ワンダー【一人読み10分】

【PCやタブレット使用であれば、画面右上の「ぁあ《ビューワー設定》」から、組み方向を縦組みにすると読みやすいかと思います】


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https://kakuyomu.jp/works/16817139555946031744/episodes/16817139555946036386


 朗読につき、読み手の性別は問いません。


<以下本文>



 とっぷり暮れた農道に軽トラックのエンジンもとろとろ鳴り、帰宅して仏壇のを鳴らして両親に手を合わせ、遺影を手に梯子はしごを登る。

 古い梯子はしごはきしきしと音を立て、俺たちは屋根の上に出る。


 お前が十二歳の時に作ったこの「台」の役割は、今日で終わるはずだったけれど、意外と、俺はこの場所が気に入ってしまった。

 七月三日、夜の七時四十八分、南寄りの空を東から西へと流れるささやかな星。

 六年前と同じように、俺たちは星を眺めて待っている。


 十六歳の俺に突然できた妹、お前はまるで謎の生き物に思えた。

 だってそうだろう。屋根の上が一番空に近いから登れる台を作れって言いだす妹が、謎でなくてなんなんだよ。

 お前は俺のお下がりのスマホでポチポチ何か調べては台に登り、寝転がり、親父とお袋をさんざん心配させて、

 家を出て、

 街をでて、

 国を出て、

 地球を出た。



 お前を突き動かしたのがなんだったのか、俺には全然わからない。

 でもまぁ、この台の上は、お前が「観測台」と呼んだこの台の上は、気持ちがいいし、俺も少しは勉強したよ。よくわかる星座とか、初めての天文学とか、そういうやつだ。

 七月三日、夜の七時四十八分、南寄りの空を東から西へと流れるささやかな星に見える光。

 お前を乗せて、火星から戻ってくる船の光。


 妹よ。

 とうもろこしは、今でも好きか?


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