不問

サンタになりたい人生だった【不問2】【10分】

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https://kakuyomu.jp/works/16817139555946031744/episodes/16817139555946036386


【あらすじ】

 クリスマスの夜の喫煙所、先輩がしみったれたため息とともにしみったれた事を言っているので、ちょっと付き合ってあげる優しい後輩の話。または先輩が変身する話。


以下本文

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先輩:はあ……

後輩:先輩どうしたんですか? こんなビルの隙間の薄汚れた喫煙所にぴったりなため息なんかついたりして。

先輩:表現が辛辣しんらつすぎない? いやぁ、ちょっと物思いと言うかなんというか。

後輩:クリスマスなんだから、浮かれムードに乗っかってきましょうよ。

先輩:いやそれだよ。クリスマス。

後輩:ひとりで過ごすのがいやだなーみたいな話です?

先輩:違うわ。そんなんで悩む年じゃあないって。そうじゃなくてさ、夢って何でも叶うわけじゃないよなーみたいな事を思うんだよ、この時期になると。

後輩:子供が夢見る日に何いってんですかこのオトナは。夢なんかいまさら、あってもなくてもどうでも良いじゃないですか。

先輩:や、だから、自分が子供んときに見てた夢、叶わなかったなーとか思っちゃったりするわけだよ、クリスマスになると。

後輩:まぁ、私も海賊王にはなってませんけど。いうて、子供の頃の「〇〇になりたい!」なんて、本人もよくわからずに、とりあえずウケそうなこと言ってるだけじゃないですか。

先輩:子供が夢見る日になんて事言うんだよ……。

後輩:で?

先輩:『で?』?

後輩:なんだったんです? 先輩の夢。いまだに物思いにふけるってことは、とりあえずの夢ってわけでもなかったんですよね? なんだったんです?

先輩:サンタ。

後輩:なんです?

先輩:サンタになりたい人生だった。

後輩:あの、それは、比喩的なやつですか? 家庭を持って、子供にプレゼント渡したかった的なことですか? それなら、あきらめるの早すぎでしょいくらなんだって。

先輩:いや、もっとガチのやつ。

後輩:あ! あれですか? 北欧の、フィンランドでしたっけ? 職業としての公認サンタがあるって聞いたことあります。

先輩:それはグリーンランドのやつ。でもそれとも違う、本物のがあるんだよ。そこでサンタを目指してたんだけど、適性がなくてダメだったんだ。子供の頃は、何にだってなれると思ってたけど、やっぱり人間には限界ってもんがあるよなってさ。サンタになりたい人生だったよ。

後輩:はあ、それは……残念でしたね。

先輩:ま、役回りだ。仕方ないよ。こんな話につき合わせて悪かったな。変身。

後輩:いえ別に――今『変身』って言いました?

先輩:ぬおーーー

後輩:うわあ、先輩の筋肉がはちきれんばかりに盛り上がっていく! まるで野生動物のようだ。毛皮、先輩、毛皮が! とてもあったかいです! 中指と薬指が伸びてる! まるで鹿の蹄のようだ! あああ、痛たたたた、角! 角! 角当たってますって!

先輩:あ、ごめんごめん。四本脚になると、ちょっとな。身体の幅がわかんなくなって。

先輩、あんたさっき人間には限界があるって言ってませんでした!?

先輩:言った。

後輩:トナカイになるのは人間の範疇じゃないです。

先輩:これの適性はあったんだ。

後輩:それの適性ってなんだよ。

先輩:いやぁ、ほら、あれだよ。ソリ引くやつ。……そろそろサンタ迎えに行くけど、乗ってく?

後輩:タクシー乗ってくみたいに言わないでください。すごい興味ありますけど、このあと予定あるんですよ。

先輩:そうなの。じゃあ、サンタによろしく言っとくわ。

後輩:先輩、毎年トナカイやってんですか?

先輩:そう。

後輩:……りっぱじゃないですか。

先輩:え、なに?

後輩:何でもないです。今年も、なんていうか、がんばってください。夢のサンタじゃないかもしんないですけど、ちょっと先輩のこと見直しました。サンタさんにもよろしくお伝えください。

先輩:あー、ありがとう。でへへ。面と向かって言われると照れるな。じゃ、サンタ迎えに行ってくるな。

後輩:はい。行ってらっしゃ……い……? 先輩、歩いて行くんですか? ここはこう、空を駆けていくとかだと思うんですけど?

先輩:でもエレベーターホールで待ち合わせだから。

後輩:本社ビル内でサンタ待つんですか?

先輩:うん。だって、うちの課長だし。

後輩:滝沢課長サンタなの!?

先輩:声大きいよ。あ、来た。

後輩:あ、お疲れ様です課長。

先輩:いつもお世話になりますー。ソリは駐車場の方に回しておきましたんで。はい。有給のご承認もありがとうございました。お荷物お持ちしますね。角にかけて頂けると。はい。ありがとうございます。(後輩に)じゃあ、我々は行ってくるから。

後輩:行ってらっしゃい……。

後輩:あ、着信(電話を受ける)。ごめん、いま会社出るとこ。うん、すぐ行く。……ねえ、ちょっと知りたいんだけど、サンタクロースの養成所って知ってる? いやなんか、そのアイスランドのやつ以外にもあるらしくて。うちの先輩が、そこの出身だって言っててさ。

後輩: そうねぇ、サンタクロースって、わりと近所にいるのかもしれない。隣の部署とか。

後輩: わかったわかった。急ぎます。じゃ、あとでね。

後輩: ……変身。

0:後輩、ジングルベルを口ずさみながら立ち去る。

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