第13話 想いの丈

「アルレおねぃちゃん!」


「よく頑張ったわね、アリア」

「そうだ!ルミネ、こっちに入って来れるかしら?」


しゅうんっ


「アルレさま?どうされましたの?」


「ミルフおねぇちゃん!凄い。凄い凄いッ!」


「アリアさん、よく頑張りましたわね。ところでアルレさま?」


「うん、ルミネって回復魔術使えたわよね?2人がケガをしてるみたいだから、治療をお願い出来るかしら?」


「そんな事で宜しければ、お安い御用ですわ」


 アリアは喜びに満ちた声を上げていた。

 母親は目隠しのせいで何がなんだかサッパリだったが、アリアの喜んでいる声が聞こえて来たから、無事なコトを知ってほっとしていた。少女はそんなアリアと母親の拘束を解いていく。

 そして、その場にいた少女とルミネの姿を見ると驚いていた。



「あら?貴女達は昼間の?」


「どこか痛みますかしら?遠慮なく仰って頂けると助かりますわ」


「い、いえ、私は大丈夫です。それよりもアリアは?アリアはどこもケガをしていませんかっ?!」


「アリアさんなら、とっくに治療は終わってますわよ」


「それなら、良かった。うっうっ、本当に本当に……」


 少女はルミネが「治療」を行っている間に公安に連絡を取り、依頼クエスト完結コンプリートと犯人の捕縛を伝えていた。

 少女の報告の後、公安から連絡を受け取ったサポーター達はスグに家の中へと押し掛けて来た。こうして3人の狼人族ウォルフィアは引き取られ、家の中にはアリア母娘と少女とルミネの4人が残ったのだった。



「助けて頂いて、本当に、本当に有難う御座いました」


「お2人が無事だった事が何よりです。それに、そんなかしこまらなくて大丈夫ですから、頭を上げてください」


 少女は母親に対して優しく声を掛け、肩にそっと手を置いた。すると母親は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら顔を上げて少女の顔を見ていた。

 少女はそんな母親に対して微笑ほほえんだだけだったが、少女のそほ微笑みの裏にはどこか、遣る瀬無い思いが込められていた。




「アリアさんのお母様に大事なお話しがあります」


きょとん


「大事な話し?一体なんでしょう?」


「先程、アリアさんは水の精霊と幸か不幸か契約を交わしてしまいました。それはひとえにお母様の事を犯人が狙い、それから守りたい一心だったと思われます。だから、その事は責めないであげて下さい」


「は、はぁ?」


「だからその結果、これからアリアさんを取り巻く環境は


「えっと、それは一体どういう事なのでしょうか?」


 少女の話している内容を母親は理解していない、いや、。しかし少女はそんな母親の反応を気に留める事なくアリアを見ていた。

 そんな少女の視線の先にあるアリアの表情は希望に満ちたものだった。


 一方で母親の反応はその通りと言えばその通りなのだ。だから特段におかしい反応ではない。

 ハンターと関わる事など今までの生涯に一度も無く、娘の為だけに生き、仕事しかしてこなかったからだ。だから、



アリアには寂しい思いをさせている」


 それ故にそれだけが唯一の気掛かりであり、そして、願うのはアリアの幸せのみだった。しかしながら一方で、母親はアリアが何を考えていたのかを知らないし、保護されたと思ったあの川原で、アリアが何をしていたのかも知る由がなかった。

 そしてアリアも母親を心配にさせまいと、魔術が使えるコトを話していなかった。いや、違う。そうではなくて…、襲われた結果、



「精霊と契約を交わしたと言う事は大変珍しい事なのです。そして、アリアさんはまだ若く、その珍しい「力」を正しい方向に導いて行かなければなりません」

「ちゃんと導いていかなければ、時に力の暴走を巻き起こしたり、良からぬ事を企てる者がその力を悪用するべく近寄って来る事も考えられます」


「えっ?!そんな、アリアが?」


「ですが、水の精霊と契約したアリアさんはこの国の「宝」とも言えます。だから、公安で保護したいとアタシは考えています。事の詳細はこの国の元首と話し合って決めますが、決して悪いようにするつもりはありません」


「そんな、急に!アリアはまだ13歳なんですよ?」


 少女の投げる言の葉は母親の事をとても心配させていた。何故ならば、大切な娘が「危険にさらされるのではないか」と考えたからだ。

 だがそれは子の事を第一に考える親ならば当然と言えるだろう。だからその想いを否定する事は出来ない。

 しかし少女は母親が言った「13歳なんだから」という言葉に自分を重ねてしまい言葉が詰まった。

 一方で母親のその意図は理解していた。



「アリアさんは……」


「お母さん、わたしね、ハンターになりたいのッ!お母さんが凄く苦労して一生懸命働いてくれているから、少しでもラクをさせてあげたいのッ!」

「だから、わたしが魔術を使えるなら、その力でお母さんをラクさせてあげたいし、さっきみたいに悪い人が来ても追い払えるようになりたいッ!」


「アリアっ!!うっ」 / 「アリア……」 / 「アリアさん……」


 アリアは母親に対して精一杯の想いの丈を一生懸命、言の葉に乗せて紡いだ。

 その紡がれた言の葉は母親の心を揺らしていった。


 だからこそ母親の口からはアリアの名前しか出て来なかった。だが、その目からは物言えぬ口とは裏腹に、大粒の涙を溢していた。

 それは言葉にするよりも多くの事を物語っていたのだった。

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