第30話 ウイジンノユクエ
少女は朝起きると、寝ぼけ
使いの者は無言でいつものように入って来て、少女からの「お遣い」の内容を待っていた。
「お風呂って用意出来るかしら?」
少女の「お遣い」の内容に、使いの者は首を傾げ困った素振りをしていた。
「流石にやっぱり無理よね。はぁ。困らせてごめんね」
「それじゃあ、内容を変えるわ。身体を拭きたいから、用意をしてもらえるかしら?」
こくんッ
使いの者は少女の言った内容に対するモノとして、
少女は服を脱ぎ下着姿になるとタオルを湯に浸し硬めに絞り、身体を拭いていく。流石にいつ扉が開けられるか分からないから、全裸になるのは気が引けた。
「ふぅ、サッパリした。どうせなら髪も洗いたいところだけど、流石にタライのお湯じゃ難しいわね」
「でもやっぱり下着だけでも替えたいなぁ。頼んだら持って来てくれるかしら?でもそうすると、今履いてるのを洗濯したくなっちゃうしなぁ……。洗濯したらどこに干すかも悩ましいわね」
「あんまり見られて嬉しいモノでもないし…。特にアテナには……はぁ」
少女は身体を拭き終え、下着姿のまま独り言を口にしている。乙女の悩みは尽きない様子で、ぐるぐると頭の中をかけ巡っている様子が窺えた。
兎にも角にもそれから少女は、仕方なくさっき脱いだ下着を身に着けインナーに身を包み、装備を整えていく。
そんなこんなでまったりしていると、使いの者がいつもの朝食を運び入れてくれた。
「今日もちゃんと寝れたようで何よりだ」
「えぇ、お陰様で。ありがとう、アテナさん」
「ところで今日は、
「えぇ、そのつもりで考えているわ」
「それなら次は「大地の塔」だな。「大地の塔」はここから南にある島に、そびえ立つ塔だ」
「南…南にある島ね」
「その手前に
「祖母?誰かしら?うん、分かってる、ちゃんと本人に聞くわっ!」
アテナは少しだけ満足したように微笑むと更に紡いでいく。
「今回、ウチは一緒に行けないから、貴女が自力でいく事になるが、大丈夫か?」
「えぇ、きっと大丈夫よ」
「ありがとう、アテナさん」
「そうか。それなら塔から出たら、再びここに帰って来ると良い。昨日みたいに魔術で戻って来ても、もう槍を向けたりはしないさ。ははは」
アテナの笑顔はやっぱり綺麗だった。アテナの笑顔は少女の中に残っていた
だから1人でも無事に行って戻って来れる気がしていた。
少女はアテナの神殿を出るとブーツに火を
「今日は独りか。それならば」
少女の様子を窺う1つの影がある事に気付かずに……。
少女は南に向かって空を駆けていく。その心の中には
自分の祖父母がどんな姿でどんな声を紡ぐのか?それに対しての興味が尽きなかったからだ。
南に向かう道中、少女は高度をそこまで高く維持しているワケでは無い。だから自分の興味に対して思いを馳せつつ、地上の様子を窺いながら空を駆ける少女の姿は、「オリュンポス」の民に目撃されていた。
「オリュンポス」の民は翼も羽も無いのに空を駆けていくその姿を見て、本当に不思議そうに首を傾げるのだった。
「アタシの前に何かいるわね?」
ぶるるっ
「なんか凄っごくイヤな予感しかしないんだけど……」
少女は自分の前方に何かがいる事に気付くと、空を駆けるのを止めて、その場に留まって様子を窺う事にした。
空中に
「おぉ、美しき
「さぁこちらへ、愛しき
少女の前方にいたのは、大きな
その偉丈夫の顔立ちは整っており、髪は
口説かれれば落ちない女性はいないかもしれない。それは充分納得出来た。
更にその身体付きで目を見張るものは「筋肉」だ。見せ付けるような筋肉の鎧を纏っている。そしてその逞しい身体付きに
やはり頑強な筋肉の鎧があれば防具はいらんと言わんばかりだ。
青年と言うほど若くはないだろうが、その
「そう言うのはお断りしています。アタシには既に心に決めた人がいて、それに今はそれどころではないので、お引き取り頂けますか?」
少女は突然の求愛に対して冷たくあしらう事にした。先ずは丁寧に相手の感情を逆撫でしない事が大事だとも考えていた。
まぁ、そもそも人間界で少女の事をナンパしてくる男はいないので、これが人生初ナンパとも言えるかもしれない。
そもそもナンパで最初から「愛を育む」とか言われても下心しか見えないので引く事しかないのだが……。
「ち、
「さっきも言ったけど、心に決めた人がいるの。それに貴方に構ってあげられる余裕もないの」
冷たくあしらわれた偉丈夫は、フられたショックでわなわなと震えていた。だが、その瞳から漏れている光は到底諦めているようには見えなかった。
「それならば、無理矢理にでも
「一度でも
「それって、ただの犯罪者だし、どんだけ自意識過剰なのよッ!そんなのこっちから願い下げよッ!!」
盛大に声を張り上げた偉丈夫は、乗っている鷲を羽ばたかせて高度を取り、少女へ向かって急降下させていく。
少女は
最大加速した速度でも振り切れなかったのだ。
しかしこの時、少女の額に第3の目が開かれている事に、その身体の持ち主ですらも気付いていなかった。
「ほらほら、もう少しで追い付くぞ!」
「さてさて、どんな味わいかな?どんな声で鳴いて、どんな声で喘ぐのかな?愉しみだ実に愉しみだ!」
鷲の上の偉丈夫は少女に向けて甚振るような声を投げている。その目はだらし無くニヤけており、鼻の下はデロデロに垂れ下がり、今にもヨダレを垂らしそうな半開きの口が、
「あぁ、もうっ!
「そんなに
「そもそもアタシはアンタなんか嫌いよッ!!アンタみたいなスケベオヤジに身体をいいように弄ばれてたまるモンですかッ!」
少女は
まぁ、現実とはそんなモノだ。
偉丈夫は手を伸ばし少女の腕を掴むと、強引に自分の元へと引き寄せ、嫌がる少女を無理矢理に抱き締めたのだ。
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