【ショートショート】梱包された物語

三箱目 税込540円の価値

私が今から話そうか、悩んでいるこの娘は私が長年思いを寄せている相手だ。

黒い髪の毛を後ろ手にくくって、いつもニコニコとしているその笑顔を見て思わずこちらもほころんでしまいそうになる。

いかんいかん。私はただ短く話すだけでいいのだ。けれど、彼女と会話しているとあっという間に時間が過ぎてしまう。

この前彼女と話した時なんて「好きなんですか？」なんて突然聞かれたものだから思わず「ハイ！」と大きな声で返事をしてしまった。

彼女には笑われてしまったし、我ながら、相当恥ずかしい。

歳も結構離れているし、正直今更誰かと付き合おうなんて気はサラサラない。

けれど、それでいいんだ。

この短い時間、彼女と話すだけで、心が満たされるから。

「...タバコの421番ください」

「421番ですね！ありがとうございます！この銘柄、お好きなんですね！」

「ハイ！！」

...やれやれ。

今日も1日頑張れそうだ。