第17話
墓地は、個人の亡骸を埋葬する神聖な場所であると同時に、その静けさに嫌われる場所でもある。これほど昼夜一転して扱いの変わる場所もそうない。
ジョンのタクシーは、ブロードシティを離れ、郊外に移り、穏やかな起伏のある、草原と林を抜け、この街の多くの死者が埋葬されている、セントラルセメタリーの見える場所へとやってくる。
白いモルタル製の壁と鉄柵の向こうには、墓地があるはずだが、薄暗くて見えず、車のヘッドライトに照らされた、壁が延々と伸びていた。
「このあたりでいい……」
「正面門まで送るが?」
「いや、どうせ鍵が掛かっている」
クレイは、そう言って、タクシーから降りて、トランクケースをタクシーのトランクから取り出すのだった。
「アンタ達は来るな。いいな?」
クレイは今度こそ釘を刺す。この時のクレイは、普段なら外しがちな視線をしっかりと、ジョンとリッキーに定めてから、彼等の瞳が返事をするのを待った。
流石に、クレイの気迫に押されたジョンとリッキーは頷くしかなかった。
返事を聞くと、クレイは、一本のペットボトルを取り出して、車の周囲をぐるりと回りながら、その内容物を撒く。
撒くと言っても水だ。特に悍ましい物を撒いたわけではない。
「なんだい?」
車窓から少し身を乗り出したジョンがそう訪ねた。
「呪いさ。墓地だからな、後でエクソシストの世話になるのもいやだろう?」
クレイはそう言って、にやりと笑う。
ジョンは特に迷信深くは無かったが、薄気味笑うクレイのそれには、流石に身震いがするのだった。
車から離れると、周囲には光が届かなくなった。僅かな街灯はあるが、それは周囲を照らすだけで背一杯だ。
墓地の深部を照らすには、ほど遠い香料だ。
街灯の明かりには、虫が集っており、あまり良い雰囲気ではない。静まり帰った墓地周辺で、街灯にぶつかる虫の音がガサガサと聞こえることのほうが、よほど薄気味悪い。
クレイはその中に、いや街灯より少し上の位置に、一匹のコウモリを見つける。
「見られていたのか……」
漸くその事に気がつく。だとすれば、自分はずっと付けられていたことになるし、さらに言えば、リッキーの宿の場所も知られていると言うことになる。
車から離れるべきではなかったかと、クレイは思うのだが、彼等が車から出なければどうと言うことはないだろう。
クレイは、車から離れると、トランクケースを持ったまま、軽々と墓地の鉄柵を飛び越える。
道のように捉えても、人間の運動能力のそれを遙かに超えていた。
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