第14話 フェアリア

「娘の事を…宜しくお願いします」


「有難う御座います。そうしたら、元首と話しをして、今後の方針を決めようと思います。後日、話がまとまった段階で公安から使いの者が来る事になると思いますから、それまでは普通に生活を送っていて下さい」


「アルレおねぃちゃん、ありがとう」


 少女はどこか「ほっ」とした気持ちになっていた。

これでこの母娘おやこは「今以上に苦しまず少しはラクになるのでは無いか?」と考えたからだ。

 だから少女はその為に出来る限りのサポートをしようとも考えたのだった。



「あぁでも、念の為にアタシの使い魔ファミリアを残していきます。魔獣ですが使い魔ファミリアなので怖がらなくて平気です」

「だけど、魔獣はやっぱり怖いでしょうから見えないようにして、お2人を守らせるコトにしておきますね」


「「使い魔?」」

「アルレおねぃちゃん、見せて見せて!!」


「じゃあ、直ぐに見えないようにしちゃうから、少しだけね」

「デバイスオン、使い魔ファミリアオブガルム」


わぉんっ / へっへっへっへっ


「ひっ!」 / 「凄い!凄い凄い凄い!!アルレおねぃちゃん凄い!!」


 少女の言葉に従って2匹のガルム使い魔が姿を見せていた。

 初めてみるガルム使い魔の姿に母親は恐怖を顔に浮かべていたが、アリアは恐怖よりも先に好奇心がやって来た様子で、



「アナタ達、この2人を危険や災いから護りなさい。普段は2人のかたわらでアストラル体でいる事。何か起きた時は速やかに姿を現して対処しなさい。そして、アタシへの報告も忘れない事!」


あぉん / わん


すっ


「これで2人に1匹ずつ「お守り」が付いたから、安心して普通に日々の生活を過ごして下さい」


「ねぇ、アルレおねぃちゃん?」


「なぁに、アリア?」


「使い魔さん達のご飯はどうすればいい?」


「えっ?あははは。あぁ、うん、それは大丈夫よ。アリアは心配しないで」

ガルム使い魔達は魔力がご飯だから、アタシと繋がってる以上、アタシから勝手に魔力を持っていってるの。だから気にしなくて平気よ。ありがとう、アリア」

「だから、お母様も気になさらないで下さいね。ただの「お守り」だと思ってくれていれば大丈夫ですから。でも、何かあった時はちゃんとご利益ありますからッ」


 少女はガルム使い魔の事を「お守り」だと紹介すると、ウインクを投げていた。

 母親は多少困惑していたが、目に見えなくなった事で怯えている様子は伺えなかった。



「それでは、後日、公安から使いが来ると思います。それまでは、誰にも話さないで普通に生活をしていて下さいね」


「はい。分かりました」 / 「はーい」


「そうだアリア、いいかしら?」


「なぁに、アルレおねぃちゃん?」


しばらくの間は魔術のお勉強はしたら駄目よ。でも、もし、精霊が現れたら、たくさん「お話し」をして、仲良くなってね」


「うん、分かった。頑張って精霊さんと仲良くなる!」


 そして、2人はアリア母娘の家をあとにした。アリア母娘は玄関先で少女達を見送ってくれていた。




「精霊と契約なさるなんて、アリアは凄いですわね」


「それだけ「願い」が強かったって事なんじゃないかな?アリアは一生懸命だったし、願いが強ければ強い程、精霊は応えてくれるものなんでしょ?でも、本当に何とかなって良かったわ!」


「クスっ。えぇ、本当にそうですわね」


「そう言えばルミネの張った魔力糸マギア・スレッドにあの精霊は引っ掛からなかったの?」


「えぇ、引っ掛かりませんでしたわ。本来人間界にいる精霊種は引っ掛かりますけど、あれは全く違う存在ですわよ?」


「えっ?そうなの?」


「生態系上では、先程のも精霊種になるんでしょうけど、アレは完全にアストラル体の精霊ですわ。ですから種族的には生態系に組み込まれていない種族の可能性がありますわね」

「だから要するに、人間界に居を構えていない上位存在と言った方が伝わるのでわなくて?」


「え、それって、相当ヤバいんじゃないの?」


「やっぱり…。アルレさまでも分かっていらっしゃらなかったのですわね。はぁ」



 「人間」と呼ばれる様々な種族が「人間界」で暮らすように、魔族デモニアには「魔界」、神族ガディアには「神界」がある。そして、精霊族フェアリアが住む別の「世界」があるとルミネは暗に示していた。

 人間界に人間として住む精霊種と精霊族フェアリアは別モノなので、ルミネはそこを言い方をした事になる。

 それは完全に少女の落ち度だった。


 しかし一方で少女の表情は「安堵」に染まっていた。その表情を見て、ルミネはもう一度だけ「クスっ」微笑わらっていたのだった。



「きっと大丈夫!うん、大丈夫に決まっている。だからアタシ達が全力でサポートするんだッ!」




 少女は翌日、ルミネを伴ってマムの元を訪れていた。



「報告書は読ませて貰ったよ。と契約した13歳の女の子か……」

「だが、まだハンター試験を受けられる年齢じゃあないね。アンタは一体何を考えているんだい?先ずはアンタの考えを聞こうじゃないかッ!」


「公安で保護出来無いかしら?アリアは水属性の精霊族フェアリアと契約したわ。それは「回復魔術」を行使出来るようになるって事と同義よね?」


精霊族フェアリア…か、まぁ、確かにその通りだ。それは認める」

「だが、それでも問題はあるだろう?誰がその「アリア」に力の使い方を教えるって言うんだい?」

精霊族フェアリアとの契約なんて、神奈川国ウチには前例が無いんだ。そもそも世界中探したって、そんな前例を見付ける方が難しい」

「そして教えられる者がいないだろう?ただでさえ、この国には回復術士ヒーラーですらいないってのに……」

「仮に教えられたとしても、この世界にいる精霊種とは勝手が違う。下手に力を暴走されれば、それこそ「さざめく災禍カタストロフ」や「空虚な災厄ディザスター」クラスの被害を齎す可能性だってある」


 マムのその表情は非常に険しかった。だがそれは、起こり得るかもしれない危険性を唱えているので、マムの言っている事は正論であり「その通り」と言う以外に言い換えようもない。



「アタシに考えがあるんだけど、いいかしら?」


「アンタがそう言う時は、良からぬ事を言いそうで気が進まないが…。まぁ良いだろう、聞くだけ聞いてやる!」


 少女は口角を上げて何やらお得意の「悪っるい顔」をしていた。マムとしてはそれこそ課題が山積みで、その上危険性すら孕んでいるセンシティブな大問題に覚悟を決めないとならなかった。

 だから非常にイヤそうな顔をしていた。

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