」の神族ガディア達はヴァーラスキャールヴに集結し始めていた。そこに集まって来る神族ガディア達は全て闘える者達であり、手に己の得物を持っている。

 また、戦闘に不向きな神族ガディアであっても、治療やサポートが出来る者達は集められている様子で、それはフリッグが独断で動いた結果だと言えるだろう。



 フリッグはフレイヤと同じ能力スキルである「魔術遊戯セイズ」を使う事が出来る。そして、極めて優秀な「完全予測ヴェルスパー」と言う概念ファンタスマ能力ゴリアスキルを持っている。

 その能力スキルに拠って得られた内容は決して他人に漏らす事をしないが、自身が視た「完全予測ヴェルスパー」の内容にのっとり行動をすれば、その行動が外れる事は決してないのだ。

 なお、他人に漏らせばその完全予測ヴェルスパーは効果を失うというデメリットがあるので、漏らせないのである。

 拠って今回、フリッグが治療やサポートが出来る者達にも声を掛けて集めていると言う事は、彼等の力が必要になると言う事を暗に示しているとも言い換えられるだろう。



 ヴァーラスキャールヴには先程よりも多い、数十に及ぶ神族ガディア達が集まって来ていた。

 オーディンはフリッグに目配せし、フリッグがそれに頷き全員の集合を見届けると声を張り上げていく。



「これより軍を編成する。標的は敵の殲滅及び、奪われた神造エンシェントユニ兵器ーク・アイテムの奪取である」

「先ず、名を呼ばれた者は前に出よ」


 オーディンは集まった神族ガディアの中から四柱を選出すると、そこに残りの神族ガディア達を割り振り、4つの「軍」を構成していった。


・1つ目の「軍」の柱にトール

・2つ目の「軍」の柱にバルドル

・3つ目の「軍」の柱にテュール

・4つ目の「軍」の柱にニョルズ


 オーディンは編成した4つの「軍」にそれぞれ指示を出していく。



 トールには「スリュムヘイム」への進軍を指示し、真神征鎚ミョルニル奪取だっしゅを命じた。

 バルドルには「ウトガルザ」に攻め込む指示を出し、全ての「ロキ」の身柄の確保を命じた。

 テュールには「アースガルズ」の守備を命じた。

 ニョルズには友好国である「ヴァナヘイム」に対して援軍の要請に向かうように命じた。



 こうして全ての「命令」が下されると、ヴァーラスキャールヴに集まった神族ガディア達は順次行動に移していったのである。

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