第60話 ヒカリヲワカツ
オーディンはヴァーラスキャールヴに残る事を選択し、自身の為にある高座である「フリズスキャールヴ」に座りその権能を用いる事にした。
要するに全ての事象の観測を始めたのであった。
オーディンの足元にはフリッグとヴォルが控えており、フレイヤとイズンは既にヴァーラスキャールヴを辞して自分達の管理地へと帰っていた。
少女はバルドルと共に行動する事にし、バルドルはそれを了承した。拠って城に残る命を受けたテュール達以外は行軍を開始し、開戦の運びとなったのだった。
「ウトガルザ」へ進軍する陣容は、バルドル
少女はブーツに火を点し空から進軍に加わり、その背後には翼をはためかせ羽ばたいている
最後尾には補給隊と
こうして総勢で千を超える軍勢が「ウトガルザ」に向けて進軍しているのである。
バルドルの軍勢に動きが生じたのは「アースガルズ」を出てから3日後の事だった。
その日の夜、主要な者達が
報告に拠れば「アースガルズ」と「ウトガルザ」の国境付近に「ウトガルザ」軍が陣を張っているとの事だった。その数はこちらの数倍にも及ぶ軍勢であり、「
「軍を率いている総大将はフリュムと思われます。それでは失礼致します」
「バルドル、どうするつもりだ?数で負けている現状で正面から合戦になれば、勝ち目は無いぞ!」
最初に口を開いたのはフレイだった。フレイは女神フレイヤの双子の兄で、背が高く金色に輝く長髪もさることながら、「
装備は腰に帯剣している細身の
もしも仮に少女の心の中に決めた人がいなければ、身持ちが固い少女であっても「口説かれたら
「うん、フレイの言う通りだね。このまま正面切って闘えば敗北は必至と出ているね」
「やはり、お前の権能もその解答を出したか、ヘイムダル」
フレイの言の葉を受けて紡いだのは、この中の見た目だけで言えば最年少のヘイムダルだ。フレイが「美男子」と言う表現が当て嵌まるのに対し、ヘイムダルは「美少年」と言う言葉が明確に当て嵌まる容姿と言えよう。
碧眼で肩に掛かるくらいの金髪で見る者を魅了する不思議な雰囲気を持っている。武器を見える所に持っていない事から、ナイフのような刃渡りの短い刃物か暗器を持っているのかもしれない。
フレイの話しを真に受ければこのヘイムダルも、未来を見通す事が出来る権能を持っているという事になる。
少女は未来予測系の
「バルドル、フレイとヘイムダルが言うのであれば間違いは無いだろう。
「ウルが率いるのなら間違いはないと思うよ?バルドル、いいんじゃないかな?」
最後の最後に提案を出したのはウルだ。フレイとヘイムダルという、整った顔立ちの2人を見た後にウルを見れば見劣りしかしないが、ウルはどちらかと言えば「野性的」な感じを醸し出している。「顎髭を蓄えたワイルド系」とでも言えば聞こえは良いかも知れない。
さっきの提案の中身といい、背中に短弓を背負っている事といい、完全なる弓兵だろうと思われるが、その腕の確かさは未だ分からない少女である。
「そうですね良いですね。2人の言い分とウルの提案。ですが、もう一押し足りない気がしますね」
「なんだ、バルドル!怖じ気付いたのか?」
「まぁまぁ、フレイ。バルドルだって万全を期したいだけだよ。それに正面から900。背後から100の戦力じゃ、どう頑張っても圧倒的に足りないのは子供でも分かるよ」
バルドルは指先を額に当てて悩んでいる。バルドルは「光の神」と呼ばれるオーディンの子だ。
眉目秀麗な美貌を持つフレイに対して、バルドルはどちらかというと柔和な美貌を持っているので、イケメンと言うよりは美少女に近いという表現が適切かもしれない。
この場にいる唯一の女性である少女としては「顔立ち」や「肉体美」に於いて、何1つ勝てる要素がないので嫉妬に猛り狂いそうだが、まぁ、そんな勝負を吹っ掛けるつもりはサラサラなかった。
一方でバルドルの最大の特徴とも言えるのは、その美貌でも聡明さなんぞでもなく、その身を傷付けられる物がこの世にたった1つだけという事なのである。その弱点足り得るモノ以外の攻撃ではかすり傷1つ付けられない、チート体質と言えるだろう。
だからもしも、敵の軍勢がいくら多かろうと、その弱点を付かれなければ1人で軍勢を殲滅出来るとも言い換えられる。
「バルドル、何が足りないと感じているの?聞いてあげるからちゃんと言ってごらんよ」
「うん、そうですねヘイムダル。今のままでは決定打が足りないと思ってるんですよ。背後から強襲しても数の暴力を仕留められるとは思えないんです。もっとこう、敵が本領発揮出来ない状況を作り出さないと、いけない気がしませんか?」
「じゃあ、その役目、アタシが引き受けてもいいわよ?サクっと敵陣に潜り込んで揺動か混乱させればいいのよね?」
悩んでいる4人の会話に乱入したのは少女だった。だが、その乱入に拠って4人は目を白黒とさせる事になる。
「あーはっはっはっ」 / 「ぶふっふふふ」 / 「くっくっく」
「ちょ、ちょっと何よ!アタシ変なコト言ったかしら?」
4人は目を白黒とさせていたが、徐々に顔を歪めるとバルドルを除く3人は大笑いの渦を巻き起こしていったのだ。何故笑い者にされたか分からない少女は、当然の事ながら頬をむくれさせていた。
「一体、何を言い出すかと思えば、ヒト種の娘に何が出来ると言うのだ?本来であれば、この幕舎に入る事すら、我々と共にいる事すら恐れ多いと言うのに」
「ふぅん、そう。それが本心なのね?それじゃあ、そっちがその気ならこっちはこの気よッ!これからアタシはアタシのやりたいように好き勝手にやらせて貰うわ」
ばっ
「これで良かったのか?バルドル?」
「憎まれ役を押し付けてしまって済みませんね、フレイ」
「まぁ、いいさ。バルドルの頼みなら聞かないワケにはいかないさ」
バルドルはフレイに言の葉を返し、返されたフレイは
バルドルは外が静かになると幕舎を出て空を見上げ、夜空に浮かぶ星よりも更に明るい光を、その美貌に宿る金眼で追い掛けていった。
「父上から聞いていたあの娘の力が本物なら、我々の「軍」がしてあげられる事は「道案内」だけでしょう。そしてそれが済めば、後は陰ながら見守る事しか出来ませんからね。まぁ、頼りにし過ぎるのもどうかとは思いますけど」
「さて、ヘルモーズおりますか?」
「はッ、ここに!」
「あの娘を陰ながら護ってあげて欲しいと考えています。貴方にそれが頼めますか?」
「委細承知致しました」
バルドルに言われたヘルモーズはこうして少女の護衛を仰せつかり、その姿を宵闇に溶け込ませていくのだった。
「さて、父上が絶賛した力、見せてもらうと致しましょう。フレイ、ヘイムダル戻るまでこの地の事は任せました。ウルは共に来てもらえますか?」
少女は空を駆けて遥か上空からバイザーで敵の軍勢を確認していた。上空にいる少女の周囲に敵影は無い。ついでに言えば飛行系の魔獣もいない様子だ。
地上では陣が張られており、
煌々と燃える
更にはバイザーで見た限り、魔獣達も張られた陣の中にいる様子だ。
「なる程ね。確かにこんだけいると厄介かもね。でもそれなら、案外
「まったく、アタシをバカにした事、ちゃんと吠え面かかせて、ぎゃふんと言わせてやるんだからッ」
「それにしてもここまで高度を上げれば襲われる心配は無いわよね?詠唱中が一番狙われると厄介だけど、周りに敵はいないようだから……。ふふふ、制空権を取ったアタシの力見せてやろうじゃんかッ!」
少女は背中に格納してある愛剣を取り出し、デバイスに「命」を投げた。デバイスからは1つの
そして静かに詠唱を始めていく。
「廻れ廻れ、輪廻よ廻れ。廻れ舞われよ、
「我は望みてここに来たれり、我の望みはここに
大気中のマナは詠唱に拠って引き寄せられ、少女は自分の持つ膨大なオドとそれらを混じえて魔力を編んでいく。
少女の愛剣は編まれていく力を受け取り、その姿形を変えていく。少女の愛剣が巨大な金色の
「我が神槌を、我が敵に下さん。
「うおぉぉりゃあぁぁッ!」
少女は具現化した
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