アースガルズ

第58話 チヌラレシムジヒ

「ねぇコレ、オーディンさまから貰ったんだけど、覚えてるわよね?」


「なんだこれは?これを吾がお嬢さんに?」


「えっ?!嘘でしょ?それじゃあやっぱり、スサノオが言ってた通りなのね」


「なっ!オレサマが言った通りだったろ?」


 少女はオーディンの「そんなの知らない」発言が来る事は想定内だったが、同時に落胆させられていた。それに拠って、オーディンに対し自分の身の上に起きた出来事を話すのを決めた。

 更にアマテラスは、少女の身を案じてスサノオを「冥界」に遣わせていた事を話したのだった。


 それは勿論だが、スサノオが「アースガルズ」に行っていない事の証明になった。


 こうして話しが終わった後の沈黙は非常に無いものであり、誰も何も言の葉を発しなかったのは言うまでもないだろう。




此度こたびの事、大変申し訳無い」


「この度の事は真に遺憾いかんに思いますが、首謀者が何かを企んでいるのは余りにも明白。ですので、そちらに対して早急に手を打たねばなりませんね。「アースガルズ」への対応はそれが終わってから改めて行いましょう。先ずは……」


ちらっ


「えっ?アタシッ?!」


「それなら、オレサマも同行してぇな。そっちの方が面白そうだ」


「貴方が行って面倒事を引き起こされるのは、こちらとしては、却下します」


「なん……だと!?それはあんまりだぜ、暴虐姉アマテラス。オレサマの無実は証明されたってのによぉ」


 スサノオは何やらその後もぶつぶつと何かを言っていた。だがスサノオに声を掛ける者は誰もいない様子だった。

 あながち、アマテラスが言っているコトは、間違いではないのかもしれない。

 中には頷いている神族ガディアの姿も散見されたコトから、間違いどころか正解なのだろう。



「それでは、行ってくれますか?」


「えぇ、そうね。アタシも決着を付けないと気持ち悪くて、おちおち人間界に帰れないしねッ!」


「それでは、頼みましたよ」


「それじゃ、アタシをアースガルズへ連れて行って貰えるかしら、オーディンさま?」


「うむ。了承した」


 こうして、次なる目的地が決まった少女は、北欧「アースガルズ」へと向かう事になったのである。




「ここが「アースガルズ」なのね~!素敵!!」


「ようこそ、お嬢さん。吾の国、「アースガルズ」へ」


 少女を連れたオーディンは小高い丘の上にやって来ていた。そして、そこから見える絶景に大はしゃぎだった。


 遥か彼方かなたには中腹までを白に染め上げた高い山々があり、その手前には緑豊かな平原が広がっている。眼下には広大な街が広がっており、その街の中央に一際大きな銀色の城が見えていた。



「あそこが「アースガルズ」の城、ヴァーラスキャールヴだ」


「凄っごく素敵なお城ねッ!えへっ」


「お世辞でも、そう言って貰えると嬉しいものだ。はっはっは」




 オーディンはそのまま少女を連れてヴァーラスキャールヴに入城した。最上階にある玉座の間まで行くと、自身の玉座に腰をかけていく。

 その姿はとても貫禄があり、「高天原たかまがはら」で取り乱していた姿とはまるで大違いだったと言える。

 2人が玉座の間で話しをしていると、王の帰還を察知した「アースガルズ」の神族ガディア達が続々と玉座の間へと集結してきたのだった。



「王よ、「真神征鎚ミョルニル」は見付かりまして御座いますか?」 / 「王よ、「スサノオ」を無事に捕らえる事が出来たので御座いますか?」 / 「王よ、トール殿が目覚められまして御座います」 / 「王よ、そこのヒト種の娘は何者で御座いますか?」 / 「王よ、破壊された神殿は無事に復旧致して御座います」 / 「王よ――」 / 「――王よ!」


 王よ、王よと目まぐるしく、オーディンに対して報告が次々に為されていった。それらの報告に対してオーディンは卒無そつなく返答していく。

 こうして一通りの報告が為されると玉座の前にひざまずいて待機している神族ガディアは20余名にも及んでいたのだった。




「改めて皆に紹介しよう」


 オーディンは徐ろに声を上げ、少女の事を皆に紹介していった。神族ガディアの中には少女の事をいぶかしんでいる者もいる様子だったが、少女がそんな事を気にするワケはなかった。



「さて、皆に聞きたい事がある」


「「「「何なりと」」」」


「この中に「ロキ」若しくは、「ロキ」に準ずる存在モノをここ最近見た者はいるか?」


ざわざわざわざわ


「そうか、誰も知らんか。それならば、今から名を挙げる者はこの場に残れ。それ以外の者達は下がるがよい。フレイヤ、イズン、ヴォル、以上3名以外は皆、持ち場に戻れ」


 オーディンの言の葉に従って、玉座の間から1人また1人と神族ガディア達は姿を消していったが、1人の神族ガディアだけは従わずにその場に残っていた。そして、呼ばれた者達以外が全員いなくなると、その者はオーディンの前へと歩を進めていく。



わらわも同席させてもらえんかぇ?」


「フリッグか、まぁ良いだろう。同席を許す」


「さてフレイヤよ、そなたは能力スキル魔術遊戯セイズ」を使って「真神征鎚ミョルニル」と「ロキ」を探せ。いや、今は「ロキ」ではないから「ロキに準ずる者」になるが……出来るか?」


「わちきにお任せ下さりませなのですわ。必ず見付けて差し上げるのですわ」


「次にイズン、そなたは「林檎クインスコード」を持って来てもらえるか?」


「王よ、かしこまりましたー。幾つお持ち致しますかー?」


「此処にいる者、全員に1つずつ。計6個あれば良い」

「最後にヴォル。そなたの能力スキル秘匿シークレット開示キャンセラー」で、そこのお嬢さんから情報を探ってもらえるか?」


「えっ?アタシの情報を探るの?ど、どういうこと?」


「お嬢さんが見たが、見たけど理解出来なかった事、それを第三者の目で確認させるだけだ。気をラクにして受け入れてくれれば、あとはヴォルが勝手に解析してくれる」


「えっ?そうなの?」


「「ロキ」は「狡知こうちの神」や「ずる賢い者」と言われる程、奸計かんけいに長けているのです。全てを画策しているのが「ロキ」なら、先ずは様々な情報を隠匿して周到に罠を張るのです。まぁ、わての秘匿シークレット開示キャンセラーに掛かれば造作もない事なのです」


「へぇ、そんな能力スキルもあるのね」


「それでは貴女の頭の中を見させて頂くのです」


「えっ?ちょっアタシの頭の中?いやぁ、それはちょっと言ってる意味が分からないんだけど、何をどうやって頭の中を?モチロンだけど、い、痛くしないわよね?」


「こうやってです」


こつん


 オーディンの指示を受けた者達は各々それを遂行していた。そして、その内の1人であるヴォルは少女に対して近付いていく。

 何やら正体不明な能力スキルが襲って来そうな予感がしていた少女は、少しばかりオドオドとしていたが、その額に唐突にヴォルの頭がぶつかったのだった。



「あっ、あぁん……」

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