第1章 アライさん転生

第1話 アライさん異世界転生する

「うわああああ!」


アライさんはトラックに轢かれると同時に視界が真っ白になる。次に目を開けると、そこは見慣れた公園だった。しかし、いつもよりずっと空が高いように感じる。


「おや、君は?」


後ろから声をかけられて振り向くと、そこには金髪碧眼で背の高い男性が立っていた。

服装は中世ヨーロッパの貴族のような出立ちだ。腰には剣をぶら下げている。


「あ……えっと、名前はアライさんなのだ。」


「そうか! 俺はエスタ・サンクティス。よろしくな、アライくん」


差し出された手を握り返す。するとエスタの手は温かくてゴツゴツしていた。まるで歴戦の勇者といった風格がある。


「さっきまで何してたんですか? なんか叫んでましたけど……」


「いやぁ、ちょっと考え事を。まあ気にしないでくれなのだ。」


「ふーん……」


アライさんは周囲をキョロキョロと見渡す。

すると目に入ってきたのは、西洋風の街並みと行き交う人々の姿だった。皆、革製の鎧を身につけており、手には槍を持っている者もいる。


「あの、ここはどこなんでしょうか?」


「どこって、見ての通り王都だよ。この世界の中心と言われている場所さ」


「へぇ~そうなのだなぁ……」


まるでファンタジーRPGの世界だ。アライさんは異世界転生しちゃったのかもね(笑)。

異世界転生したということは理解できたのだが、まだ実感がわかない。とりあえず自分のステータスを確認しようと思ったその時、エスタが口を開いた。


「ところで君、もしかして冒険者になりたいのか?」


「えっ!? どうしてわかったんですか!?」


「そりゃあ見ればわかるよ。俺だって元冒険者だからな」


「マジ!?」


アライさんのテンションが上がる。


「実はアライさん、トラックに轢かれちゃったのだ! それで気がついたらここにいて……。ここって異世界なのだ!?」


「うん、そうだぞ。よく知ってるじゃないか」


「やったー!!」


両手を上げて喜ぶアライさんを見て、エスタは微笑んだ。


「よかったらうちに来るかい? 歓迎するぜ」


「いいんですか!? ありがとうございます!」

こうしてアライさんはエスタの家で暮らすことになった。


それから数日が経過したが特に問題はなく日々が過ぎていった。そして、ある日のこと。エスタに連れられて外に出ると、そこには驚くべき光景が広がっていた。なんと街の人々がモンスターと戦っているではないか。しかも、それはただのモンスターではなかった。ゴブリンやスライム、オークなど定番のものからドラゴン、巨人など様々な種族が入り混じっていたのだ。どうやらここは本当に異世界らしい。そのことに感動していると、一人の女性が話しかけてきた。年齢は30歳くらいだろうか。胸が大きいわりに身長が低いというアンバランスさだ。頭からは角のようなものが生えている。彼女は言った。

「あなた、アライさんよね。戦えるか?」


突然のことだったため、すぐに返事ができない。少し遅れてから


「戦うというのはどういうことですか?」


「もちろんモンスターとの戦いよ。今この街では戦争が起きてる。みんな武器を手に取って必死になって戦っているの」


話を聞くうちに徐々に事態を把握していく。だがその一方で恐怖もあった。自分は平和な国で育ったごく普通の一般人なのだ。戦いの経験なんてない。しかし目の前にいる女性は自分を信じているようだし逃げるわけにもいかないだろう。そんなことをすれば彼女の信頼を裏切ることになる。


「わかりました! ぼくやります!」


決意を固めて答えると、


「ありがとう」


と言って笑顔を見せた。

エスタは既に戦いに出ているらしく女性の後に着いていくことにした。アライさんは生まれて初めて本物の戦場を目の当たりにした。街のあちこちには負傷した人々が寝転んでおり血の匂いが漂ってくる。建物は破壊され見る影もないほどだ。こんな地獄のような場所で戦い続ける人々は凄いと感心した。一方で、もし自分が戦ったらと思うと怖くなった。

しばらく歩いていると広場に着いた。そこは戦闘が行われている場所であるらしい。地面はところどころクレーターのように凹んでいるし木は燃えていて煙を上げていた。そこに沢山の人々がいる。彼らは一箇所に集まっており何かを囲むようにして立っていた。その中心にいたのはゴブリンである。ゴブリンの体長はおよそ2メートルで緑色をしていた。顔は醜く目は吊り上がっている。右手には大きな棍棒を握っており、全身の皮膚は硬い。アライさんは思った。

ゴブリンの見た目が気持ち悪いなぁ……。ジャパリパークにはこんなキモい生き物はセルリアン以外に存在しない。それにしてもこの世界は弱肉強食の世界なのか。

ゴブリンと戦う人々の装備はバラバラだ。鎧を着て剣を持つ者から、ローブを身につけ杖を握る者まで様々であった。エスタの姿を見つけたので声をかける。彼は傷だらけであったが、まだ動けるようだ。 


「おお! 来たのか! それじゃあ、一緒に戦うぞ!」


そう言って、背中に吊るしていた斧を振りかざして突撃した。ゴブリンと人間の戦いが始まる。


「グギャッ!?」


エスタの放った一撃は見事に命中し、ゴブリンはよろめいた。そこを狙って他の人々も攻撃を加える。アライさんもそれに続いて攻撃を仕掛けた。だが、あまり効いている様子はない。一方的な展開が続くと思われたその時、ゴブリンから急に大きな爆発が起きて跡形もなく消えた。それを見届けてから女性たちが集まってくる。


「ありがとうね、お陰で助かったわ」


「こちらこそ、助力感謝します。」


エスタは照れ臭そうな表情を浮かべながら頭を掻いた。


「ところで、あの爆発はなんだったんだろうな?」


「確かに不思議なのだ。モンスターが爆発するなんて、図鑑にも書いていない」


「あれ、魔法よ」


そう口にしたのは女性の一人だった。彼女は20代後半くらいに見える。長い髪をしており瞳の色は紫色をしている。


「私はアイシャっていうのよろしくね」


「アライさんはアライなのだ。よろしくお願いします。もしかして爆裂魔法のことなのだ?優れた魔法使いしか使えないあの」


「爆裂魔法?しかし今の王都には使い手がいないハズ」


「え、知らないの?この間入った新兵、話題になってたじゃない。」


なんでも、1000年に1人の激ヤバな新兵が入ったらしい。毎年数千人の死者を出す厄災と呼ばれるドラゴンを1人で駆除したり、魔法で山を吹き飛ばしたりするらしい。魔法の精度も素晴らしく演習で見た魔法は芸術だったと言う。


「そうだったのか、私もあのようなド派手な魔法、使ってみたいものですよ。」


「あんたが?そもそも魔法使えないでしょうが」


「え?そうだったのだ!?」


戦いが終わり瓦礫の前で立ち話をしていると空が赤みを帯びてきた。この世界にも夕焼けがあるのだな。


するとエスタが言う。


「アライ、そろそろ帰らないとな」


「ウッス、なのだ。」


アライさんはエスタの家に帰ると自室の布団に横になり眠りについた。明日からは仕事探しだ。冒険者になる為には金が必要だし、いつまでも居候してる訳にはいかないのだ。

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