第1話 牡丹王国と人質①



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…………………………………………





雛美火『…人質として、この部屋に入る事になりました』


「……………」


…気のせいかな?

今、よからぬ言葉が聞こえた様な…


「……人質……」


雛美火「はい…」


「人質って私の事ですか?…」


雛美火「はい…非常に申し上げにくいのですが…その通りです」


そう一言呟き雛美火さんは顔を伏せた。



なんてこった…

気のせいじゃなかった…


人質って…人質ってあれだよね

銀行強盗が金を要求しろ!金を渡さなければ

人質の命が危ないぞ……的な


「…あのっ どうして私が人質なんでしょうか

私は何も持っていない ただの一般市民ですよ

人質にした所で何も良い事なんて…」


私が人質なんだと理解した途端、

なんだか怖くなった。


…ここで何されるんだろう…

何で私なんかが…


震える身体を落ち着かせる様

手で揺する。


それでも身体の震えは止まらなかった。


雛美火「…ごめんなさい…それが

わたくしにも分からないのです

突然……」


雛美火さんが言うにはこうだ。


事の始まりは昨日、

屋敷の中で執務をしていた所、

牡丹王国の国王(雛美火さんのお父さん)に

地下の部屋に来るように突然言われた。


特に気にする事なく、

地下の部屋に行くと、

鉄格子が張られている部屋で

気絶した私が布団で横たわっていたらしく

驚愕した。


これはどう言う事なんだと

国王に問いただした所、

国王は「その娘が目覚めたら儂の所に連れて来い 訳はその時に話す…」と言われた。


雛美火「………という事なんです

父上は人質とか汚い真似はしない筈なのに」


「……そう…なんですか

…じゃあ雛美火さんがここに来たのは…

もしかして…」


雛美火「はい、真澄さんが目を覚ましましたので、今から国王の元へ向かいましょう」


彼女は唇を強く噛み

あまりにも強く噛んだ事によって

つぅと口元から血が流れた。


その姿を見た瞬間、

彼女も嫌でやっているんだと分かり、

同時にどんな理由であろうと

この王国は絶対王政で事を決めているんだと

理解できた。


……ここは、言う事を聞いた方がいい

変に行動してしまったら、きっと…


すぅと一呼吸をして

まっすぐ雛美火さんの目を見て


「分かりました 雛美火さん

お手数ではございますが、

よろしくお願い致します」


なるべく震える声を抑え、

頭を下げた。


雛美火「………っ……少々お待ちくださいね」(真澄さん……この状況の中で怖くないの?!それに理不尽に人質にされてるのに怒らないなんて……)


彼女は鍵を巾着から取りだし、

鍵穴に差込んで……


ガチャ ガチャ……ガチャ!!


…と音を立て鍵穴を解き、

鉄格子の扉をゆっくり開けた。


雛美火「……もし危ない目に

あいそうになったら、貴方を守ります…

行きましょう」


すっと彼女は私の目の前に、

手を差し出した。


「……はい」


私は彼女の差し出された手を掴み

鉄格子から出た。



……私どうなってしまうんだろう…



不安と恐怖でいっぱいだ。


私は気を間際らせる為、

辺りをキョロキョロ見渡しながら、

雛美火さんの後をついて行った。



……………………………………………



……………………………………



ギシ



ギシ ギシ


ギシ



私は雛美火さんの後ろに付いて

必死に階段を登っている。


……いつまで続くんだろう

この階段……まだまだあるみたいだし

正直に言うとキツい……


ぜー…ぜー…と息を切らしつつ、

階段を重い足で一歩一歩よじ登る。


雛美火「真澄さん……?」


私の息切れに気付いてくれたのか

前を向いて歩いていた雛美火さんが

後ろを振り向いた。


雛美火「…!大丈夫ですか?!

すごい汗 …ごめんなさい無理をさせて

しまって」


私の姿を見るなり、あわてて駆け寄り

流れる汗をハンカチで拭いてくれた。


「…だっ…大丈夫…です!…ぜぇ…ぜぇ…」


…と言いつつも、身体は既に限界…

我慢できずに階段にへたり込んでしまった。

我ながら情けない。




雛美火「…大丈夫ではなさそうですね

……失礼ですが、真澄さんの種族は…」


「……?……人…間……です……」


そう答えた途端……




雛美火「…にっ人間?!

父上は【獣人か妖精】…って

あの人…人質にするなら

ちゃんと調べろよ!!

なんて場所に閉じ込めているんだ!

死ぬじゃないか!!」


顔を真っ赤にしながら怒りに震え、

横にある壁にゴンッと手を打ち付けた。


すると…



打ち付けられた壁はピシピシと

ヒビが入り…


ガラガラガシャーン…



音を立てて崩れた。



「……………ひゅっ……」


あまりの光景に思わず、

呼吸が止まりかけた。


壁って簡単に拳で崩れるものだっけ…

いやいやいや、普通はありえない


あんな細い身体に一体どこに

そんな馬鹿力が……


雛美火「……真澄さん……」


「……な…んでしょう…か……」


雛美火「手荒な真似をします

先に言います 申し訳ごさいません。」


「……え?」…と呟いた瞬間、

私の身体は雛美火さんによって

軽々持ち上げられ、


たらい担ぎにされ…


雛美火「父上に言いたい事があるので、

急ぎますね」


私を担ぎながら物凄いスピードで

階段を駆け上がった。


「~~~~!!!」


あまりの速度で声も出せない…


大嫌いなジェットコースターより

速い!!!


怖い怖い怖い!

こんな恐怖、以前 狼姿のオキニスに

乗った以来の恐怖だ。


恐怖に耐える様、ギュッと目を瞑る。


景色を見なければ、

少し恐怖はやわらげると思って


その間にも…



階段を駆け上がる音…


視界が明るくなって…


地面を蹴って走る音…



バキャ!!!


……木の扉を蹴破る音 がした。



???「こらっ雛美火!!!行儀が悪いぞ」


雛美火「父上!なんて場所に真澄さんを

閉じ込めたんですか!!!

下手したら死んでましたよ!!」


???「なんて場所って地下部屋だろう?

今は人間の姿に変装しているが、

その娘、たしか獣人か妖精だろう

死ぬなんてありえな……」


雛美火「正真正銘の人間ですよ!!」


???「……なんだと……?!」



「……………」


……雛美火さん誰かと言い争ってる…

たらい担ぎにされているけど

止まっているみたい…


もう目を開けても大丈夫だよね…


そろー…と目を開けると、

2人の姿を目にして驚愕した。



2人とも黒いツノを頭にはやし、

爪は伸び尖っている。


口元には鋭い牙があり、

頬には模様、瞳は黒く染まっていた。





2人の姿は、





……まるで……『鬼』の様だった。











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