第2話 アライさん仕事を探す

アライさんは朝になると朝食を食べる。今日のメニューはパンと目玉焼き、そしてスープといったものだ。それらを平らげると、すぐに身支度を整えた。今日から本格的に仕事を探すのだ。

外に出ると、まず最初に求人情報が載っているフリーペーパーを探そうとしたのだが見当たらない。エスタ曰く、この街にはそういったものは存在しないらしい。つまり、自分の足を使って仕事をしなければならないということだ。そこで手当たり次第に尋ねることにした。通行人に声をかけてみる。しかし誰も相手にしてくれず困っていると一人の老人が近寄ってきた。

その人は白い髭を伸ばしており、頭頂部は禿げ上がっていて、目は落ち窪んでいる。その顔はしわくちゃだ。

彼は話しかけてきた。


「お前、仕事を探してんのかい?」


「はい、そうなのだ」


「わしが雇ってやらんこともない。どうだ?」


「本当ですか! それは嬉しのだ!」


アライさんは喜んだ。だがすぐに思い留まる。この男の正体がわからなかったからだ。そこで試しに質問してみることにした。


「それで貴方は何の仕事をしてるんですか? 何の職業なんです?」


男は笑った。


「よくぞ聞いてくれた! 実は魔法使いなんだ!」


男は得意気に言った。アライさんはそれを聞いて驚いた。まさか目の前にいる男が魔法を使うなんて。しかし、ここは異世界なのでおかしくないかもしれない。むしろ自分がおかしいと考えるべきだろう。そんな風に思っていると男が話を続けた。


「わしの名はロデウス。この街一番の魔法屋だ!」


「それで、どのよう仕事なんでしょうか?」


アライさんが尋ねると彼は少しの間を置いてから口を開いた。


「モンスターを倒すんだ」


「それなら大丈夫です。もう倒したことがあります」


「ほう……。なかなか勇敢じゃないか。だが気をつけた方がいいぞ。相手は雑魚だけじゃない。中には強い敵もいるからのう」


その言葉を聞く限り危険な依頼のようだ。それでも報酬は悪くないので引き受けることに決める。

「分かりました。では、さっそく行きましょうか」


こうして、仕事をゲットしたアライさんはロデウスと共に街外れの村へと向かうことになった。その途中のことである。

アライさんとロデウスは並んで歩いている。

すると、ロデウスが突然


「ところでゾンビキングは知っているか?」


と聞いてきたのだ。アライさんは当然、その存在は知っていたので


「知っていますよ」


と答えた。ゾンビキングはその名の通りゾンビを操る力を持つボスキャラだ。アライさんの持っているゲームにも登場していた。彼はアンデッド系の王で配下のアンデッドたちを召喚することができる。攻撃力も高い上に体力も高く倒しにくいので何度も戦った経験がある。しかし何故そんな事を聞いてくるのだろう?


「着いたのぞ」


アライさんが疑問を抱いている間に目的地へと到着したようだ。そこには沢山の人が倒れていた。皆ボロボロの姿になっている。まるで酷い暴行を受けたかのように。その中心にはゾンビキングが立っていた。ロデウスとアライさんを見たゾンビキングはニタニタ笑いながら近寄ってくる。アライさんはすぐに剣を構えた。そして戦闘が始まった。しかし、戦いが始まってみると意外なことが起きたのだ。それは相手が魔法を使うことだった。アライさん達に向かって火球を放ってくる。当たれば致命傷だろう。


「アライさん、気をつけろ。コイツは特殊個体でな、魔法の扱いに長けておる。図鑑で見たゾンビキングだとは思わないことじゃ、まぁ頑張って倒してみろ」


「アライさんに倒せって!?マジなのだ!?うわっ!?」


言われてみれば普通じゃない、仲間のゾンビはいないしゾンビキングにしては腕がヒョロヒョロとしている。きっとインテリゾンビなのだろう。


ゾンビキングの魔法は発動が素早く全く攻撃の隙が無いアライさんは避けるばかりだ。何とか攻撃する手段は無いか?その時だった、アライさんが装備している盾に火球が当たる。すると盾が火球を吸収して消してしまった。

マジかよ。この盾鍋の蓋にしか見えないのにしっかりエンチャントで強化してあった。あの老人、いい装備持っているのだ。

これなら奴の魔法は怖くない、盾で全弾受け止めて懐に入ればアライさんの魔法で勝つ事ができる。敵の攻撃を受けつつ距離を詰めていくアライさんは水魔法を発動、ウォーターカッターのようにゾンビの首を切断し勝利した。

アライさんは安堵のため息を漏らすとその場に座り込んだ。ロデウスはアライさんを見下ろすと「大丈夫か?初仕事にしては上出来だ」と言うと魔法で怪我の治療を始めた。しばらくすると、アライさんも立ち上がり再び森の中を進み始めた。


「さっきのが目的地じゃないじゃんのだ。」


「サブクエストみたいなもんじゃ、行くぞ。」


「サビ残?なのだ?異世界にもその文化があったのか」


「冒険者になりたいんじゃろ?いいから着いてこい。」


そしてしばらく森を進むと前方に大きな建物が見える。看板には【魔法の杖】と書かれている。アライさんはその建物の中に入った。そこは広い空間になっていて中央には大きな水晶玉が置かれていた。アライさんはその光景を見て思わず感嘆の声を上げた。ロデウスも興味があるようで周囲を見回している。

すると一人の少女が近づいてきて声をかけてきた。彼女は金色の髪を伸ばしていて瞳の色は紫色をしている。年齢は12歳ほどだろうか?彼女は言う。


「ようこそ、お客さま!私は魔法屋"魔法の杖"の店主をしておりますルリと言います。以後、よろしくお願いしますね!」


店主だと!?

どうやらこの世界に労働基準法は無いらしい

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