第十九話
「おはよっ!楓っ!」
「おう。」
俺が丁度校門に入ろうとしたところで後ろから声をかけられる。
もちろんその声の主は雪璃だった。
「おはよ。朝から元気だな……」
「というか楓って意外と鈍感なんだね。」
朝っぱらから失礼なやつだなこいつ。
「はい?」
「いや、だってさ〜?僕ずっと後ろからつけてたのに全く気づかないし。」
おいコラストーカー。声かけろや。
「……ストーカー」
「えっ、自意識過剰……?」
「そんな引いてる顔してるけど俺も今お前にドン引いてるんだからな……」
「それはごめんじゃん。」
「まぁいいんだけど……っておいコラ自意識過剰って言ったか。」
「まっまぁまぁ!!怒んないでさ!幸せが逃げちゃうよ!!」
誰のせいだと思ってるんだ。
「ん?」
「?」
「さっきからお前何食ってんの?」
「チョコだね。女子から貰った。」
俺は今盛大に得体の知れない何かに殴られたような気がする。
「……バレンタインなんて滅んでしまえって事で帰っていいかな?」
「こら楓、いいわけないでしょ。現実を受けて止めて。」
「二発目をくらった……」
「何の話??」
「いやまぁお前がモテるっていうのは分かるんだよ。でも大体さぁ今会話してる間にもお前貰ってるじゃん。同じ人間なのになんでこうも格差が生まれるんだ?」
「人間であること以外のすべてが違うんじゃないかな。」
目の前で圧倒的な格差を見せつけられる俺の身にもなって欲しい。虚しくなる。
「すべてって……性別とかは一緒だろ。」
「あはは!まぁ僕モテるから☆」
「うぜー。」
「ちょっとしたジョークじゃん!」
「まぁいいや。ちなみに中学のときもこんな感じだったのか?」
「ん〜いや?中学はこんなに貰ってなかったよ。今日が初めてだね。」
「ふーん。」
意外だな。てっきり小さい頃からまわりにチヤホヤされてるもんだと思ってた。実際こんな綺麗な顔のやつ誰もほっとかないだろうから。
「じゃあつまりは高校デビュー成功って訳か。」
「……まぁね。」
「へぇ。」
そう俺が返事をしている間にも雪璃が手作りっぽいチョコクッキーを貰い礼を言ったあと鞄にしまい込む。
「食べないのか?」
「食べたいの?」
イエスと答えたい所だがここは飲み込む。
「人の物奪うまで堕ちてないし、それにあげたやつの気持ちも詰まってる物だろ。」
「素直に食べたいって言えばいいのに〜」
「うるせぇ。」
「まぁさっきの食べないのかっていう質問の答えはね一応市販の未開封のやつしか食べないというか安心して食べられないんだよね。潔癖症なわけじゃないんだけど、なんか手作りって何入ってるかわかんないからさ。」
「分からなくはないけど。」
「何様だよって感じなんだけどね。くれた子にも悪いし……」
「気持ちはなんとなく分かるし、気持ちをちゃんと真摯に受け止めてやれば大丈夫じゃねぇの。」
「……楓って時々凄く格好いいこと言うよね。」
「そうか。」
「でもそういう優しい所良いと思う。僕は好きだよ。」
そう言って雪璃はフッと笑って見せた。結構恥ずいセリフだけどイケメンが言うと様になるな。
「そうやっていつも口説いてるんだろうな……」
「ん?なんか言った?」
「何もない。」
その後も教室に行っても雪璃はチョコやらお菓子やらを貰い食べていた。しばらくして遠い目をしながら本人がボソッと、
「運動しないと……」
と呟いていたのには流石に俺でも笑った。
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