第6話 りべんじまっち

(とうとう見つけたわ!それにまだ気づかれてない!このまま奇襲を…)


 しかし、アタシは違和感を感じた。


(…でもアイツら、なんで街道を…)


 アイツらの目的は城の南側からの侵入だと思っていた。

 しかし、あのまま街道を走り続ければ、西門まで行ってしまう。

 湿地帯は渡らないのだろうか。


(いや、夢の中では鎧に泥がついていた)


 迂回したのであれば、泥はつかない。


(あぁ!ワケがわらないわ!)

 

 しかし、現にアイツらは目の前にいるのだ。

 夢と多少違っていても、このまま奇襲してしまえば、それで問題はないのではないだろうか。


「陛下!どうするのです!?」

「…アイツらはまだこっちに気づいてないわ!このまま奇襲するのよ!」

「しかし、本当に彼らなのですか!?一般人の可能性も…」

「…」


 そうだ。

 確かにその可能性もなくはない。

 アイツらは湿地帯を通っていないのだ。

 夢と違うことが起こるなら、ド軍が魔王城を襲撃しない可能性すら出てくる。

 あの三人もたまたま容姿が似ているだけということもあり得る。

 では、とりあえず拘束するというのはどうだ?

 それも無理だ。

 本当にアイツらなら、そんな余裕はない。

 拘束しようとしたところで逆に殺されてしまう。


(ダメだ!考えてる時間なんてない!)


 夢が本当なら、アタシは殺される。

 アタシだけではない、すべての魔族の命運がかかっているのだ。


(やるしかない!でも…)


 それでも汚れ役はアタシ一人で充分だ。

 ドヴィーたちに無実の人を殺させてしまうわけにはいけない。


「ドヴィー、ロコ、奇襲はアタシ一人でやるわ。アナタたちは後ろからついてくるだけでいいから!」

「…」


 覚悟を決め、飛竜を旋回させる。

 ドヴィーとロコもアタシに続く。


(魔力飛行!)


 飛竜に念話で指示を出す。


キィィィィン!


 目の前の景色気が次々と後ろに流れていく。

 飛竜が音速を超える。

 風を切る音はどんどん大きくなっているが、超音速のため、この爆音で気づかれることはない。 

 アタシと三人との距離がグングンと縮まっていく。


(…頼むからこっち見ないでよね)

 

(…あと少し)


(…あと…)


(今よ!急上昇!)


飛竜が羽根を広げ、気流を捉えて滑り上がる。

あの威力のまま魔斬撃をお見舞いしたいのは山々だが、超音速の飛竜は魔斬撃よりも早い。

そのため、一旦、スピードを殺す必要があった。

飛竜から飛び降りたアタシはそのまま急降下する。

しかし、三人とは少し離れた位置に向かって。

その理由は、


ドウンッ!!!


(ドンピシャね)


「ぐあっ!」

「ヒーヒヒヒン!」


 遅れてやってきたソニックブームが三人を直撃する。

 これも魔力飛行の効果の一つだ。

 全速力の馬から落馬した三人はちょうどアタシが目指している位置に転がり込む。

 やつらは落馬のダメージからすぐに立ち上がることができない様子だが、上空からの異音に気づき、こちらを見上げる!

 

 (遅い!)


 すでに射程距離に入っている。

 足をついたままの三人はアタシの攻撃を避けることもできないだろう。


(でも、本当に夢を信じていいのかな?本当にアタシを殺しに来るの?)

 

 覚悟が揺らぐ。

 そうしている間にも距離は縮まり、ようやく三人の顔がはっきりと見え…


―!


「ぶっ!はははは!」


 笑いを抑えきれず、軌道を外れたアタシは奥の茂みに墜落する。


ずべしゃー--!


「うっ、ぺっぺっぺ…」


 笑いながら落ちたせいで、結構な草や砂やその他諸々を食らってしまった。

 笑いをこらえきれなかったのは、あいつらのビジュアルのせいだ。

 恐らく”変化の魔法”を使ったのだろう、三人はゴブリンの姿をしている。

 実際、彼らを知らない者なら、本物のゴブリンと見間違うだろうが。


「あ、アンタたち、それ変装のつもり!?」


 なんとか吹き出さずに言えた。


「どういうことですか?というか、大丈夫ですか!?」


(まぁ、空から人が落ちてきたら心配するか)


 しかし、自分たちも落馬したのに、なかなか優しい奴である。


 ヴァウン


 後方で飛竜が着陸する音が聞こえた。

 ドヴィーたちが追いついたんだろう。


「陛、いえ、ヴァレさんの言う通りだったようですね」


 ドヴィーが戦闘態勢でアタシの横に立つ。

 アタシを陛下と呼ばなかったのはアイツらを敵と認識したからだと思うが、


(でも、なんで敵だと認識したんだろう?)


 アタシはドヴィーに敵はヒト族だと説明している。

 だから、ドヴィーからすれば、アタシが三人のゴブリンを襲撃しただけにしか見えないはずなのに。

 ゴブリンは魔王国の立派な国民だ。

 魔王軍にもゴブリンやオークから編成された白鬼部隊がある。

 ドヴィーの目から見れば、アタシが罪もないゴブリンを虐めているだけにしか映らないはずなのに。

 ドヴィーはなんでアイツらが敵だと、


(あっ、そういうことか…確かにおかしいわね)


 ちなみに、ロコは土草まみれのアタシを見て、飛竜の上で口を手で抑え、笑いをこらえながら震えている。


(…後で殺す)


 それにしても、良いのか悪いのか、やはり夢は正しかったらしい。

 少なくともコイツらが何か良からぬことを企んでいるのは間違いない。

 アタシは魔剣の柄に手をかける。


「な、何かの間違いでは!?私たちはただのゴブリンの商人ですよ!?」


 フード男は慌てているがアタシは気にも留めない。


(白々しい…)


ザンッ!


 アタシは躊躇なく魔斬撃を放った。

 馬を守るためか、やつらは回避せずに魔斬撃を受けた。

 もちろん、これで死んだとは思っていない。

 砂煙の中から、光の球体が現れる。


「マジックシールド!?」


 ドヴィーが口をあんぐりあけて驚いている。


(そりゃ、そーなるわよね。アタシも初めて見た時はビビったもん)


 いや、実際に見るのはアタシも初めてか。

 あまり初めてという感じはしないが。


「なんなんですか!いきなり攻撃するなんて!」

「わかんないの?ヒト族がわざわざゴブリンに変装までして魔王領を馬で爆走してれば、攻撃されたって文句は言えないはずよ?」

「何を言っているんですか!私たちはヒト族なんかではないですよ!本当にゴブリンの商人です!何かの勘違いですよ!」

「嘘ねっ!まぁ、ぜんぜん気づいてないようだから、教えてあげるわ。ゴブリンはね、敬語使えないの」

「!!!」

「実際には”使わない”が正解ね。一般にはあまり知られてないけど、ああ見えてゴブリンは民主的な種族なの。それで、誰にも敬語は使わないのよ。」

「ああ!もうバレてんじゃねーかよ!こんなダセー格好までしたのによ!」


 諦めたポニーテール男はゴブリンの変化を解き、懐かしさとウザさが交じり合ったヒト族の姿に戻った。


(リアルで見るとより一層、ムカつくわね)


「だいたいねー!ポニーテールのゴブリンなんて見たことないわよ!まぁ、わざわざ変化してまで、そのダサいヘアースタイルを貫いた根性だけは尊敬してあげるわ!」

「なんだこのアマ!」


 そのままポニーテール男が切りかかってくる。


(早いっ!)

 

 コイツの踏み込みの速さも夢と同じだ。

 しかし、一度経験してる分、十分対応できる。


スンッ!


 男の攻撃を軽く後ろに飛んで避ける。

 そのまま男の襟首を掴み、前のめりになっている男の顔面に向かって膝蹴り放つ。


ゴスッ!


「うっ!」


(夢のおかえしよ!あれっ?夢でもダメージを受けたのはコイツだったか。ゴメン)


ギュルン


 そのままアタシは軸足を回転させ、


ドスッ!


 中段後ろ回し蹴りを男のミゾオチに叩き込む。

 盛大に吹っ飛んだ男は弧を描き、


バシャーン!


 運悪く湿地帯のドス緑色の沼に墜落した。


(まぁ、狙ったんだけどね)


「いよっしゃぁぁぁ!」


 ついつい叫んでしまった。

 なぜかとてつもなく叫びたい気持ちになったのだ。


「ヴァレさん!」


 喜びを嚙みしめていたのも束の間、ドヴィーの叫び声が飛んでくる。


『偉なる眼!』


 聞き覚えのある嫌な言葉が聞こえた。


「みんな!アタシの後ろに!」


 アタシはドヴィーたちの前に滑り込み、剣を構える

 しかし、今回は剣で受け止めるつもりはない。

 どうせ無理だということはわかっている。


(魔剣よ!盾となれ!)


 魔剣が形状を変え、アタシの身長ほどの大盾になる。

 まだ飛竜に乗ったままのロコもようやく状況を理解したのか、アタシの後ろに避難する。


(コイツ…妙にカンだけは鋭いのよね)


ビュィィィィン!


 フード男から二本の赤い光線が伸びる。


「っく!」


 大盾で光線を受け止める。


ジジジジジジジジ…


 ランダムに動き続ける光線がジリジリと大盾を焼いている。

 大盾のおかげで、ドヴィーたちに光線が当たることはないが、このままではアタシは反撃ができない。


「陛下、この光線は当たり続けると徐々にダメージが増加していきます!」


(なんですって!?)


「でも、どうしろってのよ!アタシは攻撃できないわよ!」

「少し耐えてください!もうすぐ魔法が完成します!」

「わかったわ!でも急いでっ!」


ジジジジジジジジ…


 光線が目に見えて太くなってきてる。

 鎧と同様、大盾もアタシの魔力を吸ってダメージを相殺している。

 大盾に吸われている魔力量が増えているのか、立ち眩みが出てきた。


(これ、やばいかも…思ってたより、消耗が早い…)


「このくそアマがー!…おえっ!飲んじまったじゃねーか!絶対に殺す!」


 ポニーテール男も沼から上がってこちらに向かってくる。


(ヤバイ…今、横から攻撃されたら…)


「ドヴィー!早くなんとかして!ポニーテール男も来てる!それにもう魔力も持たないわ!」

「もう少しです!変数宣言完了…インパクトクラスからインスタンスを生成…例外処理を無視…」


 ドヴィーはブツブツといいながら、目の前に見えない板でもあるかのように、空中に魔法で文字をスラスラと書き続けている。


「古代文字!?」


 フード男が驚きの声をあげる。

 当然である。

 古代文字を知ってる人物でさえ大陸でも数えれる程しかいない。

 にもかかわらず、ドヴィーはそれを魔法に使っているのだから。

 これこそが、古代史オタク、かつ、古代魔法オタクのドヴィーが偶然発見したオリジナル魔法、”古代文字魔法”だ。


「まさか!龍王ドヴィジャン・ジャンコル!?」


 どうやら、ドヴィーの魔法オタクっぷりはド王国まで轟いているらしい。

 危険を察知したフード男は光線の魔法を中断する。


(ふう…)

 

 大盾の魔力消費が止まり、解放感で体が満たされる。

 いつの間にか、冷や汗で体がベタベタだ。


「お待たせしました!」

 

 魔法の完成と共にドヴィーの目の前にあった古代文字列が処理を開始する。

 次々と文字列が下から上へと流れていく。


「アレル!レヴェッカの後ろに!」


 フード男が叫ぶと同時に、ポニーテール男は後退し、筋肉女がマジックシールドを発動する。


『赫灼火よ!』


「は?ただのファイアーボールじゃねーか!」


 ポニーテール男の言うように、ドヴィーはただのファイアーボールを放った。

 手の平ほどの火の玉がマジックシールドに向かって飛んでいく。


(でも、あんまり甘く見ない方がいいわよ…)


 ファイアーボールは空中でグツグツと動き始めた。


「何か変です!避けて!!」

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