セントジョーンズワート

私は森の中にひとり、住んでいる。


私には小さな友達がいる。瞳がとても綺麗な黒猫だ。小さな、といっても私の体も小さいので彼女も私のことを「小さな友達」だと思っているかもしれない。


いつも私は庭で彼女と穏やかな時を過ごしていた。私が本を読んでいるとき彼女は大体、隣で静かに座っている。そんな彼女がそばに居てくれるだけで私は幸せだった。




ある日、私は森の中で同い年くらいの男の子に出会った。彼もまた、綺麗な瞳をしていた。彼はこの森を抜けたところにある村に住んでいるそうで、村でのできごとをいろいろ教えてくれた。彼と話すのは楽しくて、こんな感覚を初めて知った私は少し困惑した。暗くなり始めると、彼は『また来るね』と言って帰って行った。また、来てくれるって。その言葉が嬉しかった。


それから彼は毎日のように遊びに来てくれた。もうひとり、友達ができたのは彼が初めて。私は彼を庭に招いて、お気に入りのお茶を振る舞ったり、生えている植物について教えてあげたりした。私はますます彼のことが好きになったが、黒猫の彼女はあまり彼に懐かなかった。




初夏を迎える頃、彼の雰囲気が変わった。何が変わったのか分からない。香り、だろうか。私はあまり彼に近づけなくなった。


『家族にこの森のことを話したら、

 もう行くなと言われてしまった。』


そして突然こんなことを言うのだ。


『だから今度、僕の村においでよ。』




....それはできない。


村のあちこちに咲くあの黄色い花が、私は苦手なんだ。




【セントジョーンズワート】

こころのサプリメント。

ヨーロッパでは、魔除けの力があると信じられた。

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