カレンデュラ
子供の頃、秘密の遊び場があった。
そこは木々に囲まれた小屋で、遊ぶときはいつも親友とふたりだった。
親友はとても手先が器用で、よくいろいろなものを作っては僕に見せてくれた。木の枝のリース、花びらで染めたポストカード、どんぐり頭の人形。そのどれもが不思議な魅力に満ちていて、僕は「もっと作って」とよくお願いしていた。
僕は詩をつくるのが好きだった。そのほとんどは親友との思い出の中から生まれたもので、親友はいつも僕の詩を楽しそうに読んでくれた。それが嬉しくて僕は毎日のように詩をつくった。
僕たちはなぜか、他の誰にも見つからないように、ふたりだけの小屋で“作品”をつくり続けた。それくらい大切で、神聖な場所だった。
いつしか小屋はつくったものでいっぱいになって、まるで僕らだけの世界になった。とても居心地がよくて、幸せな時間を過ごせる場所。
夕方のチャイムが鳴る。
もっともっとここに居たいけれど、そろそろ家に帰らないと怒られてしまうし、なにより日が落ちてしまっては、電気のない小屋ではなにもできない。いつもこの時間に僕らの世界とはお別れだ。好きで好きでたまらないから、この小屋以外ではつくることができなくなってしまった。絶対に侵されない領域、壊されない世界がそこにあって、そしてそこに僕たちがいる。それで十分だった。
中学生になった僕たちは、勉強や部活で忙しく、なかなか小屋へ行けなくなって、ついに行かなくなった。
「成長したのだ」と思った。あれはただの遊びだったし、そんなことをする歳じゃなくなった、と。
そして大人になった今、ふと思い出したのだ。今あの小屋はどうなっているのだろう。行かなくなってからも、こころの中にはずっとその小屋はあったのかもしれない。
また、あの小屋へ行きたい。
【カレンデュラ】
別名マリーゴールド。
日没と共に花びらを閉じる特性をもつ。
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