第11話 自覚(悪)後編
京都駅を降りた俺は、最寄りのコンビニに寄った後、分家の中で唯一まともに話の聞くやつの元に行くことにした。
バスで三十分ほどかかるところにある屋敷に向かい、軽く挨拶を交わしてそいつの元に向かう。
「久しぶりだな、尊」
「これから殺されるのにやけに余裕だな、
壮馬兄」
「お前に殺されるんだ、未練も無くなるさ」
壮馬兄。
本名秋宮壮馬。
本部の中で最も母さんと仲が良く、俺の思いも全て受け止めてくれる唯一の人物。
この人がいたから今まで一族全員を殺すことは踏みとどまっていた。
そして今回の計画を依頼した張本人でもある。
ことの真相を話そう。
約四ヶ月前、
珍しく壮馬兄から電話があった。
内容は、
『自分を含めた一族全員を始末してほしい』
と言ったものだった。
「どうしてだ?」
「この十数年間、どうやって復讐に燃える君を止めようかずっと悩んでた」
「それなら」
「でもね、その間僕もいろいろあってね、この一族が自分を含めどれだけ腐っていたかを良く理解させられたんだ。どれだけいい案を出しても一切方針を変えようとしない上層部、無くならない賄賂と金銭による支配。本部以外をゴミとみなす老害ども。だから君の考えが嫌というほどわかった。だから自分も考えてみたんだ。"これならいっそ一族全員を全て無くせばいいのではないか"ってね」
「…どうすればいい」
「だから最初に言っただろ?"君以外の一族全員を全て殺してほしい"って」
「どれだけのことかわかってるのか?」
「承知の上さ」
「時間はかかるぞ」
「招集を受けたって話は聞いているさ、四ヶ月もあれば十分だろ?」
「あんたには死んでほしくない」
「俺もこのクズの一族の血が流れてる、俺まで殺さないと何も変わらない、頼むよ尊」
「……わかった」
「ありがとう」
「ただし条件がある」
「…話くらいは聞こう」
その後小一時間ほど話した後、俺は殺害計画の構想に取り掛かった。
そして今に至るというわけだ。
「使用人は全て出払ってもらってる。大丈夫だよ、さぁ聞かせてもらうよ、君の練った計画とやらを」
「そんな固くなんなよ、今聞かせてやる、わかってると思うが、条件は飲んでもらうぞ」
「わかっているさ、今日1日は二人で計画を練ろうか」
「大丈夫なのか?」
「ちゃんと許可はもらってるさ、名目上の監視としてね」
「なるほどな」
ここから計画決行最後の1日が始まる。
そして翌日の朝、早朝から計画は決行する。
まず近くの分家の屋敷にいる人間を全員殺し、
その後その近くの分家の人間を殺しと壮馬兄の屋敷の周りを円を描くように分家の屋敷を襲撃していく。
次は建仁寺か。
既に時刻は朝八時を回っており、建仁寺に着く頃には十時頃になることは確定していたため、京都駅の近くのコンビニで買った携帯食料を食いながら建仁寺に最短ルートで向かう。
建仁寺に到着したところで事前に壮馬兄が教えてくれた裏口ルートから最速で全員を殺す。
証拠をできるだけ残さないように立ち回りながら人混みの中を通りながら上手く殺していく。
そして最後の人間を殺した後、表口から一般客に紛れて出る。
そこで失敗した。
人とぶつかったのだ。
咄嗟に謝りながら手を差し出し何もないように装う。
しかし相手が悪かった。
あのガキだったのだ。
しかも本人は俺のことに気づいているらしく言い逃れすることはできない。
「あぁ、君はあの時の」
とりあえず自分も覚えているように立ち回り何もないようにする。
「その節はお世話になりました」
言動が似ていて少しクズどもを思い出したことで少し苛ついたが平然を装う。
とりあえず適当に返してその場を離脱する。
『このまま人混みを進めば終わるな』
そう思った瞬間背筋が凍ったような感覚が襲う。
咄嗟に人混みを避け、誰一人寄らないような気味の悪い開けた場所まで進む。
あの時の感覚に従ったのは正解だった。
警察がいたためあのまま進んでいれば十中八九捕まっていただろう。
まぁ結局のところ失敗ではあるのだが。
逃げた先でガキと鉢あったからだ。
様子を見るにおそらく死体を見て俺を追ってきたんだろうな。
丁度いい。
俺は五年前から少しずつ溜まっていった殺意をぶつけるように持っていたナイフで殺しに掛かった。
しかし流石はここまで追ってきて息切れを起こしてないだけはある。
ガキは上手く避けながら応戦してきた。
これによって殺意が頂点に達し、本気で殺しにかかる。
少しづつ、しかし確実に押していき、浅くはあるが切り傷を増やしていく。
『経験が違うんだよ!!』
上手くガキの体勢を崩し、とどめを刺そうとしたところで
「君たち!何やってるんだ!」
サツがガキと一緒にいた子供と一緒にやってきた。
「チッ」
流石に京都府警を敵に回すのはごめんだ。
どうしたものかと悩んでいると近くの林から離脱のサインがはいる。
咄嗟にその林の中に入り、上手くサツの手を撒く。
そして安全が十分に確保できる場所まできたところで
「もうちょい合図早くできなかったのか?
壮馬兄」
「仕方ないだろ、君がアドリブを入れてきたんだから。むしろあんな勝手なことをしてるのにここまで対応が早いことを感謝してほしいくらいだよ」
「まぁ助かったよ、ありがとう」
壮馬兄は今回の計画においての条件の一つである。
『それで、どんな条件なんだ?』
『あんたには一族を全員殺すまでのサポートをしてから死んでもらう』
『そんなんでいいのか?』
『ミスは許さないぞ』
『誰に言ってるんだ?、これでもお前を除いたら狡猾さは一族随一って言える自信はあるんだぞ』
そんなことがあったため、今は俺の犯行後の逃走ルートから次のターゲットまでの最短ルートを報告するサポーターになってもらっているわけだ。
「これで1日目の目標は全て終わったな」
「これから伊勢に飛ぶことになるけどね」
そうだ。
これから伊勢に飛び、そのまま本部の人間を全員殺した後、壮馬兄を殺して今回の計画は完遂する。
「ならもう荷造りを始めよう、予定より三十分も早く終わったわけだし」
「そうだな、ナイフは置いてっていいぞ。
向こうに着いたら僕の使用人がまた別のものを渡すから」
「だから出払っていたのか」
「そういうこと」
こうして屋敷に戻った俺たちはすぐに荷造りを済まし、事前に壮馬兄がとっておいたチケットで伊勢に行った。
サン
「キャァァ!!!!」
サン
「が、、あ゛」
「やめるんだ!、尊!」
「やめなさい!!
何を考えてるのですか!!尊!!」
「何って、復讐だよ」
「復讐なんてやったところで何も生まれないだろ!!金か!?地位か!?ほしいならくれてやるから命だけは助けてくれ」
「うるせぇよ」
サン
「あ゛、、、が、」
ザク!
「だげ」
ザク!
「が、、………」
これで全部だな。
「終わったな」
「こんなあっさり終わらものなんだな」
「そんなもんだろ、さ、俺を殺してくれ」
「…本当に、いいんだな」
「今更だな、いいんだよ。どちらにせよ、これで俺も晴れて人殺しの共犯者だ。悔いはねぇさ」
「……そうか」
サン
「‥‥…‥」
「さよなら。俺が唯一、尊いと思えた人」
これで終わったんだ。
本当に、全部。
「これからどうするかな」
とりあえず、壮馬兄の屋敷に行ってことの本末だけは伝えよう。
「もう、いいよな」
その後、秋宮邸に戻った俺は、使用人にことの本末を伝え、壮馬兄が計画決行前に書いたと言われた遺書を受け取った。
遺書はなんとも壮馬兄らしい内容だった。
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