第26話 友達



「怪我の具合は?」

「まあ、走れるようになったのは予定より少し早いって感じだな」

「そうか。冬までに復帰はできないのかい?」



 冬というのは年末を意味しているのだろう。

 サッカーをする高校生が目指す大会”全国高等学校サッカー選手権大会”が行われる。



「難しいだろうな。そう思ったから俺はサッカー部を離れたんだ」

「でも……」

「というか、もう出られる気でいるのか? 北海道大会で優勝しないと出られないのに」

「出るよ」



 笑いながら伝えると、彰は真剣な眼差しで答えた。



「その為に僕たちは頑張ってきたんだ。君だって、今まで始まる前に負けるかも、なんて考えたこと微塵もなかっただろ?」

「……そうかもな」

「だから拓斗、リハビリ頑張れよ。みんなお前を待ってる……」



 爽やかな見た目なのにサッカーのこととなると急に熱血になる。だからたまに、彼といると照れくさく感じるときがある。



「……ああ」



 拓斗は彼とは違った熱量の返事をする。

 そんな拓斗にもう一度「待ってる」と告げた彰。



「入らないのかい?」

「俺はいい。適当に時間潰して戻ってくる」



 何か言いたげな様子の彰だったが「わかった」と言って、ミーティングルームへ入って行った。

 他の部員たちがミーティングルームに入っていくのを見送る。



「富田先生に挨拶して帰るか」



 ミーティングルームが終わるまで時間を潰すことに。


 ──それから20分ほどした頃。


 ミーティングルームから部員たちが出て行ったのを確認してから、拓斗は顧問である富田に挨拶をした。

 富田は四十代後半の男性で、ザ・体育会系のような筋肉質な見た目だ。

 ガハハハッと鬱陶しい笑い方が特徴的で、無駄に熱血気質。生徒たちからは煙たがられているが、サッカー部の生徒たちからは人気がある。


 そんな顧問の富田も、拓斗の元気そうな姿を見て満足していた。

 そして別れ際「いつまでも待っている」と声をかけられた。

 その返事を、拓斗は「はい」と答えた。



「練習、見ていけばいいのに」

「いや、止めておく」



 帰ろうとした拓斗を彰が呼び止めた。

 拓斗が見送りはいいと何度も遠慮したのに、彼は校門まで送ると聞かなかった。

 二人が話すのは久しぶりだったから、もう少し話がしたいのだろう。



「俺がいたら気が気じゃない部員もいるみたいだしな」

「……まあ、そうかもね。特に君の代わりにレギュラーになった宗田とかは、君が来たのを見て相当焦っていただろうね」

「あいつ、目も合わせてくれなかったな」

「レギュラー争いなんてそんなもんだろ? それに今回は相手が同級生だからまだマシさ。二年の頃なんて、上級生からレギュラーを奪って僕たち、相当嫌われたじゃないか」

「ああ、アレだろ、お前が同じポジションの先輩に「下手くそ」って暴言吐いたやつだろ?」

「……あのことは忘れてくれ。あの頃の僕は少しだけ、ほんの少しだけどうかしていたんだ」

「今も変わんないと思うけどな」

「……拓斗、君に言われたくないよ。君なんて──」



 二人は懐かしむように昔のことを思い出す。

 そして校門が見えた頃。



「そういえば噂で聞いたよ。怪我で苦しんでいる間に彼女を作ったそうじゃないか」

「はあ?」



 不意打ちを食らった拓斗。



「女に興味がないサッカー一筋みたいな男だった君が、まさか彼女を作るとはねえ」

「おい、別に彼女なんて作ってないぞ」

「そんな照れなくてもいいのに。ただ、まあ……まさかあの子と付き合うとはね。いやむしろ予想通りだったか、そういう感じあったもんね」

「あの子?」



 首を傾げると、彰も首を傾げた。



「え? 常磐杏さんだろ?」

「いや、杏とは付き合ってないけど……ってか彰、杏のこと前から知ってたのか?」 

「前から知ってたもなにも彼女、サッカー部の練習を見に来てくれたこともあったし、なんなら試合があるときは必ず、君のこと応援してたじゃないか」

「杏が、俺を……?」

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