ハイビスカス
家に帰ると、郵便受けに一通の手紙が入っていた。一画一画丁寧に書かれた文字を見て、すぐに君からの手紙だとわかった。
そこにはついこの間一緒に水族館へ行ったときのことが順を追って綴られていて、僕はあのときの君の鮮やかなワンピースの色を思い出しながら、もう一度手紙を介してデートをした。
電車には十分座れるスペースがあったが、僕たちはいつも電車に乗るとき壁に背を預けて並んで立つ。電車に揺られながら窓の外を眺める君は、初めてみる景色を楽しんでいる。
君は長く艶やかな髪を耳にかけていた。夏の江ノ島は雲ひとつない晴天で、その細く白い首元は太陽を浴びて一層僕の目を奪っていた。
お昼にロコモコ丼を食べて、口元を紙ナプキンでぬぐう君はとても満足そうだ。窓から見える海辺ではサーファーが列をなして歩いている。
水族館に着くと、君は『涼しいね』と囁く。
魚を眺める君は目を輝かせ、『ねぇ見て、』と僕に呼びかける。
———君は『ロコモコ丼おいしかったね』『小さなクラゲがとても綺麗だった』と、できごととその感想を思い出して手紙を綴っているのに、僕はそれらをあまり鮮明に思い出せなかった。僕はあのとき君のことばかりを目で追っていて、食べているものも行った場所もすべて背景に過ぎなかったのだと気付かされる。
それほど君は魅力的だよ。
僕はきっとこれからも時々この手紙を読み返しては、江ノ島の君とデートをする。
【ハイビスカス】
美しいルビー色と、
鋭さのあるさわやかな酸味。
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