二箱目 御気の毒に

精神科医であるN医師の元に1人の年若い女性が訪ねてきた。


「先生、私、最近変なんです」


「...と言いますと?」

N医師は首を傾げながら訝しげそうに尋ねる。


「最近ですね、気がつくと急に別の場所にいたり、その時の記憶が曖昧だったり、スマホに知らない人の連絡先が登録されていたり....」


「まるで、自分じゃない別の誰かがすぐ側にいるような、そんな感じがするんです」どうにも要点を得ない様だが、女性は更に続けた。


「信じてはもらえないかもれませんが、私いわゆる “多重人格”というやつみたいでして...」


「なるほど、信じましょう」

不意に返ってきたN氏の返答に呆気に捕らえられた様子で女性は目を大きく開いた。


「...信じてださるんですか..?」


「ええ。もちろんです」


「実はその事で、今日は先生にお願いがあってきたんです」


「どうか、私の別人格を消す方法を教えて欲しいのです」




女性の話を聞いたN医師は深く考えた後、女性を一瞥し、答えた。


「非常にお気の毒ですが、それは出来ません」


「何故ですか?」


「昨日、あなたが私のところにやってきました」


「....私が?」


「はい」


「その私は、なんと?」


「副人格であるあなたを消して欲しい、と」

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