第4話 天野さんと僕と僕の家


「…たくん!…松下くん!良かった気がついたのね」


「…あれ? …もしかして…僕って気を失ってましたか…?」


青かったはずの空が夕焼けに染まっているのを見た僕は天野さんの心配を他所に思わず聞いてしまった。


「せっかく心配してあげたのに目覚めて第1声がそれ? まぁ空模様がこうも変わっていたら仕方ないわね。そうよ、あなたは今まで気を失っていたのよ。これで気はすんだ?」


頬を少し膨らませて答えてくれた。


やはり天使だ。


「ありがとう。やっぱり天野さんは可愛いなぁ」


「…っ! そんなこと言ってないで! それにもう遅いし早く松下くんの家にいくわよ。ボサッとしてないで!早く!」


そう言った天野さんは僕の手を取り、赤に染まった空の下を行くのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「…松下くんの家って割と新しそうなんだけど…」


「あぁ、それは… 家族と一緒にいた思い出の場所だから…遺産で改築したんだよ…」


「ごめんなさい。辛いことを話させてしまって…」


天野さんが聞きたくなるのは仕方ない。


僕の事情を知ってる人のほとんどはこの改築した家を見ると聞いてくるし、家族の居ない独り身の高校生が住むような家ではないことは僕でもわかっている…


そうして僕と天野さんは黙りこんでしまった。


この沈黙はマズイと感じた僕は、とりあえず家の中に入って貰うことにした。


「…天野さん、とりあえず中に上がって」


「…ありがとう。松下くん。…それと台所はどこ? お詫びもしなきゃだし、腕によりをかけて作るわ」


「台所ならここを真っ直ぐいって突き当たりを右に行ったら見えるよ」


そう言いつつも僕は天野さんの手料理を食べれるという事実が目の前にあることの嬉しさで気持ちが書き換えられたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



彼女の手料理を頂いた。


感想は完璧以外に言いようがなかった。


チャーハン、餃子、唐揚げ、酢豚etc.と中華料理が出てきたのには、彼女の西欧系の容姿とのギャップに驚いたが、もはや料理屋を出しても行列のできる中華料理屋になるのは必至だった。


やはり、僕は幸せ者です。


そうして、晩御飯を食べた後天野さんは僕に話しかけてきた。


「今日はまだ、住み込みの用意が出来てないから帰ることにするわ。近いうちに荷物を纏めてこっちにくるからよろしくね」


「わかったよ。これから天野さんと同棲して、毎日天野さんの手料理を食べれるなんて僕は幸せ者です」


「同棲じゃない! 住み込みよ! …まだ…じゃ…よ…」


慌てて天野さんは否定した。


最後に何を言ったのか聞き取れはしなかったが、同棲と住み込みって一緒じゃないかと僕は思いながらも彼女を見送るのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



その夜1時、来客があった。


こんな時間に誰だろうかと思っていたら、玄関前には山のように荷物が置かれていた。


どういうことかと戸惑っていると、両手にボストンバッグを持った天野さんが現れた。


「あれ?今日は帰るんじゃなかったの!?」


「ええ。だから昨日は帰ったわよ」


「?????」


どういうことかと混乱が増した。


そんな僕を余所目に天野さんは荷物をどんどん家の中に運びこんでいった。


「ねぇ。どの部屋なら自由に使っていいの?」


「…開いてる部屋ならどこでも良いけど」


「わかったわ」


そうしたやりとりをしてる内に脳が動き始めたのか、天野さんがこんな時間に来たのは確かに日は変わっているから間違ってはいないということに気づいた。


日は変わってるんだけど、流石に深夜にくるとは… もしかして天然なのか?


そんなことを考えていると天野さんが荷物を運び終えらしい。


「もう寝るから、おやすみ」


「おやすみ、天野さん」


そんなやりとりをした後、僕もベッドに向かったのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る