第11話 自覚 (善)

もうすぐ修学旅行二日目が始まる。

少し千桜のことを思い返す。

あの日、机の上で話しかけてくれたのが始まりだった。

彼女がいなければただただ目的に忠実に動くだけになっていた。

どんな時も支えてくれた。

離したくないと思った。

優しく接してくれた。

俺の背中を押してくれた。

そして何より、自分が「恋」をしていると気がつかせてくれた。

今日はあの子に、間宮千桜に恩返しがしたい。

告白はまだ考えていないが、皇の一件が片付いたら思い切るのも良いのかもしれない。

とにかく、今日は彼女が笑顔になれるように 努力しよう。

そんなことを思いながら二日目が始まっていく。






気づいたのは今年になってからだった。

ずっと一緒にいた人だった。

離れたくないと思った。

心優しい人だった。

何か失敗してもいつも励まし、私の背中を押してくれた。

いつも私を支えてくれた。

彼に出会わなければ、きっとこの世界は退屈で、色褪せていたと思う。

彼の声を聞くだけで幸せになった。

そんな人と、1日二人だけで過ごす。

嬉しさと恥ずかしさで胸が熱くなる。

頑張らなくちゃ。

他の女の子じゃなく、「私」を見てもらうために。

城田宗佑君にこの想いが届くように。

二日目が始まっていく。






修学旅行二日目が始まった。

軽くホームルームを行い、各々のグループに分かれる。

その後再びバスに乗り、最終集合地点である京都タワーまでたどり着く。

「ここからは自由行動の時間になります。各自、怪我のないように気をつけながら、存分に楽しみましょう」

担任の諸注意を書き終えた後、俺は千桜と合流した。

「それじゃ、いこっか」

俺の言葉に千桜は、

「うん」

と返事をし、行動をし始めた。



行こうかとは言ったものの具体的なルートはそういえば決めてなかったな。

そんなことを思っていると、

「行くところがないのなら八坂神社がいいんじゃないかな」

と一ノ瀬君が言ってきた。

いいかもしれないな、確かあそこは縁結びの……なるほどな。

「いつから?」

俺は小声で一ノ瀬君にそう聞いた。

「最近だよ、と言っても随分と前からそんな気はしてたけど」

なるほどな。

どうしたものかなと悩み始めた時、

「どうかしたの?」

と千桜が声をかけてきた。

俺は少し考えてから

「なんでもない、そうだね、八坂神社に行こう」

と言って八坂神社に向かうこととなった。

幸いにも徒歩で十分ほどで着く距離だったため、八坂神社には思ったよりもすぐついた。

「なんか赤ってよりピンクに近い色合いだね」

千桜がそう呟く。

ご丁寧にもついてきた一ノ瀬君がここのご利益を説明してくれた。

案の定顔を赤らめた千桜にニヤニヤしている

一ノ瀬君を戻らせ、少しあたりをぶらつくことにした。

その後、定番である縁みくじを二人でやり、

八坂神社を後にした。

その後向かったのは建仁寺だ。

そこは千桜が一度行って見たかったらしく、近くということもあり、行くことにしたのだ。

『そろそろ昼のことも考え始めるか』

と思いながら建仁寺に向かう最中に人とぶつかってしまった。

「すみません!」

「あ、すみません」

と互いに謝ったことで一瞬顔が見える。

その顔を見た瞬間に背筋の凍る感覚が走った。

皇だったのだ。

何故ここにいるんだ?

どうして建仁寺から出てきているんだ?

現在地は建仁寺の入り口手前だ。

そんなところから出てくる人間なんて寺の関係者か観光客しかいないが、皇にそんな暇も関係性もなかったはずだ。

準備期間の間に見せてもらった。資料、そこには取り調べを受けた人間の関係性から何からが調べられる図全てが記載されているものだった。

当然皇も対象に入っていたが京都どころか関西の人間とも繋がりはなかったはずだ。

そんなことを考えていると

「君はもしかして五年前の」

「その節は大変お世話になりました」

とにかく物腰の柔らかいように話す。

見ればわかる。

相手は明らかに格上だ。

下手なことは出来ないし、ここには千桜もいる。

「そういえば。一年前に知り合いが君にあったと言っていたけれど、知らないかい?

だいぶガタイのいいおじさんなんだけどね」

ガタイのいいおっさん……あぁ、あいつか。

「えぇ、知っていますよ。あの人がどうかしたんですか?」

「彼が先日亡くなってね。とても健康には気を配っていたんだが、通り魔に刺されたらしい」

嘘だな。

恐らく都合が悪くなって殺したのだろう。

その事件は向こうで見たが、死体の形跡的に恐らくはそうだろう。

「それはまた悲しいですね。まだいろいろ話したいのですが、見学学習の最中ですのでここで」

「わかったよ。邪魔してすまなかったね。

それでは」

「はい」

一旦退かなければ。

そう思いさっさと撤退しようとすると。

「吐かないように気をつけてね〜」

去り際にすめらぎがそう言った。

背筋が再び凍りつく。

まさか!?

千桜も聞いていたらしく、二人で急いで建仁寺へ向かった。

そこにあったのは案の定、二つの死体だった。

急いで警察に連絡し、千桜にここに留まるよう伝える。

「宗佑君は?」

「俺はあの人の特徴だけでも覚えに行く」

「…わかった」

千桜のその言葉を聞いた瞬間、全速力で皇を追い始める。

まだ間に合う。

記憶を頼りに皇が向かいそうなルートを進み続ける。

『見つけた!』

皇の肩を掴んだと思ったらそのまま受け流される。

すぐに姿勢を立て直し、睨みつける。

「おいおい、酷いな〜。せっかく親切に教えてあげたのに」

「あんたが殺しといてまだそんなこと吐けんのかよ、やべーぞお前」

「おいおい歳上だぜ〜、もっと言葉遣いってもんを学べよ!!」

その言葉と共に小型のナイフで切り掛かってくる。

ギリギリで回避できたがなかなかにヒヤヒヤするな。

まぁ人生初の殺し合い、緊張しない方がおかしいか。

「よく動くね、反射神経があいつに似てるよ」

「あいつって誰だよ!」

こちらも正当防衛にあたる範囲で応戦する。

[平井裕斗だよ]

その言葉に一瞬動きが鈍ってしまった。

そこを皇が見逃すはずもなく、二の腕に浅い切り傷を負った。

『ここが退き際だな』

撤退のルートを脳内で作り出していると。

「逃すと思った?」

容赦ない追撃される。二の腕の傷は浅いと言っても出血はしているため、長期戦は難しい。

気づけば防ぐので精一杯になっていた。

「ねぇ?本当にできると思った?自分が平井の仇を取るんだーって。できると思った?ねぇ!?」

ギリギリのせめぎ合い、しかし少しずつ皇が有利になってゆく。

『まずい!』

そう思った時だった。

「城田君!!」

千桜が数人の警官と共に現れた。

「チッ」

皇が逃走した。流石に俺に追う気力は無かったが、一人の警官が後を追う。

しかし、すぐに行方がわからなくなってしまった。

「大丈夫!?」

千桜が俺の方に向かってくる。

左腕の傷は少し痛むがそこまでではない。

『完敗だな』

悔しさと屈辱を味わいながら俺はそこに倒れ込んだ。

その後、取り調べや怪我の処置のために時間を使い、二日目は終わりを告げた。







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