第3話 天野渚の思い
私の名前はレイア=ハルモニア=シルア。ただ、今は天野渚と名乗っているけどね。
私はこの世界を監視、守護し、調和を保つのが仕事なのだけれども、どうやらこことは別の世界に人々の調和を乱そうとする者が現れたらしい。
そのことを神様方に報告したところ、その対応を任されたため、再び安寧を取り戻せるような人物を探している。
その進捗がどうなのかを毎日報告するのは流石に疲れるけどね。
そんなことを繰り返しているある日、事件が起きてしまった。
力を抑えている天野渚の姿では神様方へ報告するには魔力が足らないので、報告時は本当の姿でないといけない。
日々報告していた疲れの為か油断してしまい、私のその姿を、どうやら私の後を追ってきたらしいクラスメートの松下くんに見られてしまったらしいのだった。
「ふぇ!? なんで君がこんなところにいるのよ!? …………はっ!」
私はバレてしまったのではないかと不安でガタガタと震えながら言った。
「…もしかして……見た…?」
しばらくすると、彼は口を開いた。
「天野さん! あなたのたまにしてしまう常識外れな言動も、頭に浮いてるように見えた輪っかも、背中の方にある羽のようなものも何もかもが好きです。付き合って下さい!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 急に何言ってるのよ! それにその言葉…見たわね……」
私は思わず叫んでしまった。そして見られたことが確実となってしまったのだ。
私は見られたことのショックもありながら、松下くんの告白によりも見られてしまったことをどうしようかと必死に考え込んでしまった。
それも自分が何をブツブツ呟いているのも知らずに。
「気づかれてしまった。気づかれてしまった。きづかれてしまった。キヅカレテシマッタ。キヅカレテシマッタ…………………」
そんな私に松下くんは近づき、話しかけてきた。
「あ、天野さん? …大丈夫ですか?」
私は彼の声を聞くと、ハッと彼の顔を上げた。そして彼の魂が異常なほどに大きいことに気づき『彼なら…』と思い、言うのだった。
「仕方ないわ。私の本当の名前はレイア=ハルモニア=シルワ。神々に仕えし調和の使者。本来はこの世界を監視、守護し、調和を保つのが仕事なのだけれども… あなた、異世界に行って世界の調和を取り戻してきなさい。あなたの魂は異常に大きい。その魂の大きさが異世界では強さに繋がりやすい。その世界は今や人々の調和を乱そうとする者が現れた。調和の使者としてあなたに世界を救いに行ってもらいます。そして世界を救えたならさっきの告白を受けてあげます」
私の話を聞いて、始めこそ驚いているようではあったが、彼の答えは早かった。
「喜んで異世界に行きます!そして天野さんの彼氏になります!」
「宜しい!それから、これ以上正体がバレる訳にもいかないから、いままで通りの呼び方で呼んで。」
「はい。渚さん。」
「…っ 言ったそばから! 天野さん、でしょ!」
私は彼に名前で呼ばれたことに、顔を赤らめてそう訂正した。
そうして彼に異世界に行って貰うことが確定したので神様にふたたび報告することになった。
多分認められるとは思うが、先に相談もなく決めてしまったのだ。
叱責も覚悟しよう。
そのため今日は一旦詳しい話は保留することにした。
「とりあえず今日は神様に報告しないといけないからまた連絡するわ。これ私のLimeね。登録しといてね。」
彼はなぜだかわからないが固まってしまったので、私は彼を置いて屋上を出た。
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「レイア、それは本当なのか?」
響く女性の声。
その周りでざわめく声が漏れて聞こえてくる。
「はい、だから先程説明した通りでございます。」
「しかし、神の使徒とあろうものがそのような約束をしてしまったのならば、それを破るわけにはいかないのだぞ? それに、もしその者と契りを結ぶのならば、我の使徒を辞めなければならないのだぞ?」
神様は私を心配して下さっているのだろうが、これは私の意思で決めたこと。
腹は決まっている。
「いいのです。世界の調和が戻るのなら、それくらい問題はありません。」
僅かばかりの沈黙の後に神様は口を開く。
「…わかった……認めよう。その者を
私達使徒は神様に隠し事は出来ない。いや、出来るには出来るが、全て見透かされるのだ。
つまり神様は、私が彼と共に異世界に行くことを心のどこかで望んでいたいたとを見透かし、応えて下さったのだった。
「!? 仰せのままに。」
私は無事に
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その夜、彼に『神様に報告したところやはり認められたわ、神様も手を焼いていたみたいよ。
詳しいことは明日教えるから、今日はもう遅いし寝なさい。』と書いて、Limeを送った。
そして私は、どうやって彼に魔力に馴染んでもらおうかと考えるのだった。
翌日、彼がクラスに入ってきたので、彼に目配せしようとしたが、周りの目もあるので止めることにした。
昼休みに弁当を持って屋上に来るように彼に言ったので彼を待っていた。
そして彼が来ると手招きし、彼が私の側まで来ると私は話し始めた。
「こんにちは、松下くん。まず異世界に向かう事が正式に決まったわ。それに関してなんだけど、正直言うと今から行くと体が崩壊するわ」
「えっ!? それじゃあどうするんですか!?」
「まぁ落ち着きなさいってば。それを回避するための用意があるから。」
体が崩壊すると聞いて彼は不安を感じたのだろうが、それを聞いて彼は安心したようで、私にその用意とは何かと聞いてきた。
「それはズバリ、異世界の魔力に体を慣らすことね。世界には別々に異なる魔力が存在している。魔力を利用して生きている以上他の世界の魔力では生きていけないの。生きれるようになるには、ちょっとずつ異世界の魔力を取り込んで体に馴染ますか、私のような存在になることよ。」
「でもどうやって魔力を馴染ますんです?」
彼の質問は予想通りだった。
なので昨夜考え込んだ末に決めたことを話した。
「それは異世界の魔力が籠ったものを食べるのが1番手っ取り早いわ。」
どうやって異世界の魔力が籠ったものを食べるのかと考えているようなので、私はそれに答えた。
「なんのために弁当を持ってくるように頼んだのかわかる? それはこれに少しだけ私の魔力を込めるためよ。そうしたら異世界の魔力にも馴染みやすくなるし、初めて違う魔力を取り込むのには丁度いいの。ほら、弁当を出して」
彼は私の言うままに弁当を出した、そして私は弁当に向かって手を伸ばして少しの間触れ、魔力を流しこんだ。
驚いているようなので簡単に説明した。
「これが魔力を込めるってことよ。今、松下くんの弁当には私の魔力が込められているの。個人の魔力ってその人に馴染んだもので、それを少し弁当に込めたのだから擬似的に私の1部みたいなものになっているのよ。」
それを聞くと彼は何故だか食べるのを躊躇っていた、それを見かねた私は、彼の口に弁当を放りこんだ。
「ほら、昼休みは有限なの。早く食べてしまいなさい。」
そう言って私は彼に魔力のこもった弁当を食べさせた。
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そうして弁当を食べ終えさせると、どれだけ魔力が馴染んでいるのか確認しだが、雀の涙しか馴染んでいなかった。
どうやら彼の魂が異常に大きいことが原因のようだった。そうしてどうしたもかとしばらく考え込み、決心した。
「この調子だとあなたに魔力が馴染むのに時間が掛かりすぎる。なのでこれから松下くんの朝、昼、晩のご飯は私が用意しますのでそれを食べて下さい。良いですね?」
「えっ!? これから毎食天野さんの手料理!?」
彼の反応はまともだが、恥ずかしいから2度も言わせないで欲しい。
「…そうだけど何か?」
彼はその事実がよほどのショックだったのだろうか固まっていた。
けれどもまだ言うべきことがあったので恥ずかしさを堪えて続けて言った。
「あ…あと、それから松下くんの家はどこ?これから魔力を込めたものしか松下くんは食べてはいけないから住み込みで食事管理をする必要があるので家を教えて欲しいんだけど…」
年頃の男女が同棲するなんてことを言ってしまったことの恥ずかしさで、私の顔は真っ赤になっていた。
「…天野さんが…僕の…家で…寝泊まりする?」
その事実に耐えかねたのか彼は気を失って倒れてしまった。
私は倒れてしまった彼をどうしようかと、慌てるのだった。
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