第31話 Whereabouts of the first battle

「やめてッ!ちょ、そんなトコ触らないでッ!///」


「ぐふふ。イヤよイヤよも好きのうちってな。ほらほら、もっと感じるがよい。もっと気持ち良くしてやろう。存分に濡らすがいいぞ?」


「ダメっ!///やめてッ!///ちょっと、ホントに触らないでぇ!///」


 少女は叫びながら必死に抵抗していたが、偉丈夫の腕力は強く、その拘束は振り解けない様子だ。

 そして嫌がる少女の顔は言葉とは裏腹に赤らんでいた。



「あーなーたー、一体何をしているのだわ?」


「「ッ!?」」


びくッ


「えっ?今、アタシの口から勝手に…?」

「はっ!今だッ!」


 抵抗を続けている少女の口から、突如として漏れて来たのは「ヘラ」の声だった。

 偉丈夫はその声に驚愕の表情を瞬時に浮かばせ、驚きの余り少女の拘束を解いてしまっていた。


 少女はそのスキに、すかさず鷲の上から飛び降りていった。



「い、今のは?」

「アタシの口が勝手に動いてヘラ叔母様の声が勝手に…」


 少女は自分の口から発した声が「ヘラ」のものであり、そして、自分の意思とは違い勝手に発せられた「声」に対して驚きを隠し切れなかった。しかし未だ額にある第3の瞳には気付いていない。

 一方で助けられた事に凄く感謝しており、自分の貞操と生命が一時的に守られた事に安堵していた。



「さっきのはもしかしてヘラ叔母様の加護ブレス?」


「今、貴女のひたいにはアテクシの目があるのだわ。そこから見ているから、あの唐変木をこてんぱんに懲らしめてやるのだわ」


「凄く不思議。アタシの口からヘラ叔母様の声が出て来る。それに額に目?あれれ、ホントだ!何かある!触っても平気かしら?」


「流石に目を触るのはやめるのだわ。さぁ、早くこてんぱんにするのだわ!」


「でも、どうやって?」


「貴女に付けた護衛ギフトを使ってみるのだわ」


「えっ?でもアテナさんは今日はいないわよ?護衛ギフトってアテナさんのコトじゃないの?」


「貴女の護衛ギフトはアテナの事ではないのだわ。流石にアテナを貴女に差し上げるのは無理なのだわ」


「あ、それはそっか。じゃあ、護衛ギフトって?」


「アテクシの式神の1体を貴女に貸しているから、名前を呼べばあらわれるハズなのだわ」


 まるで腹話術のように一人二役で話す少女は、自分の口から発せられるヘラの声で式神の名を聞いた。

 少女に貸し出された護衛ギフトの名を。




「さ、さっきはヘラの声に動揺してしまったが、ヘラはここにいるハズも無い。もう、だまされんぞ。さぁ、ちんの愛を受け入れるのだ!」

「先程の続きを!なぁに恥ずかしがる必要は微塵もない、スグに気持ち良くなるから共に愛を育もうではないかッ!」


 気を取り直した様子の偉丈夫は、鷲を再び巧みに操作して少女に近付いていく。

 少女の額に開かれた第3の瞳には気付いている素振りはなく、先程同様に顔でイヤラしく言葉を漏らしていた。



いでよ、ピュトン!」


「なっ?!」 / クワックワックワックワックワッ


キシャーーーッ


 少女は式神の名を紡いでいった。すると、そこに翼の生えた巨大な蛇が顕れたのだ。

 それはタケミカヅチの式神の「龍」に似ていなくもないが、脚は生えていない。

 まぁ蛇なのでそれこそ蛇足になるだろう。



 鷲は突如として顕れた化け物ピュトンを見た途端に恐慌した。そして、偉丈夫の制御は当然のように埒外らちがいとなり、鷲はピュトンに対する威嚇行動のみを行っていた。

 少女はそのスキに魔術の詠唱を始めていく事にした。



「我が手に集え、紅き炎よ。我が手に集え、蒼き水よ。我が手に集え、翠緑すいりょくの大樹よ。我が手に集え、鮮黄せんおうの大地よ。我が手に集え、金色なる果実よ。我が内なる全ての力よ、一つに混じりて我らが敵を討たん」


 少女の掌を中心にマナが集まっていく。「神界」のマナは「魔界」同様に濃い。だから人間界に比べると集束するのが早かったが、「魔界」と比べれば

 少女は「世界の違いでマナの質も大分違うなぁ」と心の中で呟いていた。



「我が手に集いし大いなる力よ、空虚くうきょなる微睡まどろみに揺蕩たゆたう力よ。全て切り裂くあぎととなれ!」


 少女の掌に収斂しゅうれんされ、凝縮するようにまれた力は少女の指先へと伝わっていく。


 少女は指先に集っていく力を感じながら、自分の視界の中にいる偉丈夫に対して自分の掌を重ね合わせていった。



極大五色アルティメット鳳鶚龍顎メントゥム


 少女の五指は一気に閉じられていく。少女の掌から放たれた虹色の力はあぎとを形成し、偉丈夫とピュトンを威嚇している鷲を飲み込まんとして向かっていった。



 少女の元にマナが急速に集まっていくのを偉丈夫は感じ取っていたが、鷲の制御が出来ない事と、迫り来るピュトンへの対処で一杯一杯だった。


 更には「所詮、ヒト種が放とうとしている力」と侮り慢心していた事も合わさり、少女の事を軽んじて放っておいたのが運の尽きだった。



 だからこそ「ヤバい!」と偉丈夫が思った時には、少女から放たれた虹色の顎が目前に迫っていた。

 そして顎は今まさに自身を飲み込もうとしていた。



 異常なまでの「圧」を持った力が自身に迫って来ている。例え不死身の身体を持っていたとしても、その「不死性イモータル」の「概念ファンタスマゴリア」すらをも飲み込みそうな力が既に眼前に来ていたのだ。


 その「圧」に対して偉丈夫は危機を察し、素早く鞭を持ち上げると鞭を振った。

 それは神造エンシェントユニ兵器ーク・アイテム概念ファンタスマ能力ゴリアスキルが発動される瞬間だった。



疾走はしれ、真霆神鞭ケラウノス!」


バリッバリバリバリバリバリッ


 縦横無尽に疾走はしる無数の「雷霆らいてい」が少女の放った「あぎと」に飲み込まれていく。だが、「顎」はそれだけでは足りず、更に勢いを増して偉丈夫に迫っていったのだった。


 必死の形相で雄叫びと共に幾重にも鞭を振るい、概念ファンタスマ能力ゴリアスキルをこれでもかと放つが、全ての雷霆は顎の餌食にしかならなかった。

 更には左手に神々の至宝とも呼べる防具である「真絶神盾アイギスの盾」をも取り出し、「顎」に抵抗する姿勢を示していく。


 だが、「顎」は偉丈夫の目と鼻の先で「ばくんッ」と音を立てて閉じ、九死に一生を得て鷲の上で脱力し呆然となっていた。



「戻れ、ピュトン」

「アタシは貴方の愛なんていらないわ。まだ執拗しつこく迫って来るのであれば、次は神造エンシェントユニ兵器ーク・アイテム概念ファンタスマゴリアだけでなく、貴方の持っている「概念ファンタスマゴリア」ごと消失させます」

「これで分かって頂けましたか?「オリュンポス」の主神、ゼウス!」


 少女が投げた言の葉に拠って、鷲の上で呆然と項垂うなだれていたゼウスは、何も言わずにそのままどこかへと飛び去って行った。




「貴女、凄いのだわ!全部見させて貰ってたけど、あの力は……あんな力、今までに見た事も無いのだわ。唐変木の「不死性イモータル」まで消してしまえる力なのだわ」


「あれは五大属性で創った力ですわ、ヘラ叔母様」


「まぁ!五代属性?なんてことなのだわ!基本属性を全て扱えるだなんて前代未聞なのだわ!」


 少女の紡いだ言の葉にヘラは驚愕している様子だった。まぁ、実際目の前にいないので多分そうだろう……くらいの感じだが、声の表情では確かに驚愕しか見えて来なかった。



「それじゃあ「大地の塔」に着くまでの間、お話しをしていても平気なのだわ?」


「えぇ、モチロン平気ですわ、ヘラ叔母様」


 ヘラは少女に対して俄然がぜん興味が湧き、少しでも情報を得たいと考えていた。神々の持つ「概念ファンタスマゴリア」そのものを消す事が出来るのであれば、それは危険過ぎる力だ。

 例えば「宇宙」そのものを概念ファンタスマゴリアとしているウラノスが消え去れば「宇宙」そのものが消え去る恐れがあるとヘラは感じたのだ。まぁ、実際は上位存在である、そんなコトにはならないのだが、その存在を知らないヘラであればそう考えるのが妥当だろう。

 だから、少女が悪しき存在であれば、間違いを犯す前に始末しなければと考えたのである。



 「大地の塔」に着くまでの間、少女とヘラの話しは続いていった。


 まぁ「話し」と言っても、ヘラが一方的に質問を繰り返していたので、どちらかと言うと「質疑応答」だったのは言うまでもないだろう。


 しかし少女はその「話し」にちゃんと付き合い、自身の事をさらけ出していった。それによって、ヘラの疑念は晴れていく。

 だから少女は改めて生命拾いしたとも言えるかもしれない。



 ヘラとの会話は無事に終了し、少女の額の第3の目は閉じられていった。「また、何かあったら、呼び掛けてくれて構わないのだわ」と、第3の目が閉じる直前のヘラの言の葉は、少女の心の中に支えとして残った。



 そうこうしてる内に少女は、アテナが教えてくれたほこらの前まで辿り着いたのだった。

 祠には当然だが扉なんて物は無く、少女は「おそらくコレがアテナが言ってた祠だろう」と勝手に思い込み中へと入っていく。



「全く、あの男ときたら、自分の権力の為だったら…」


「まぁまぁ、そう言いなさんな…」


「ったく、あのバカ息子達ときたら…」


「まぁまぁ、間違いはあるモンさね…」



「あれ?中から話し声が聞こえて来る?アテナは祖母がいるって言ってたけど、他にも誰かがいるのかしら?」



「おやおや、どうやらお客さんのようだよ?」


「そんな所にいないで、此方こちらへいらっしゃい」


 どうやら祠の中には2人いる様子だ。そしてそこに少女は出くわしたと言えるだろう。

 盗み聞きするつもりはなかったが、入っていく機会をしっしていたのは事実だ。


 だが、そんな少女を咎める事なく中にいた2人は少女に声を掛け、少女は2人の前に姿を現したのだった。

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