魅力

 魅力。それもまた力の一つなのだと思う。痛みを伴わない力。視覚で感じる力。容姿、声を含めた肉体美。性格を含めた精神美。肉体美、精神美を合わせた、魅力。


 彼女が暴力なら、僕は魅力らしい。周りは僕のことを、可愛いのだと言う。背が小さく体つきも細い僕は、女の子たちからの人気が大きい。男子からは、いじめを受けることも多いんだけどね。女子からの人気が大きいから、嫉妬してるんだ。僕が好かれたい女の子は一人だけなのに。彼女は僕を見てはくれない。


「ノート写させて!」


 見てはくれないのに頼ってくる。別にいいんだ、頼ってくれるのは嬉しいから。でも彼女は気が付いてるのかな。僕がノートを貸すのは君だけだってことに。


「いいよ。脳まで筋肉になったんじゃないの?」

「否定できない……」

「写し終わったら返してね」

「もちろん!」


 ノートを渡すときに、わざ指が触れ合うように渡した。彼女はそのことにも気が付かないで、ノートを受け取る。触れた僕の指と、彼女の指。触れた皮膚をつうじて、僕の想いが彼女に伝わればいいのに。もし伝わったら彼女はどんな表情をするだろうか。どんな声を聞かせてくれるだろうか。でも当然ながら、僕の想いは彼女には届かなくて。彼女は笑顔で自分の席に戻って行った。

 そして僕は、机の中から自分のノートを取り出した。

 彼女に貸したのは、彼女が書きそうなノートを。僕が予想して書いた、彼女のためのノート。能天気な彼女は、そのことにも気が付いていないんだろう。

 彼女が気が付かないように僕が誘導をしているんだけど。誘導しなくたって、彼女は気が付かない。でも念には念を入れて、誘導してるんだ。彼女は知らなくていいことだから。

 自分のノートと、彼女のノート。2つを作るのは大した手間じゃない。彼女のことを彼女以上に、僕はよく知っていると自負しているから。

 でもよく知っていても分からないものはある。気持ちだけは予想がつかない。彼女の気持ちは予想しにくいんだ。

 だから、僕を好きなのを隠しているのか。それともなんとも思ってないのか。直接聞いてもいいんだけど、はぐらかすのは分かりきってることで。だから外堀を埋める。彼女から僕を必要だと言うように。

 逃げ道を塞ぐわけでも、僕しか見えなくする訳でもない。彼女が一番手を取りやすい場所に、僕がいるようにする。選択肢が多くある中で、僕を選んでもらう。そうじゃないと意味が無い。一つだけの選択肢から選ばれても無意味なんだ。


 彼女の自由意志で、僕を選んでもらわなきゃ。そのためなら僕は何だってするよ。

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