第25話 再会



 考えれば考えるほど、悩めば悩むほど緊張というのは高まっていく──。


 次の日。

 拓斗は学校が終わってすぐ、サッカー部の練習場へと向かった。

 その表情は固く、どことなく暗い感じがあった。だけど一歩、また一歩。練習場へと歩みを進めた。


 フェンスで囲われた人工芝のグラウンドを横目に歩き、部室へと向かった。



「えっ、白石先輩……?」



 前方からこちらへと歩いてくるサッカー部の生徒が、拓斗を見て驚いた表情を浮かべた。



「よっ、久しぶり」

「……お久しぶりです、先輩!」



 最初こそ戸惑っている感じだったが、拓斗がいつも通りの表情で挨拶したのを見て、後輩たちは笑いながら拓斗へと駆け寄ってきた。

 おそらくどう接していいか困っていたのだろう。ただ気にしていない様子の拓斗を見て素直に喜んでくれた。



「怪我の具合って、どうですか?」

「まだちゃんと走ったりはできないけど、歩くのは問題ない」

「そうですか、良かった……あっ、部室に向かってたんですよね。これからミーティングなので、みんなそっちにいますよ」



 後輩たちが付いて来るよう促す。

 拓斗は彼らの後ろを付いて歩いていく。



「あれから顔出さなくて悪かったな」

「いや、それは仕方ないっていうか」

「そうですよ。俺たちも、それに先輩たちも、なんて声かけたらいいのかわからなくって」

「でも、こうして白石先輩が部活に来てくれて良かったです」

「そうか。そういえば最近の試合を見れてないんだけど、調子はどうだ?」



 そう問いかけると、二人の後輩は顔を俯かせた。



「あんまり良くはないですね。この前の練習試合でも、前に白石先輩がいたときは5-0で勝った相手に、1-3で負けちゃって」

「そうか」

「理由は色々とあると思うんですが……」



 その理由について二人は話さなかった。

 色々あるというのは本当だろう。ただ最もな理由の答えは、二人の中で出ているのかもしれない。そしてそれを口に出さなかったのは、おそらく気を使ったからだろう。

 それは拓斗にではなく、拓斗の代わりにレギュラーとなったFWフォワードの選手をだ。



「っと、到着しましたよ」



 ミーティングルームに到着した。

 というよりも、ミーティングルームはサッカー部の寮の中にあるので寮に到着したといった方が正しい。



「懐かしいな」



 つい数か月前まで住んでいたサッカー部の寮。

 靴を脱ぎ、スリッパに履き替える。

 長い廊下を後輩たちに連れられて歩いていくと、数名のサッカー部の部員とすれ違った。



「白石先輩、お久しぶりです!」

「ああ、久しぶり」



 誰も彼もが頭を下げて挨拶してくれる。

 怪我をして部を離れても、まだ慕っていてくれている。それが嬉しかった。

 そしてミーティングルームに近づくと、拓斗と同じ三年生の部員たちがいた。

 拓斗は手を上げ、挨拶をする。



「……よっ」

「うぇ!? 拓斗? え、まじ、久しぶりじゃん!」

「元気だったか、おいおい!」

「まあな。みんなも──」

「──拓斗?」



 ふと、後ろから声をかけられた。

 振り返るとそこには、サッカー部で一番と言っていいほど仲が良かった友人の枝幸彰えさしあきらがいた。



「よっ、久しぶり」

「拓斗……ッ!」



 彰は目蓋に涙を浮かべ、1、2ヶ月ぶりの再会だというのに、何年かぶりに再会したかのように喜んでくれた。

 その顔を見ただけでも、ここへ来て良かったと思えた。



「あれ以来ずっと部活に顔も出さないで何してたんだよ」

「いや、まあ……行き難くてな」

「だからって……って、まあ、そうだろうとは思ったけど。それに僕たちも、君に何て声をかければいいかわからなくて会いに行けなかった」

「心配かけたか?」

「少しだけね。でもまたここで会えて良かった」



 枝幸彰はサッカー部のキャプテンを務めている。

 背丈は175ほど。中性的な顔付きに、サラサラとした茶色の髪。たまに女性と見間違えられることもある。

 愛想の無かった拓斗とは違い、ファンへの愛想が良いことから男性女性問わず人気が高い。



「聞いたかもしれないけど、これからミーティングなんだ。もし良かったら顔出していってよ」

「いいのか?」

「いいもなにも、ずっとサボっていたけど君はサッカー部の人間だろ? 何も問題ないさ。それにここまで来て、顧問の富田先生に挨拶しないって選択肢はないだろ?」



 ミーティングルームへと向かう彰に付いて行くように拓斗も歩き出す。

 他の部員たちは二人の再会に気を使ってか、少し離れて付いて来る。

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