第6話 天野さんと僕と勉強会

天野さんが僕の家に住み込み始めて1週間になった。


そして模試が近づいてたので勉強会を行うことにした。


天野さんが僕の家に来た翌日の夜から行っているのだが、テストを翌日に控えた今日(日曜日)だけは…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


僕、松下陽仁は今地獄を見ている。


「これはこうしてこうやってとくのよ…って、そこ違う違う! そのはさっき言ったでしょ! だからぁ、こうしてこうやってとく! わかった?」


うん、大好きな天野さんに勉強を教えて貰えると聞いて喜んでいた1週間前の僕を殴ってやりたい。


天野さんの教え方はいたってシンプルなものだった。


ひたすら問題演習。


平日のうちはまだ良かった。


けれども日曜日、朝6:00に起こされ、食事の時間を抜いて現在19:00までぶっ通しで勉強は流石に辛いものがある。


途中で休憩をとろうと提案したけど『明日は駿○模試。忘れたの?』と言われて却下された。


人並みの勉強をしてきたとは思っているのだが、天野さんからすると全然足りなかったようだ。


そんなこんなで22:00になった。


「よし、一旦ここまで。お風呂入っていいわよ」


やっと解放された。痺れる足に鞭を打って風呂に向かおうとしていると、天野さんは


「風呂から出たら続きするからね。今日で数学ⅠA、ⅡBの全範囲終わらせるから」


と言ってモ○スターエナジーをどこからか取り出して飲んだ。


それを聞いた僕は、一人その場で絶望を感じたのだった。


朝6:00、勉強会デスマーチをやっとの思いで終え、解放された僕は重い足取りで天野さんが朝食を用意してくれているリビングへと向かった。


リビングでは天野さんが、朝食を用意してくれていたのだがいつもよりか豪華な気がした。


ふと、朝食をすでに食べ終わって片付け始めていた天野さんを見ると心なしか嬉しそうだった。


そんな天野さんと朝食に幾分か癒された僕だった。


そうして学校に模試を受けに行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



模試を終えて自己採点をしていた僕はその結果に目が点になった。


確かに今までよりも解けた感触はあった。


昨日、天野さんと解いた問題の類題も出ていた。


とはいえ、数学ⅠA、ⅡBで192/200には流石に驚きを隠せなかった。


さらにその8点分も計算ミスから来たものだったのだからなおならだ。


実質満点と言えるかもしれない。


そんな僕を見た天野さんは、僕の手から自己採点した紙を取り上げた後に満足そうに言った。


「やっぱりやればできるじゃない。そろそろ魔力が馴染んでくるとは思っていたけど、これだともう少しってところね。それじゃあ、私は報告するから。…もちろん私は満点よ」


そう言って神様に報告に向かった天野さんはどこか嬉しそうだった。


なぜ数学の点数と魔力の馴染み具合が関係しているのかは僕にはわからなかったが、異世界に行く日も遠くはないようだ。


そういえば異世界に行くとは言えどもどんな世界なのだろうか?


これが『異世界がどんなところか』を初めて真剣に考えた時であった。


 そうして少し考えていると天野さんが戻って来たので少し聞いてみた。


「なぜ数学の点数と魔力の馴染み具合が関係しているのですか? なんら関係なさそうですけど… それに僕が向かう異世界ってどんな世界なんですか? よくラノベとかにあるような剣と魔法のファンタジーな世界だったりするの?」


「あ~ 言ってなかったわね。まず、異世界は松下くんの思うような王道なファンタジー世界よ。そして自分で自分の能力-いわゆるステータスを確認出来るの。そしてそのステータスは上がるだけ、つまり1度でも上げると意図的に下げるようなことをしない限りはそのままなの。そして異世界の魔力に馴染むってことはその異世界に馴染むことに等しいから、今の松下くんは、1度取得したことは殆ど失わないのよ。つまり昨日の勉強会の内容は殆ど全て覚えているわけ。ちなみに今の松下くんなら異世界だと、そこのトップクラス以上に数学が出来るわよ」


その説明を聞いて僕は納得した。


模試で満点近い点数を取ったこと、体育で持久走をしていると同じペースで走っていた気でいるのに徐々にペースが上がっていたこと、そして疲れ全般がたまりにくくなっていたこと。


そして気づいた。


天野さんが勉強会をしたのは単に僕の学力を上げるためだけでなく、魔力の馴染み具合の確認も兼ねていたのだと。


「…天野さん、それでいつぐらいに異世界へ行くのですか?」


「それは多分あと1週間かからないとは思うんだけど… ただ最後の少しに馴染むのが多分時間がかかると思うわ。例えば、ある物質Aに物質Bを入れて反応させるとどうなると思う?」


 「それは、反応物Cが出来て、物質Aと物質Bが平衡の観点から残るはず」


「つまり、そういうこと。あなたはこの世界の人間です。そしてそこに異世界の魔力を加えます。その反応を完全に終わらせるには外部から力をかけ続けないといけない」


「なるほど」


「それじゃあ、もう勉強は終わりよ。これからは体を鍛えるわよ!」


「わかったよ。さん」


「~っ! こら!また言ったぁ!」


そういって天野さんは顔を赤くして怒ったのだった。


こうして天野さんと僕の勉強会は模試の終了をもって解散となり、新たに筋トレ&ランニング生活が始まることとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る