問、形ある愛~あなたはそれを認めますか?~

幽美 有明

彼女

暴力

 暴力とは人を傷つけるもの。力をあばれさせた結果と言える。なら、力が暴れる。自己意思で破壊衝動を抑えられないこともまた、暴力と言うのだろうか?


 人は歳を重ねて成長する。成長してはいけない。そう言われても成長は停められない。不可抗力だ。というのなら。

 個人の意思、個人の力で止められない力が暴走することは。不可抗力とは言わないのか?

 全てのブレーキが壊れた車を停めろと言われて、無理だと言うのと。なんの違いがある。


「おはよ!」

「おはよっ」


 彼女の手が背中に当たる。肺の空気が強制的に押し出され、気道を空気が逆流する。逆流した空気が口から漏れ出て、言葉が中断される。


「今日も元気だね」

「あたしは元気だけが取り柄だからね!」

「それは何より」


 彼女は力が制御できない。暴力の文字通り、暴走しているのだ力が。だから彼女が『ポン』と背中を叩いたつもりでも結構痛い。痛いので歩くのを止めて少し痛みが治まるのを待つ。


「あ、もしかしてまた強く叩いちゃった?」

「うん、まあ気にしないで」

「気にするよ! いつもごめんね、大丈夫そう?」

「慣れっこだよ」


 自分で叩いた背中をさすりながら俺のことを見てくる。大柄な彼女はしゃがんで、僕と視線を合わせた。大きな瞳が『うるうる』と揺れていて、太陽光を乱反射して輝いていた。


「あまり効果ないのかな、手袋」


 冬が過ぎた春に、両手を包む手袋が風景に馴染めていなかった。人を傷つけたくない彼女が、自分の意志で身に着けているものだ。素手で叩かれるよりは痛くない気がする。些細な違いかもしれないが。


「素手よりはましだと思うよ」

「そうだといいんだけど……」


 立ち上がる彼女を追う視線は、目の動きだけでは足りず。首を動かして、見上げることでやっと追うことができた。男子としてはだいぶ小柄な、148センチの僕と。女子としては大柄な、191センチの彼女。手袋をつけて左手が、寂しそうに揺れていた。


「手、繋いでもいいかな」

「え、私の手?」

「うん」


 寂しそうに揺れている手をどうにかしたくて。声をかけた。


「手なんて繋いだら、握りつぶしちゃうからダメ!」

「大丈夫だと思うけど」

「駄目なものは駄目なの!」


 彼女が手を繋ぐのを、恥ずかしがってるのは知ってるし。その仕草が、気持ちが可愛いと思う。本当に可愛いから、手を繋ぎたくなるけど。彼女が本当に握りつぶしそうだから、手を繋ぐのを拒否しているのも知ってる。

 リンゴくらいなら両手で二つに割って、ぐしゃっとできちゃうから。それくらいに握力も強いし。背筋とかも凄い。僕くらいならお姫様抱っこ出来ちゃうからね。筋肉がつきやすいんだってさ。

 彼女の握力を知っていても、僕は手を繋ぎたかったな。

 今日も僕は彼女の側に居る。たとえ傷つけられても、彼女が大好きだから。

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